210 賞金首 これで完結です。詳しくは後書き。
市場の木箱に山積みされたスモモ。その中にエヴリルとシノ、ボロックと俺は隠れていた。果物売りのおっかさんに頼んで、入れてもらっている。どうしてこんなことをしているのか? もちろん、バルトバをおびき寄せて退治するためである。
ティルルに露店をまた開いてもらい、キャンディを売ってもらっていた。ゴザの上に正座をしているメイド服。その姿がここからは良く見える。ふと、右隣にいるエヴリルがひそひそ声で不満を訴えた。
「スティフ、暑いわ」
「馬鹿、お前我慢しろ」
「もう一時間も経ったわよ。でも、バルトバは来ないじゃない」
「いいから静かにしとけって。来るかもしれないからさ」
「もう~、そんなこと言ったって」
確かに暑い。気温は30度近くあるのではなかろうか。汗の匂いに俺は軽く咳き込んだ。左隣にいるシノとボロックが焦ったような声で注意を呼びかける。
「スティフ、誰か来ました」
「ぐるるぅ、おい、バルトバがいるぞ」
「マジか」
ティルルのいる露店を睨み付ける。今、白いスーツの男が冒険者二人を引き連れて、飴の袋を手に取っていた。馬鹿め。自分が指名手配されているとも気づかずに、ぬけぬけとした面だ。俺は命じた。
「ボロック、行け!」
「グウォウ!」
木箱の中から銀狼が飛び出す。スモモがこぼれて地面にぼろぼろと落ちた。俺たちも立ち上がって外に出る。ティルルの元へと向かった。
「ちょっとあんたたち、スモモをこぼすんじゃないよ!」
後ろで果物売りのおっかさんが何か叫んでいるが、気にしている暇は無い。すいません、傷んだスモモは後で全部買うから許してくれよな。
ボロックがバルトバの腕に噛みついていく。その体を押し倒した。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと! 何をするんですかっ!?」
「おいてめえら!」
「この野郎!」
護衛の二人が何か叫んでいる。市場を通りかかる人々が慌てて距離を取った。
冒険者の一人、大剣を抜いた男がボロックに斬りかかる。
精霊の魔女っ娘が唱えた。
「――水弾」
シュンシュンシュンシュンシュンッ。
「うぐあっ!」
「痛っでっ!」
水の円球が冒険者二人に命中する。骨が折れる嫌な音が響いた。へっ、ざまーみろ。お前らの策略はここで頓挫だ。良くやったぞシノ。
ピンクの髪色の少女が剣をゆったりと構えて近づいていく。負傷した護衛の男たち、その二人に言い放った。
「貴方たちに用事は無いわ。用があるのはこのメガネの男だけ。死にたくなければ去りなさい!」
「こ、この女! 舐めやがって!」
「殺してやる!」
「やるの? へー、いいんだ」
「うらあああっ」
護衛の男が吠えた。大剣の袈裟斬りに振りかぶる。大振りの一撃がエヴリルを襲った。瞬間、魔人少女が走った。
一陣の風が吹く。
ゴスロリ服が黒い弾丸となって突き抜けた。男の大剣を受け流し、体を回転させてその喉に蹴りを放つ。ポキリと嫌な音が響いた。男が喉を押さえて地面に伏せる。
「づあぁぁああああっ!」
「この野郎!」
もう片方の男が弓矢を構える。
ブチッと嫌な音が響いた。
弓矢は放たれる事なく、男は地面に沈んだ。彼の後ろにはナイフを抜いたティルルが立っている。男のアキレス腱を切り裂いたようだ。
「痛ってえええええっ!」
「……油断大敵」
ティルルが感情の無い声でつぶやく。
俺は白いスーツの元へと歩み寄った。
「ボロック、どいてくれ」
「ぐるるぅ」
銀狼がバルトバの腕を離す。メガネの男に俺は話しかけた。
「バルトバさん?」
「な、何をしてくれているんだ君は! 腕が、腕が折れたじゃないか!」
バルトバが地面に背中をつけたまま、左手で右腕を押さえている。どうやらボロックに骨をかみ砕かれたようだ。ざまぁ。
俺は言葉を紡ぐ。
「バルトバさん、貴方は指名手配犯です」
「指名手配犯? 何を言っているんだ。分かりかねる!」
「金を返せば見逃します。返さなければ、殺します」
「ふ、ふふふ、ふざけっ。くっ、分かった。返そうじゃないか。いくらだ?」
「金貨五枚と大銅貨二枚です」
「く、くそっ! ステータスオープン」
バルトバが水色の画面を出した。銭袋を左手に握る。俺はその袋ごとふんだくった。中にはいくら入っているんだろうな? うはは、後で硬貨を数えるのが楽しみである。
「エヴリル、やれ」
「分かったわ!」
魔人娘が剣を構えてバルトバににじり寄る。その切っ先を、躊躇なく白いスーツの喉元に向ける。弓矢のようにしなるエヴリルの体。
「ま、待て! 話が、違うっ!」
「死になさい!」
ザクッ。
黒のショートソードの切っ先がバルトバの喉を貫いた。恐怖に染まった顔。噴出する血しぶき。バルトバが息絶えた。
「キャアアァァアアアッ」
この光景を見た女性が悲鳴を上げている。市場は騒然となった。人々が我先へと逃げて行く。商売をしていた人たちも商品を片付け始めた。誰かが呼んだのだろう、衛兵がやってきて俺たちに声をかけた。
「おいっ、君たち、何をしているんだ!?」
「待ってください、こいつは賞金首です」
俺は早口で答える。
その後、バルトバの護衛二人と俺たちは衛兵に連行されて、その駐在所で詳しく事情を説明することになった。ロープで手首を縛られる俺の魔獣たち。バルトバの護衛の二人は、衛兵に質問されても知らぬ存ぜぬを貫いていた。
しかし夕方にはバルトバの指名手配の確認が取れる。俺たちは晴れて自由の身となった。護衛の二人は牢屋行きである。
賞金がもらえるのはまた後日になるということだった。だけどこれで金は取り返した。バルトバから奪った銭袋には金貨が十数枚入っており、俺たちは儲けたぐらいだった。
こうしてバステット家を襲った事件は幕を下ろすことになる。夕食はベアビリーズ食堂で祝杯を上げた。みんな頑張ってくれたからな。今日は好きなだけ飲んで食ってくれ。
さて、また明日からは仕事である。ダンジョンを攻略するための忙しい日々の幕開けだ。
後書き
読者のみなさま、最後までお付き合い、どうもありがとうございました。
敗因はやはり、二巻のプロット無く書き進めたことでしょうか。やっぱりプロットって大事だなと痛感いたしました。
この物語はこれで終わりです。最後はちょっとどたばたで終わってしまいましたが、お許しください。
次作は一生懸命、プロット作りに邁進したいと思います。その上で丁寧に描いて行きたいと思います。
どうかまた、見捨てずに読みにきてやってください。
感謝。




