116 鉱床
ダンジョンの金策はコツコツといかない。
モンスターから魔石が採れる日と採れない日があるからだ。魔石つきの敵に出くわすのは低確率であり、出たら出たで往々にして他の魔物より強い。ガチャみたいなものである。モンスター魔石ガチャだよ、俺たちの仕事ってさ。
モンスターの肉を集めて、食材屋や食堂なんかに出荷するという手もある。ただ店と契約を結べば、同じモンスターの肉を同量、毎日配達してください、ってことになりかねず。それは悪い方法では無いのだけれど却下である。
ダンジョンと言えば、強くなってどんどん下る。それが醍醐味なのだ。もっと下の階には何が待っているんだろうな? ワクワクするじゃん。と言う訳で今のところモンスターの肉を集めて売るようなことはしない。
ダンジョン地下14階。
洞窟の四方八方は相変わらず湿気の多いヌメヌメとした地肌。滑りやすい地面である。明るく照らす淡光石の光。
出現している敵はキラービーだった。人間と同等サイズの蜂モンスターである。黄色と黒のしましまの尻尾。飛ぶために羽を動かしており、バチバチと羽音を響かせている。お尻には黒くて鋭利な毒針。刺されたらあの世行きが必至だ。
魔獣のみんなが戦って倒してくれている。というかお前たちはどうしてそんなに勇敢なんだ? ビーストには恐怖耐性があるのだろうか。知らんけど。
洞窟の行く手を巨大な蜂の巣が通せんぼしていた。天井からぶら下がっている薄黄色の禍々しい球体。中にはやっぱり蜂の子がいるんだろうし、女王蜂がいるんだろうし。それはマジで見たくない。きしょく悪いよな、やっぱり。
ピンクの髪色の少女が一体のキラービーをぶった斬ってから振り返った。勝ち気に揺れる瞳。ウキウキと口の端をつりあげている。好戦的な声を響かせた。
「スティフ、蜂の巣があるわ! おっきいの! すごいわっ」
「本当だな。ちっ、どうするかな」
「あたしが吹き飛ばしてやるわっ、くらえっ!」
「おい待て、エヴリル! ちょっ」
焦って右手を伸ばすのだが彼女の肩には届かず。
黒い翼に尻尾の少女がサディスティックな声色で唱えた。剣を素早く振る。刀身に火がついた。ちょっ、待てお前っ。
「――鳳凰剣舞」
「今宵は花見酒、王子様、愚女と踊っていただけますか?」
三つの火の刃が巨大な蜂の巣を強襲する。ザクザクに切り裂いた。砕けた薄黄色の物体がどさっと地面に落ちる。やっちまった。とはいえ、そうするしか無いのであったが。
中にいた女王蜂が姿をのそのそと現す。普通のキラービーよりも一回り体格がでかくてキモい。青と黒のしましまの尻尾。細い木枝のような足で地面に立ちあがり、歩行した。こいつ怖えぇぇ。
マジ怖いとはこのことだ。ごめん、貴方の家、吹っ飛ばしちゃいました。やったのはエヴリルです。怒ってるよねやっぱり。立っているっていうのに羽をバチバチとはためかせているのは威嚇以外の何物でもなくて。
翡翠色の双眸の魔法少女が杖を高く持った。その顔にはコワイと文字が書いてある。臆して震える唇をそのままに叫ぶ。
「――す、水弾」
「水しぶきは風に運ばれ。と、飛んで貫き給え」
シュンシュンシュンシュンシュンッ。
エヴリルとボロックが両脇にジャンプして回避した。
放たれた水の球体を女王蜂は右手で次々と弾いた。バチンバチンッと払い落とす。え? うそっ。水弾って時速150キロは出てると思うんですけれど。お前こわい。
「う、嘘!?」シノの声がわななく。
ここは鼓舞を使おうかな? 俺のたった一つのスキルである。
「キシューッ」
禍々しい口をピクピクと動かして怒りを露わにする女王蜂。お前たちを許さないぞ、と言ったんだろうな。家を壊された恨みなのだろう。だけど残念、蜂に人権は無いのだ。
「グルルゥッ」
狼が走り出す。その大きな瞳が銀色に光った。凶暴な口を開き、クイーンビーの左足にかじりつく。そのまま横に激しく回転した。デスローリングである。
ドルルルッ。
小枝のような脚があらぬ方向に曲がってポキリと折れる。よっしゃー、こいつ、最強ボスって訳じゃ無さそう。
「キシャーッ!」
つんざくような悲鳴が上がっている。
「死になさい!」
甘ロリ服がモンスターに歩み寄った。袈裟懸けに斬りつける。しかし手で弾き返される。
バチンッ。
エヴリルは何度も剣を振るった。左足を無くしたせいで女王蜂は体勢を崩し、いま中脚と後ろ脚で立っている。
ガンッ、バンッ、バツンッ。
二人の攻撃が交差して火花が散っている。一進一退の攻防である。
「このっ!」
「シューッ」
女王蜂がお尻を突き出した。今までで最も素早いお尻アタックがエヴリルの胸を狙う。あれに当たったらヤバい! 恐怖に染まる彼女の表情。意表を突かれたような声。
「嘘!?」
「――水弾」
「水しぶきは風に運ばれ。飛んで貫き給え」
シュンシュンシュンシュンシュンッ。
ボコボコボコボコボンッ。
射出された五つの水の球体がクイーンビーに全て命中した。体がボコボコとひしゃげている。お尻の毒針アタックは勢いを無くす。よっしゃっ、ファインプレーだぞ、シノ。
エヴリルは振り返りもせずに、
「ありがとう、シノ」
「グルルゥッ!」
ボロックが女王蜂の右足に噛みついた。デスローリングし、激しく横回転する。
ドルルルッ。
巨大な昆虫の右足が根元から吹き飛んだ。ヌメッとした体液がこぼれている。生々しくて気持ち悪いな。ああ、嫌嫌。
痛みに悲鳴を上げる女王様。
「キキャーッ」
「せやっ!」
黒い翼の魔人っ娘がその首を真上から切り裂いた。エヴリル斬りである。ズドンッ。切断される女王蜂の頭部。いよっしゃー、勝ったぜ。俺の唯一のスキル、鼓舞の出番は無かったようだ。また今度に取っておこう。
「やったわっ!」
「ぐるう、倒したな」
「やりました!」
三人が俺を振り返り見つめる。いや、そんな粋の良い笑顔を向けたって何も出ないぞ? だけど手拍子を送った。パチパチパチッ。
「ナイスだ、お前たち!」
「えへへ、あたしたちは強いんだからっ」
「うむ、これで先へ進めるな」
「スティフ、私も頑張りましたよ」
「よくやった」
一番近くにいる翡翠色ポニーテイルの髪を撫でてやる。にっこりと細まる両目。杖を持った両手をお尻の後ろに組んだ。突き出る大きな乳房。嬉しそうにつり上がる頬。
どうしてかエヴリルが面白くなさそうな顔をした。「ふんっ」鼻を鳴らして洞窟の奥へと歩を進める。ん、お前どうしたんだ? まあいいか。
蜂の巣の中にはまだ子供がいるんだろうが、無視して良いだろう。食べるにしてもゲテモノを魔獣たちは受け付けないだろうな。俺も無理だ。
洞窟の最奥部、その階段前でささやかな幸運に出くわす。壁の下に宝石のように光る黄色い鉱床があった。マジか! これ、魔鉱石だ。
ピンクの髪色の少女がニコッと笑って振り向いた。
「スティフ、これ!」
「ああ、魔鉱石だな! みんな、発掘するぞ」
「発掘ってどうやるの?」
「つるはしで掘るんだよ。持ってきてあるから。ステータスオープン」
水色の画面からつるはしを三つ取り出す。俺とエヴリルとシノの分である。ボロックが振るのはさすがに無理だ。狼だからな。
それから、三人で魔鉱石を掘った。だけどシノはSTR(腕力)が低くてすぐにバテてしまう。ほとんどつるはしを振るったのはエヴリルだった。怪力少女である。ゴリラ女とも言う。
説明書きを少々。
魔石は、術者の魔力を増幅させる。
対し、魔鉱石は魔法スキルを使う者の触媒になる。回復魔法を使えない人間でもこれがあれば行使できる。使えば魔鉱石は消失する。
説明終わり。
ボロックはずっとおすわりをしていた。発掘には二時間ぐらいかかった気がする。やがて銀狼がグワウルルと大きなあくびを一つくれた。今、鉱床を掘り尽くした。鉱石の全てをステータス画面にしまい、俺はよしよしと笑う。
全部売ればいくらになるんだろうな。さっそく冒険者ギルド支部へ換金しに行こう。ちょうど昼食の時間なので、こいつらをベアビリーズ食堂へ連れて行ってやろうか。ヘミリー先生にもまた会えるしな。
という訳で次の階に降りる。ダンジョン水晶に進行度を記憶させてから帰還した。




