202 アタックキャンディ
ダンジョンからの帰宅の道中、食材屋と雑貨屋に寄った。
みんなの足取りは軽い。そりゃあそうだろうな。休暇を喜ばない人間はいない。仕事はくたばれ。いや、世の中には会社人間もいると聞く。そいつは仕事以外の事柄に興味を持たないらしい。変人? まあ、人生の楽しみ方は人それぞれなのだが。
無事帰宅。
隣室からは華やかなメロディーが流れてくる。エヴリルとシノが歌っており、楽器も弾いているようだ。ボロックはクフォン(箱の打楽器)を叩いている。ずいぶん楽しんでいるようだ。聞いているこっちまでテンション上がるわ。
音楽を学ばせて本当に良かったと思う。すっかりハマッているようだしな。というかエヴリルの声は特徴的でマジかわゆい。たまに音を外すんだけどな。そこもかわゆい。まあ練習次第で上手になるんだろうな。いつかお披露目の場も作ってやろうと思う。老人会か幼稚園なんかがいいんじゃないか?
キッチンに立ち、俺は化学実験をしていた。鉄製のボールにハーブ(ヒートレッド)を入れて、買ってきたレアノール液も入れる。ハーブからぷくぷくと泡が出て、どんどん液が分泌された。よしよし。
待つこと10分ほど。レアノールはすっかり気化し、瓶には痩せたハーブとその液体だけが残った。よっし上手く行ったぜ。
ハーブ液を指につけて一口舐める。うん、超苦い。飲めたもんじゃないわ、これ。こりゃあ誰も口に入れたくねえよなあ。分かる分かる。値段が安いのも仕方ないってものだ。香りは良いんだけどな。
さあて、これを。
鍋にハチミツとレモン汁と水、砂糖とハーブ液を入れて火にかけた。混ぜながら煮詰めていく。ハチミツを入れるとコクが出るよな、やっぱり。
……コトコト、ぶくぶく。
そろそろ良いな。火から鍋を下ろしてピンク色の食用色素を入れた。素早くかき混ぜる。その後、ハートマークの型に一つずつ流し込んでいく。そして常温で冷ました。後は待つだけだ。
三十分後、少し柔らかめの飴を型からはずして一つ舐めてみた。やべえ、苦さがバッチリ取れている。それどころか爽やかな味わい。舐めれば舐めるほどに体にめきめきと力が溢れるのを感じた。これマジやばいって。どーして今まで考えつかなかったんだ?
アタックキャンディの完成である。っていうか、これ売れるんじゃねえの? 一儲けできそうな予感に俺はひそかに頬をつりあげた。ふはは、金持ちになれるかもしれん。そしたらあいつらにも楽をさせてやれる。エヴリルたん喜ぶぞう。いや、嫁じゃねーけどな。娘でもない。
俺は次々と飴を作っていった。次のハーブはバックレイス(魔力を上げる)、その次はフランチェル(体力と気力回復)である。マジカルキャンディ、ヒールキャンディとそれぞれ名づける。混ぜる食用色素をそれぞれ別のものにした。
キッチンに飴がどんどん出来上がる。小さな茶色い袋に飴を三つずつ入れてビニタイを巻いた。
「なーんか甘い匂いがするー」
気づけば隣にピンクの髪色の少女がいた。その後ろにはシノとボロック。好奇心に光っている瞳。くんくんと鼻を鳴らしている。銀狼は尻尾まで振っている。そうだ、こいつらに舐めてもらって、効果を検証しよう。
俺はエヴリルの口に青い飴を向けた。ヒールキャンディである。
「お前、これを舐めてみろ」
「何これ!? 飴?」
黒い翼と尻尾の少女が飴を口に入れる。口の中で転がして、そしてウキウキと胸を弾ませた。ふにゃっと緩む目尻。つり上がる頬。嬉しそうに細まる両目。
「うーんっ。何これ!? すっごくい美味しいんだけど!」
「そりゃあそうだろうな。甘い上に、舐めると体力と気力が回復するからな。どうだ、美味いだろう」
「どーやって作ったの?」
「ふはは、秘密だ」
「なにそれ! 秘密って意味分かんない」
「良いんだよ、お前は知らなくて」
「むー!」
頬をちょっぴり膨らますエヴリル。
翡翠の双眸少女と銀狼もおねだりをした。シノの頬にはエクボが浮かんでおり、ボロックが舌を出してはっはと息をしている。
「スティフ、私も欲しいですぅ」
「ぐるるぅ、我にも一つ」
「よしよし、みんな一つずつ食え」
俺はそれらの口に青いキャンディを放り込む。二人は笑顔で口に含んだ。口内でコロコロと飴を転がして驚きの声を上げる。
「すごい! 体に気力が溢れます」
「うむ、甘い上に頭が冴え渡るな」
「スティフ、どうしたんですかこれは?」
「ぐるぅ、新しい料理か?」
「ふふふ、秘密だ」
「教えて欲しいですぅ」
「スティフ、教えてくれ」
「良いんだよ、お前たちは知らなくて。それよりも」
悩み事があった。俺はぼやくようにつぶやく。
「さーて、後はどうやって売るかなんだが」
市場で露天を開かせてもらうのが一番手っ取り早いだろう。だけどダンジョンにも行かなければいけない。定期的にハーブを採取しなければ在庫が尽きる。となると、やはり人を雇うか。あるいは魔獣を新たに手に入れるか。
エヴリルが眉をひそめた。不満そうな声色。つり目がきつめにつり上がる。
「売るの!?」
「当たり前だろ」
「売らなくていいわ! 私たちだけの飴にするの」
「馬鹿、それじゃあ金にならん」
「……ふ、ふーん。じゃあ、誰が売るの?」
「うーん、そこなんだよなあ」
シンクに背中をつけて両手を胸に組み合わせる。俺はビーストテイマーである。だとすれば……よし、決めた!
「みんな、明日はまた魔獣ギルドへ行くぞ!」
「また仲間を増やすの?」
「増やすのですか?」
「ぐるるぅ」
二人と一頭の瞳が期待に揺れていた。仲間が増えるってのは嬉しいもんだ。お前たちは先輩になるんだから、後輩には優しくしてやれよな。先輩というよりも姉だろうか? ううむ。
俺は右手の親指を立てる。
「そうしよう」




