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102 エヴリルとの出会い

 ミアレスフィアに転移したオッサンである俺は、衣食住を確保するためにとりあえず奮闘した。



 現在32才である。



 ご都合主義もここに極まれり、ってな。



 俺はこの世界の言語を最初から覚えていた。大仏の野郎、チートギフトはくれないと言ったくせに、こう言うところは準備が良いというかお優しいというか、何と言うかマジムカつく。殴って良い?



 他にも幸いなことに手に職はある。町のベアビリーズ食堂で俺は一年間働かせてもらっていた。そこで土地の様々な料理を覚え、この世界の調味料や香辛料の味を知る。



 木造アパートを紹介してもらい、当面の貯蓄を稼ぐことに成功した。



 この町は、世界でも最深ダンジョンのある場所であり、その名をバルクレイツ町と言った。



 せっかくの二度目の人生なのであるし、俺は自由気ままに生きたかった。世界には魔王なども存在しているらしいが、そんなん知らね。あんたが倒せばいいよ、マジでさ。



 そんなことよりも、ダンジョンで採取できる鉱石やモンスターから採れる魔石などを売って金持ちになりたかった。いやそんなにたくさんの金は要らねんだ。



 ほどほどで良いんだ。



 将来は家を建てて、毎日美味しい食事を作り、できることなら結婚もしたい。愛する妻が毎日笑顔でいてくれる生活を俺は望んでいた。



 別に、目が飛び出るような美人でなくても良い。顔なんてそこそこで、重要なのはやっぱり性格と相性。



 ああ、今度こそセーブデータが飛んだりしませんように。本当だよ。今度飛んだら大仏を殴ってやる。血を吐くまで。俺を天国に行かせてくれるまで。というか大仏を天国へ行かせてやる。



 さて。



 この世界には、ステータスというものが存在し、ステータスオープンと唱えると眼前に水色の画面が現れる。



 そこには自分の職業やSTR(筋力)などのパラメーター、そして、しまってあるアイテムやスキルなどが記述されている。便利なんだよなこれが。



 俺の職業はビーストテイマーだった。



 ビーストテイマーについての情報はこの一年間で出来る限り集めた。簡単に言えば、魔獣を使役して戦う者のことである。



 職業が後衛であるせいか、自分のSTR(筋力)やVIT(生命力)などの値は低い。まあ、代わりに魔獣が強ければ良いのだから、俺は弱くったって良いんだ。まあ、うん、良いんだ。



 俺は弱い、うん弱いんだ。



 YOWAIORE



 ……泣き。



 スキルは今のところ鼓舞しか覚えていない。その効果をスキル欄で読むと、魔獣の戦闘力を一時的に飛躍させる効果だとか。



 ちなみに俺の武器はムチである。これが結構長くて、振るには力がいる。



 ベアビリーズ食堂の主人おとっつぁんと相談して、俺は退職する運びとなった。明日からはビーストテイマーとしてダンジョン攻略に着手するつもり。



 とは言っても、もしもビーストテイマーの仕事が上手く行かなければ、復職して良いらしい。感謝感激である。



 本当、おとっつぁんには世話になってばっかりだ。頭上がんね。いま住んでいるアパートも紹介してもらったしな。恩に着るぜ。おとっつぁんよ。



 ついに明日はビーストギルドへ行く。そこで卵をもらって、自分にとって初となる魔獣を孵化させるのだ。今から楽しみだった。どんな魔獣が産まれてくるんだろうな?



 エッチな女の子だったりして。



 うははは。



 ……。



 さて。



 夜、雨の匂いがしていた。



 一階建てのアパートの前の道路で、パタパタとした変な物音がしたんだ。食事(久しぶりに作った日本料理のカツ丼)を摂っていた俺は、眉をひそめて首をかしげた。



 何だろう、おかしな足音のようなものが響いてくる。



 右手のスプーンを止めた。食器を置いて玄関から部屋を出る。歩いて外の土の道路へと向かった。文明的にアスファルトはまだ無い。将来的にあるのか分からんけど。



 地面の上に傷だらけの少女が膝をついていた。



 ピンク色の髪、小学校高学年ぐらいの小さな体、悪魔のような黒い翼に尻尾。唇から覗くチャーミングな八重歯。くりっとしたはっきり二重の瞳。



 体の傷に驚いて駆け寄った。



「おい、お前っ! 大丈夫か?」


「嫌い! 嫌い! 人間嫌い!」



 ピンク色の髪の女の子が立ち上がり、襲いかかってきた。おい待てよお前、訳分かんね。正面から馬乗りになり、俺の顔面に殴りかかる。



「嫌い! 人間なんて、人間なんて!」



 ボコボコと顔面を殴られる俺の図。と言うか、おい、痛い、痛いって、本気のグーパンチやめろ。お前見境ねーな。



「おい、お前、どうしたんだ? 何があった?」



 いたって平静。俺はなるべく優しげな声色で尋ねたつもりだ。さあ、オッサンに何でも話してみなさい。えっと、まず聞きたいのは、人間なのかお前は?



「殺してやる! 人間なんて殺してやる!」



 ピンク色の髪の女の子は俺を殴り続けた。こういう奴を落ち着かせるには、気のすむまで殴らせてみる、が一番だ。知らんけど。さあオッサンをサンドバッグにしなさいみたいな気分。いや、マゾでは無いぞ。



 俺は顔の前に両手でバツ印を作って防御しながらも、反撃の姿勢を見せなかった。



 黒い翼に尻尾の女の子はやがて殴り疲れたようで、ぜいぜいと息をした。



「貴方! どうしてやり返さないのよ!?」


「俺は味方だ。いや、少なくとも敵じゃない、と言ったところだな」


「敵じゃない? でも貴方、人間でしょ?」


「お前は人間に恨みがあるのか? そりゃあ気の毒なことだな。知らんけど。マジ知らんけど。知りたくも無いけれど」



 上半身をあげると、ピンク色の髪の女の子はどいてくれた。その時、ぐーっと少女の腹から音が鳴った。



「ははは、お前、腹減ってんのか?」


「う、うるさい! お腹が空いたの!」


「じゃあ、食わせてやるよ、来い」


「な、何を食わせるって?」



 いぶかしげな少女の顔と不安に揺れる瞳。



 俺は背中を向けた。アパートの自室へと歩いて行く。後ろから追いかけてくるような足音は無い。



 まあ、着いて来ないようなら、それでも良いだろう。俺は少女の保証人でも無ければ親でも無いからな。じゃーな少女、元気で生きろ。明日に向かって青春かませ。ファイト一発だ。



 キッチンに戻ってテーブルにつき、両手で顔を触った。あー、だいぶ腫れてやがる。まあいいや、腫れすぎて男前が上がった事にしておこう。んな訳ないけどさ。



 たった一つのランタンの明かり。再びカツ丼をスプーンですくう。甘塩っぱくてまろやかな味わいである。



 ふと、玄関の扉が小さく開かれて、ピンク色の髪の少女が顔を覗かせたのだった。怪しんでいるようで中々入って来ない。警戒心がムンムンである。おいおい可愛い顔だな。



 まるで子猫である。これだからガキは好きだ。



 ああ、そう言えば俺は生まれつき子供が好きな質だった。いや、危ない意味じゃなくてだな。そこ、変な目で見ないように。いや、大きいより小さい方が良いけどよ。



 人の好みを笑わないように!



 雨が降って来たようで、外にはザーザーと音が響き始めた。



 これがエヴリルとの出会いだった。


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