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117 家を買おうとして~事件の始まり~


 家を買うと決めた。



 この間魔鉱石を売ってだいぶ稼いだからな。貯金が出来ていた。しかし非常に高額である。この世界、どんな小さな家でも金貨30枚はする。そんなにお金は持っていない。ので、ローンを組む必要がある。



 そこまでして家を買う理由はやはり家霊(やれい)の存在である。家に霊を招けばエヴリルたちも新しいスキルを覚えやすいだろう。



 みんな初期スキルしか覚えてないんだよな。俺も含めて。



 アパートに霊を招く訳にはいかないのは、一旦住居を決めると家霊様が永住するからだった。アパートを出た場合、霊も一緒に引っ越すことができない。そして招くにはやはり金だ。



 と言うわけで、みんなで家探しに来ていた。お世話になっている不動産屋さんの若社長、デナートさんに相談すると、商売人らしい表情の読めない笑みを浮かべた。パリッとした黒のスーツ姿の男性。両手のひらをこすり合わせて物件を紹介してくれた。彼にとっちゃ儲け話である。



 いま、案内されて町の坂道を登っていた。隣に並ぶピンクの髪色の少女がウキウキと胸を弾ませる。期待に揺れている瞳。口の端に嬉しそうな笑みをたたえている。尊敬の眼差しを向けてきた。



「ねえ、スティフ。あたし大きい家が良いわっ」


「そりゃあ、大きいに超したことは無いな。だけど大きすぎる家は値段が高いぞ」


「大丈夫よ! これからいっぱい稼ぐもの」


「おう。頑張ってくれ。お前が大黒柱なんだからな」


「えへへっ」



 エヴリルがふにゃと目尻を緩める。我がビーストながらかわゆい。



 後ろからはエメラルドグリーンのポニーテイルと銀狼が並んで歩き、着いてきている。楽しそうな雰囲気をまとっているのは気のせいではないだろう。そりゃあ嫌でもテンションが上がるってもんだ。何せ家を買うんだから。



 見えてきた。丘の上には五軒家が並んでいる。一番奥の建物だった。落ち着いた青色の三角屋根。赤茶色のレンガ張りの壁。二階建てであり、ガラス窓がいくつかある。その外観を俺はすぐに気に入った。



 デナートさんいわく、新築の売り家なんだそうだ。中に入らせてもらう。



「わーっ!」



 エヴリルがノリノリでダッシュしていく。おいおい、そんなにはしゃいで転ぶなよ。それと家を傷つけないように注意してくれ。まだ買った訳ではないんだからさ。



 新築の良い匂いがした。一階にはリビングとダイニングとキッチンがくっついた広い部屋が一つ、暖炉もある。トイレが二つあり、薪風呂も備わっている。他にも2ルームあった。二階は3ルームある。だけどこんなに部屋は要らないな。まあ、客室として利用するという手もある。



 三人と一頭で一通り見て回った。みんなこの家が気に入ったようだ。俺は顎に左手をつけて考える。もう何軒か見て回った方がいいよな。その上で決めるべきだろう。



 家のリビングでデナートさんと会話する。ちなみに魔獣たちは歩き回ってそれぞれの部屋を子供のように跳ね回っている。ように、というか実際少女たちは子供だ。精神年齢的にも見た目的にも。



 デナートさんは瞳を光らせた。



「この物件は人気でしてね、今、購入を検討している人がもう一人いるんですよ」


「そうなんですか?」



 そりゃあ、先に買われたら悔しいな。俺は言葉を紡ぐ。



「この家はいくらですか?」


「金貨50枚になります」


「あの……ローンって組めます?」



 黒のスーツは顎を数回上下させて、両手のひらを腹の前に握り合わせた。



「はい、組めます。その場合、頭金が金貨10枚で、残りは月々金貨1枚の40回払いになりますね」



 ……契約しようか? いや、すぐに決める訳にはいかない。馬鹿だと思われたら嫌だしな。



 ふと、子供たち二人と一頭がやってきた。ニカニカと笑っている。嬉しそうに揺れている瞳。ピンク色の髪色の少女が俺の腰に抱きついた。ばふっ。



「スティフ! ここにしよう! あたし、気に入ったわ」


「おい、エヴリル、抱きつくな」


「いいじゃない! それよりこの家にしましょ!」


「そんないきなり決めるのか?」



 翡翠目少女と銀狼も賛同して頷く。



「スティフ、私もこの家が良いです」


「ぐるぅ、うむ。見晴らしの良い家だな」


「ほら、ボロックも良いって言ってますよ?」


「暖炉もあるし、夜は暖かそうだぞ」


「うーん……」



 俺は顎に左手をつけてうなった。勢いというものは大事である。購入を検討している人が他にもいるようだし、ここは即決するか?



 デナートが両手のひらをこすり合わせる。



「バステットさん、どうしますか? ただ売り家は他にもあるんで、見て回ってからでも遅くはないかとー」



 バステットというのは俺の名字である。



「よし! それじゃあここに決めた!」



 俺は右腕を胸の前にガシッと引いた。



「もう決めるんですか?」とデナート。


「はい! みんなが良いと言っているんで、ここにします」と俺。


「やったわっ!」とエヴリル。


「スティフ、ナイス決断です」とシノ


「勢いがあって良いな」とボロック。



 デナートに頼んで、これから売買契約書を作ってもらうことになった。制作には数日かかるそうだ。もちろんローンをお願いする。晴れて借金生活となるバステット家だった。ちゃんちゃん。



 来週から家に住めるということだった。俺たちは生き生きとした雰囲気で玄関を出る。――そこで問題は起きる。



 大柄な熊を引き連れたうら若い女性が道を歩いてきていた。見た感じからして彼女もビーストテイマーである。熊は普通、人に懐かないからな。



 ちぢれ毛の長い金髪。張りのあるバスト。浅葱(あさぎ)色のジャケットに青いジーンズ。ラインがくっきりとした大き目の尻。やけにグラマーな体つきの女性である。腰には鞘に入れられた短剣。



 エヴリルが恐怖したように身じろぎする。俺の背中に隠れた。ん? どうしたんだお前。お化けでも見たか?



 不動産屋の若社長が困ったように眉を八の字にしていた。それでいて右手を上げて挨拶する。



「どうも、セニスさん」


「こんにちは、デナートさん。不動産屋に行ってもあんたがいないんで、事務員に行き先を聞いて来たよ」



 金髪の彼女はセニスという名前らしい。化粧のされた色っぽい顔立ち。淡い香水の匂い。大人の色香が漂っている。



 エヴリルがおびえたように俺の背中張り付いている。セニスに顔を見られたくないようだ。知り合いだろうか?



 デナートが金髪の女性に近づいて尋ねた。



「今日はどうしました?」


「実はその物件なんだけど」



 今しがた、俺が契約を結ぼうとしている家をセニスが指さした。口の端をつり上げる。



「あたいが買おうと思って」



「それでしたら、こちらの方も買おうとしていらっしゃるので、ご相談してくださいますか?」



 デナートが俺に手を伸ばして指し示す。



 セニスは不愉快そうに顔を歪めた。おいおい、何だよ。家は渡さないぞ。俺たちが買うんだからな。もう契約書を作ってもらう約束をしたんだ。お前はどっか行け。



 そこでセニスが驚いたように目を丸くした。



「あれぇ? エヴリルじゃないかい!」


「ひ、ひいっ」


「お前、あたいから乗り換えて、新しいご主人様を見つけたのかい。へぇ、一体どうやって取り入ったんだい?」


「ひっ!」



 エヴリルはおびえるばかりで答えない。俺の背中の服を掴み、顔を隠している。なるほどな、セニスの口ぶりからして、エヴリルの前の主人のようだ。さて、どーしたもんか。守ってやらないといけないよな。     



 セニスが突っかかってくる。右腕を振り上げた。



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