201 三種類のハーブ
月日が経つのは早いもんで、あれから一ヶ月ほどが経った。
バルクレイツの町には四季がある。それは日本と同じであり、夏は暑く冬は寒い。春は暖かくて爽やかであるし、秋は木枯らしが吹いて人々はきたる寒い季節に向けて備えをする。ちなみに冬の雪は少ない。地形的な問題がありそうだ。
いまちょうど梅雨入りだった。じめじめした雨の中、俺たちはカッパを着てダンジョンへと向かう。ボロックは着ていない。当然だよな。狼なのだから。
「あめあめふれふれかあさんがー!」
この間俺が教えた歌をエヴリルが元気に歌っている。馬鹿っぽくてかわゆい。これだからガキは好きだ。
困っていることと言えばやはり金だ。ダンジョン狩りの儲けは捗っていなかった。魔石モンスターガチャが当たらないんだよな。困ったもんである。
そして月に一度のローンの支払いがきつい。大体金貨一枚って、日本円で言うと30万円か? それを払うのだから、家計が火の車になるのも仕方が無いというものだ。
「あらあらあのこはずぶぬれだー」
今度はシノが歌っている。高くて細い声がこれもかわゆい。やっぱり俺は幼女趣味なのかもしれん。知らんけど。
ダンジョンに到着すると、三人はカッパを脱いだ。水を軽く払ってステータス画面にしまう。性別不詳のテレポーターにワープしてもらって地下十八階に降り立った。
本当は十九階まで行ける。だけど十九階はこの間クリアできなかったんだよな。ゴブリンメイジが強いからな。うちの魔獣たちじゃあまだ歯が立たないってこと。ゴブリンメイジが火属性の魔法を使ってくるので、クリアに臨むのはまた今度にしておこう。それがいい。
クリアするためにはエヴリルとシノに魔法耐性の強い防具を買ってあげなきゃいけない。そうじゃないと丸焦げになっちまって、ちぬ。死んだらさすがに泣くよな、主人として。読者がブチ切れると良くないので危ないことはしないのが吉だ。ん? 読者ってなんだ?
という訳で、十八階で金策。目的はチャージボアの肉と洞窟の奥に生えているハーブの採取だ。ボアの肉は昼食であり、ハーブはもちろん売るのである。ハーブ、これが安価なんだ。苦すぎるからな。
ピンクの髪色の少女が意気込んでいた。鞘から剣を抜き、凜々しい面構えである。口の端をつりあげて好戦的に笑う。口からはチャーミングな八重歯が覗く。くりっとしたつり目。
「今日こそはモンスターから魔石を採ってみせるわ」
「エヴちゃん、頑張ろうね」
「ぐるるぅ、エヴ、シノ、後れを取るなよ」
翡翠の髪色少女と銀狼もやる気である。シノは木の杖を構えており、銀狼が前を闊歩して歩く。
後方から俺は呼びかけた。何もしないってのも気が引けるが、仕方無いんだよな。だって俺はYOWAIんだから。
「頼むぞ、みんな」
モンスターはすぐに沸いた。オレンジ色の肌のイノシシが三頭、向こうから歩いてくる。デカい図体。頭部から背中まで生えているタテガミ。チャージボアだ。こちらに気づくと威嚇の声を上げた。
「「グヒィィイイ!」」
エヴリルとボロックが両サイドに開く。いつものパターンだった。シノが唱える。
「――水弾」
「水しぶきは風に運ばれ。飛んで貫き給え」
シュンシュンシュンシュンシュンッ。
「「グブオオォォッ!」」
水の塊が五連続で射出されて命中し、チャージボアが金切り声を上げる。マジ痛そうだ。だけど残念、モンスターは狩られるために存在するのである。気の毒だなんて思っちゃいけない。可哀想だなんてもってのほかだ。
黒い翼に尻尾の少女が剣を大きく振った。流れるような剣さばき。弓のようにしなる美しい体。
「――鳳凰剣舞」
三つの炎の飛ぶ刃がチャージボアに突き刺さって肉塊へと変えていく。こいつ、新しいスキルを覚えたせいか、鳳凰剣舞の呪文詠唱をしなくて良くなったんだよな。呪文詠唱はめんどうな上に隙がでかい。
「ぐぼぼぉぉぉおおっ」
完全に沈黙するボアたち。なむなむっと。
だけどボロックが走った。一頭のイノシシに近づき、その腹の肉にかじりつく。むしゃむしゃと生肉を食した。くちゃくちゃと噛んでいる。血に染まる口元。おいお前、まだ昼飯の時間じゃないぞ、そこ。
ゴスロリ服の少女が銀狼の頭に手を置く。いたずらっ子を叱るお母さんのような顔つきだ。
「ボロック、まだ食べちゃダメ」
「ぐるるぅ、美味いぞ」
「ダーメよ。お昼ご飯が食べられなくなっても知らないわよ」
「ぐるぅぅ」
そして三人と一頭で洞窟を周回する。まったく、危なげのない狩りが続く。だけど悲しいかな、魔石つきのモンスターとは一向に出くわさず。金策がはかどる兆しは無いのであった。くそう、これじゃあ来月のローンが払えねえよ。何とかならないもんか。
淡光石が明るく照らす中、ハーブが群生しているポイントを見つける。よっしゃあ、ハーブだ。それら採取を魔獣たちに任せて、俺はバーベキューの準備をした。
昼食である。今まで採取したチャージボアのバラとロース肉を切って、塩こしょうを振る。薄力粉、タマゴをつけて全体的にパン粉をまぶす。後は油で揚げれば完成だった。カツである。
コールスローとパンも持ってきてあった。
ピクニックシートを敷いて、三人でソースカツを頬張る。チャージボアの肉は弾力があって柔らかい。それに噛めば噛むほど味が出てくる。何度食べても飽きが来ないとはこの事だ。
ピンクの髪色の少女が満面の笑みでカツを頬張っている。幸せそうに目尻をゆるめていた。ふにゃっと緩む端正の顔立ち。口から覗く八重歯。というかやたら美人なんだよな、エヴリルの顔って。お父さん嬉しいわ。お父さんじゃないけど。
「うーんっ」
「スティフ、美味しいですぅ」
「ぐるぅ。美味いな!」
「そうか。ゆっくり食べろよ。コールスローとパンもな」
みんなが集めてくれた三種類のハーブをステータス画面に入れて俺は鑑定していた。
ヒートレッド、食べた者の身体能力を一時的にあげる。興奮作用もある。
バックレイス、食べた者の魔力を一時的にあげる。効果が切れた後の疲労感が強い。
フランチェル、食べた者の体力と気力を回復させる。治癒効果もある。塗り薬としても使用できる。
だけどこの三つ、どれもこれも苦くてとてもじゃないけれど食べられないんだよな。良薬口に苦しとは良く言ったものである。おかげでそれほど高く売れない。冒険者も鼻をつまむまずさである。
だけど待てよ。
これを食べやすくすれば良いだけの話じゃないか? 料理は俺の専売特許である。そうか! 星が落ちてきたようなインスピレーションがあったんだ。これはもしかすると……。
「クローズ」
俺はステータス画面を消して顔を上げた。
「みんな、飯が終わったら帰るぞ」
「え? もう帰るの? まだ何も稼げてないけれど」
ピンクの髪色の少女がきょとんとした顔をする。疑問そうに揺れている瞳。パンに挟んだカツをかじっている。ざくっと良い音が鳴った。
「試したいことがある。みんな、今日の午後は休みだ!」
「じゃ、じゃあお歌の練習をしても良いですか?」
シノは最近、アコーディオンに夢中である。単音のメロディーだけなら、すでに弾けるようだ。こいつは覚えが早い。
「ああ、いいぞ」
「やったね、エヴちゃん、ボロックゥ」
「うむ、メロディーに合わせて箱を叩くのは中々面白いな」
「やったわっ!」
黒い翼と尻尾の少女が右手を胸にガシッと引いた。
さて、実験が上手く行ってくれれば良いのだが。
バーベキューセットとピクニックシートを片付けて、俺たちは帰還する。




