121 復讐~事件の終わり~
ロープでぐるぐる巻きに縛られていた。
アパートのリビングで椅子に座らされている。築数十年と経過していそうな古い建物。遠くでは海の波の音が聞こえた。
テーブルを挟んで向かい側にはちぢれ毛の金髪美女がいる。豊満な体つき。レース生地の肌にぴっちりとしたワンピース。胸の谷間を強調しており、艶めかしい雰囲気が漂っている。目の保養になるよな。違う。エロい、いや違う。俺の縄を早く解け。
彼女の後ろに熊がいておすわりをしていた。
セニスの妖艶な唇が弧を描く。
「あんた、名前は?」
「……スティフだが?」
さっき噛まれた肩がものすごく痛かった。今も出血しており、できれば薬草を塗って欲しいところ。だけどこいつに頼む訳にもいかないよな。ここは我慢だ。ふぬぅ。
「良い男だね。あたしの仲間になりなよ」
「仲間? ははっ、誰がお前の仲間になるか」
「気持ち良くしてあげるよ?」
ちぢれ毛の金髪が両腕を胸にくんでテーブルに大きな乳房をつけた。官能的な気持ちが沸き起こり、俺は下腹部が熱くなる。いかんいかん。
「気持ち良くってどういう意味だ?」
「だから、エッチ」
「する訳無いだろ、俺たちは初対面だぞ」
「あーら、大人の関係は嫌いかい? もしかして、童貞坊やだったりして」
「俺は、童貞だ」
「ふ、ふーん。じゃああたいが筆下ろししてあげるよ」
「断固拒否する」
「どうしてぇ?」
「お前は、エヴリル前の主人だろ?」
「それがどうかしたかい? ああ、あいつからあたいの事を聞いているんだね」
「お前、エヴリルにひどい扱いをしたんだってな。ビーストテイマーの職が泣くぞ」
「知らないよそんなことー」
胸の谷間を強調する女性が立ち上がった。ゆっくりと歩いて、俺の背中に回る。首に優しく抱きついた。
「おい、やめろ!」
「ねえ、本当はやりたいんだろぅ? 正直になりなよ。男はみんな、ドスケベだもんね」
「離せ! 縄を解け」
「うふふふ」
俺の服の上からセニスが両手で体をまさぐる。胸に触れ、脇をくすぐり、臀部を優しく撫でた。おいやめろ、セクハラだぞ。そこで嬉しそうな笑い声を響かせる。
「うふふ、スティフ、もう起ってるじゃないか」
「う、うるさいな! これは生理的な反応で」
「それじゃあ、最初は口でしてあげようか」
ちぢれ毛の金髪が両手で俺の椅子を引いた。ズズーと音が鳴る。セニスは俺の両足の間に移動してしゃがみ込んだ。ズボンのチャックをゆっくりと開く。
「おいっ、マジでやめてくれ!」
「うわっ、びよーんって跳ねた! 可愛いなあ。あたいが可愛がってやろうじゃないかい」
パンツの上からくすぐるようにまさぐられる。俺は、俺は身をよじらせて嫌がる。
「やめろっ、やめろっ」
「あーら、おねだりするように腰を振っちゃって、うふふ、エッチなんだから。だけどパンパンに腫れていて大変。あたしが今、楽にしてあげるからねえ」
「おいっ、やめろっ! 誰か助けてくれ! エヴリルゥゥゥゥッ!」
その時だ。
バゴンッ!
けたたましい音が鳴り、アパートの玄関が破壊されてピンクの髪色の少女がタックルするように突っ込んできた。その後ろから銀狼とシノも顔を見せる。お前たち、ナイスタイミングだ。早く助けてくれ。
「何やってんのっ!」
黒の翼に尻尾の少女が泣きそうな顔と声で精一杯怒鳴った。剣を振り上げてこちらへと歩く。エヴリル助けてくれ。それと悪いのは全部この金髪の女だからな。
「ガアアアアウゥ!」
すぐに熊が立上がり、エヴリルの前に立ちはだかった。セニスが移動して、熊の後ろに隠れる。ベルトから短剣を抜いた。
エヴリルが詠唱する。
「――鳳凰剣舞」
「今宵は花見酒。王子様、愚女と踊っていただけますか」
「――アイアンプロテクト」
「ガアアウアウウウウッ(熊が詠唱したようだ)」
三つの炎の斬撃が熊を襲う。しかし出現したグレーの障壁に阻まれた。バゴンバゴンッと音が上がる。
ちぢれ毛の金髪女が顔を歪めて怒鳴った。
「おい! あたいのアパートを戦場にするんじゃないよ!」
「お前がスティフを連れて行ったんでしょうが! 悪いのはお前だわ!」
「うっさいわねえ、エヴリル。お前の剣技なんて所詮子供のお遊びなんだよ。マジェスタ、こいつらを外へ出しなさい」
「ガウゥウウアッ」
エヴリルが対峙している間にも、シノと銀狼が俺を縛っているロープを解いてくれる。自由になり、俺は立ち上がってズボンを上げた。チャックを閉める。
熊が突進し、ゴスロリ服に突っ込んだ。
「キャアッ!」
肩に噛みつき、持ち上げて扉へと走って行く。外へと向かったようだ。
「エヴリル!」
「エヴちゃん!」
「エヴ!」
三人で追いかけて玄関を出る。外の土の地面で、エヴリルが熊に押し倒されている。熊が噛みつくのを、黒のショートソードの刀身で彼女は防御していた。必死の形相である。
俺は躊躇せずに唱えた。
「――鼓舞」
「いくさの女神に福音を。立ち上がれ、我が魔獣」
二人と一頭の体がオレンジ色のオーラで包まれる。効果は魔獣たちの力を一時的に飛躍させる効果だ。
ピンクの髪色の少女が剣で熊の口を押し返し始めた。
「このーっ!」
「ぐ、ぐうぅぅぅぅっ!」
銀狼が駆ける。
「その尻尾、切り裂いてやる」
熊の小さな尻尾にボロックが噛みつき、激しくデスローリグした。
ドルルルッ。
「ぐあああううぅぅ!」
熊の尻尾が千切れ飛んだ。出血する。マジェスタが痛みに暴れてよたよたと歩く。エヴリルが立ち上がって剣をゆったりと構えた。
ここに来て四対一である。マジェスタが強かろうとも万事休すだ。
後ろから足音が聞こえた。
「あんたたち、よくもマジェスタの尻尾をやってくれたね」
セニスである。両手に短剣を抜いており、その顔は殺気に満ちていた。俺はステータス画面からムチを取り出して握る。
「おい、セニスさん。ここは穏便に済ませた方が良いんじゃないか? 俺たちの方が優勢みたいだが、まさか、命尽きるまで戦おうって訳じゃあるまい」
「くっ、おいエヴリル! 主人の言うことを聞いて、このスティフって男を殺しな!」
赤黒ロリータ服が唖然した顔をする。動揺しているようで、動きが鈍くなった。そこへマジェスタがにじり寄る。
「ガーッ!」
「――水弾」
「水しぶきは風に運ばれ。飛んで貫き給え」
シュンシュンシュンシュンシュンッ。
シノが唱えた。水の円球がマジェスタの体に突き刺さる。ボンボンとヒットし、骨が砕ける音も響いた。
「ぐぼっ、ぐおおおぉぅっ」
痛々しい悲鳴である。熊が地面に尻餅をついている。
セニスはあきらめずに命じる。
「エヴリル! スティフを殺しな!」
「エヴリル、セニスの言うことなんて聞かなくていいぞ」
いたって冷静、俺は落ち着いた声で言い聞かす。
「エヴリルッ!」
セニスが強く怒鳴った。エヴリルは震えた動作でこちらへと向かってくる。顔からはとめどない汗が流れており、正気を失っているようだ。うつろに揺れる瞳。おいおい、まさかお前……。
俺は両手のひらを胸の前に掲げた。
「お、お、お、おい、エヴリル?」
「ふっ!」
エヴリルが走り出す。え、マジ? 俺、殺されるの? と思ったのだが俺を追い越して、彼女はセニスに向かった。上段から斬りつける。
カンッ、カーンッ、ガンッ。
短剣とショートソードが交差して火花が散った。エヴリルが押している。魔法スキル、鼓舞のおかげで身体能力が急上昇していた。ちぢれ毛の金髪美女は防戦一方であり、焦って声を上げた。
「エヴリル! あたいはお前の主人なのに!」
「あたしのご主人様は、スティフだけなんだからあぁぁああああ!」
エヴリル斬りが決まった。
セニスが首から血を流して倒れる。あふれ出る血潮。このままでは死ぬだろうな。だけど助ける義理など無かった。死んでエヴリルに詫びるがいい。クソババアめ。
土の道路では銀狼がマジェスタの首に噛みつき、窒息死をさせようとしているところだった。熊がビクビクと震えている。やがて動かなくなった。
ああ、やっちまった。刃傷沙汰である。こうなったら逃げるしかない。ダッシュでとんずらだ。
俺は三人の魔獣に指示する。
「みんな、逃げるぞっ!」
「うんっ!」
エヴリルはどこか晴れ晴れとしたような表情だ。元主人に復讐できたことで肩の荷が下りたのかもしれない。良かったなお前。これで怖いものは何も無いぞ。
「逃げましょう」とシノ。
「うむ、早くしないと人が来るぞ!」とボロック。
そして俺たちは夜闇を駆けだした。みんなが粋の良い笑みを浮かべている。そりゃあそうだ。なんせ俺たちは勝利したのだから。
見上げると空には星々が瞬いている。いまの俺たちを祝福してくれるような輝きであり。ああ、綺麗なもんだな。




