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206 完売


 甘ロリ服の少女と共に市場へ戻る。



 我が家の露店では、二人と一頭がウキウキと息を弾ませていた。ゴザの上には商品が無くなっている。えっ!? どうしたのだろう。まさか全部売れたのだろうか? そんないきなり売れるはずはないのだが。



 エヴリルが早足で近づき、元気いっぱいに右手を上げた。ぴょこんと左足を後ろに上げる。嬉々とした顔つき。



「みんな、ただいま! いま戻ったわ」


「エヴちゃん、スティフ、お帰りなさい」


「グルルゥ、スティフ、全部売れたぞ」


「……売れた」


「マジか?」



 俺は驚いてひょっとこみたいな顔をした。全部って、100個以上の袋をティルルに預けてあったはずだ。一袋大銅貨二枚とすると、合計金貨一枚ほどの額が稼げていることになる。だけど一体誰が買って行ったんだ? 



 シノが嬉しそうに両目を細めて報告した。



「さっき、白のスーツを着た男性が冒険者の方々をたくさん引き連れて来て、全部買っていったんです」


「白のスーツ? バルトバさんか?」


「名前は聞きませんでした」


「そ、そうか……」



 おそらくバルトバだろう。いきなり宣伝してくれたようだ。それにしても全部買っていくってどういうことだ? ま、まあ、それぐらい価値のある飴なのであるが。……何か裏がありそうな気がする。考えすぎだろうか?



 ティルルの持つ銭袋を覗くと、銀貨と大銅貨がたくさん入っている。うわー、儲かっちまったよ。どうしようこれ。



 俺は二度頷いて指示する。



「商品は無くなったし、今日は店じまいにしよう。ティルル、片付けてくれ」


「はい」



 メイド服が立ち上がり、靴を履いてゴザを丸めた。手持ち看板と共にステータス画面にしまう。銭袋は俺が回収する。



 ピンクの髪色の少女が顔を向けた。ニコッとした素敵な笑顔である。尻尾が上下に揺れていた。口から覗くチャーミングな八重歯。



「スティフ、今日はこれからどうするの?」


「そうだな、いっぱい稼げたし、魔法具屋に行こう」


「魔法具屋って、何か買うの?」


「お前の新しい服だ」


「あたしの服!? 服を買ってくれるの!?」


「ああ、魔法耐性の強いやつな」


「や、やったー!」



 ぴょこんと飛び跳ねるうちの大黒柱。その髪にポンポンと俺は手を置く。エヴリルは両手をグーにして顎に掲げる。嬉しそうに光る両目。つり上がる頬。



「あたしだけに買ってくれるの?」


「ああ、今日のところはお前だけだぞ」


「うれしーっ!」



 嬉しそうにしちゃってまあ。だけど残念だな。ダンジョン地下19階をクリアするため、お前には盾になってもらう必要がある。そのための防護服を買うに過ぎないんだからな。つまる話、エヴリルたんはタンクである。



 シノが口をへの字に曲げる。不満そうに揺れる瞳。不機嫌そうにほっぺが膨らむ。俺に近づいて両手を腰に当てた。



「エヴちゃんだけずるいですぅ」


「シノ、これは仕方無いんだ。シノは後衛だから、敵の攻撃が当たらないだろ? エヴリルは前衛だから、どうしても強い服がいるんだ」


「うー……、それなら、まあ仕方無いですぅ」


「そういう事だ。みんな、魔法具屋へ行くぞ!」


「ぐるるぅ、分かった」


「……うん」



 と言う訳で移動する。



 町のハスタリナ魔法具店。古めかしいレンガ張りの建物は何度もペンキを塗り直したような外観だった。薄黄色の壁。直方体の小さな建物である。俺たち四人と一頭は玄関から中へ入っていく。



「あら、こんにちは」



 玄関からすぐのところで、ハンガーラックにかかった服の世話をしている娘さんがいた。こちらに気さくに声をかけてくれる。長い三つ編が似合っていた。



 ピンクの髪色の少女がニコニコ顔で前に出る。嬉しそうな声を響かせた。



「こんにちは、服を買いに来たの」


「あら、もしかして、魔法耐性の強い服をお求めですか?」


「そうよ!」


「それでしたら、こちらのユメヒツジ製の服になります。デザインも凝っていて、可愛いのもありますよ」


「本当っ? どれにしようかしら!」



 店員さんと話しながらエヴリルが服を選んでいく。やがて気に入ったものが見つかったようで、赤のインナーにピンクのアウターが重なったようなロリータ服だった。太ももまでのストッキングがセットになっている。お前、やっぱりそういう服を選ぶのな。いや、人の好みをどうとは言わんけどさ。



「これが良いわ!」



 俺は人差し指を立てる。



「エヴリル、もう一着選んでくれ」


「もう一着買っていいの?」


「ああ。毎日着るにしても、着替えが必要だろうからな」


「分かったわ!」


「ずるいですぅ」



 シノが何か言ったが、聞こえなかったことにしよう。本当はお前にも買ってやりたいんだぞ? だけど悲しいかな、金が足りない。



 次にエヴリルが選択したのはゴスロリ服だった。現在持っているゴスロリとはデザインが違う。



 というか持っている服が全部ロリータ系って。お前のセンスにはオッサン脱帽だよ本当。まあ、似合えば何でも良いんだけどな。もちろんストッキングもセットになっている。脚を守るためなのだろう。



 店員の娘さんは二つの服とストッキングを受け取り、店の奥で会計をしてくれた。全部合わせて銀貨10枚。うっわ、高っ。武器ほどじゃないけどさ。だけど今日の儲けの半分がこれで消える。俺はしぶしぶ銀貨を支払い、服を紙袋に入れてもらった。



 エヴリルに紙袋を持たせて帰宅する。先頭を歩き、るんるんと鼻歌を歌っている魔人娘。スキップのような足取りである。クレナチアの歌を歌っている。機嫌良くしちゃってまあ可愛いこと。



 シノが不機嫌そうにぶつぶつとつぶやいている。不満に揺れている瞳。下唇をつきだしてペリカンみたいな顔だ。ちょっと泣きそうである。



「ずるいですぅ、ね、ティルル」


「……そう?」


「私も欲しかったですぅ」


「……要らない」



 さて、食材屋に寄って帰るとしよう。今日はティルルの歓迎会だ。酒を飲もう。気合いを入れて料理しないといけないな。そうだ、シノの好きなグラタンを作ってやるぞ。そんなので機嫌が直る訳じゃないけどさ。



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