114 仕事なんて要らない、休日前編
サンドイッチを作っていた。
他にも唐揚げ、マドラーニ(ハンバーグ)、ポテトサラダ、きんぴらゴボウ、ブロッコリーを茹でたもの、ミニトマト、他にも。色とりどりの料理をお弁当箱に詰める。
週に一度の休日。ダンジョンには行かないが、魔獣たちに退屈な一日を過ごさせる訳にはいかないよな。遊ばせてリフレッシュさせるのもテイマーの立派な役目であり。というか俺は父親か? 似たようなものだよな。
やつらには休日ぐらい戦闘のことをまるっと忘れて欲しい。というか仕事なんてつまんね。くそくらえビジネス。ビバホリデイ。ビバ遊び。そして美味いメシ。労働は宇宙の彼方へ。
という訳で、みんなで花見に行く。ベアビリーズ食堂で知り合った夫妻と俺は会う約束をしていた。俺が取り持ってその二人をくっつけてやったのは密かな自慢話である。
ピンクの髪色の少女がはにかんだ顔でお弁当を指さす。猫のようにくりっとしたつり目。いたずらっぽい雰囲気だ。口の端に微笑みをたたえつつ、
「スティフ、唐揚げ、一個だけもらっても良い?」
「つまみ食いはダメだ」
「いいじゃないの~。けち~」
「ダーメ。これはみんなの昼食なんだ」
「むー」
唇をすぼめるエヴリル。ピンク色の髪がちょっと跳ねており、寝癖がついていた。最近は頑張っていたようだから、疲れが現われているのかもしれない。知らんけど。マジ知らんけど。一周して感謝感激雨あられ。
エメラルドグリーンのポニーテイルっ娘はキッチンの椅子に座り絵本を開いている。タイトル、ミアレスフィアのコビトたち。この間その本を買ってやった。彼女は字が分からないようで、分かるエヴリルが教えてあげていた。お前ら姉妹みたいだな。
その椅子の下では銀狼が寝そべっている。朝食を食べた後なので少し眠たそうだ。ちなみに毎朝、早起きして散歩に連れて行っている。日課だった。
ボロックは縄張りをマーキングしないと落ち着かないみたいだからな。獣の習性である。ストレッチマッサージもしてやると喜んだように表情を緩める。犬は可愛い。今度芸も教えようか。狼だけどさ。
弁当ができたところでステータスのアイテム欄に入れ、鍵を閉めてアパートを出た。三人と一頭で土の道路を、威風堂々風を切ってゆく。太陽がまぶしくてありがたい。今日が晴れてくれて本当に良かった。せっかくの休日なのだから。
黒い翼に尻尾の少女が疑問げに瞳を揺らした。隣に並ぶ。上目遣いで俺を見ている。腕の袖をちょこんと引いた。
「スティフ、今日はどこへ行くの?」
「内緒だ」
人差し指を口元に立てる俺。
「内緒? 気になるわね」
「まあ、大したところじゃないんだけどな」
「ふーん。よく分からないけれど、遊びに行くんだよね?」
「ああ、そうだ」
「や、やったわ! っよし」
エヴリルが右手をガシッと掲げた。素直に喜ぶところ、子供っぽくて可愛らしい。何才か知らんけど。100才だったりしてな。聞いたこと無いけど。
オレンジ色の薄いローブを着たシノは絵本を読みながら歩いている。クスクスと笑顔を浮かべ、ずいぶんとハマっているようだ。その隣を歩く銀狼がはらはらと落ち着かなさそうにしており、やがて注意した。
「おい、シノ。本を読みながら歩くと危ないぞ」
「えっ? 大丈夫です」
「転んだら怪我をするぞ」
「だいじょーぶだよお、ボロックゥ。私はちゃーんと気をつけているからね」
まあ、放っておこう。本人が大丈夫と言っているのだから大丈夫だ。転んでも自己責任であるのだし、それに魔獣は怪我をしてもすぐ治る。回復魔法もある。
やがてその公園に到着した。
クレナチア(紫色の桜)が公園全体を囲むように立ち並んでおり、花々を咲き誇らせている。爽やかな花の淡い香りが運ばれてくる。生命の息吹を感じる光景。おお、綺麗なもんだな。
ピンクの髪色がはしゃいで飛び出す。ぴょこぴょこと揺れる小さなお尻。可愛いったらない。これだからガキは好きだ。
「わぁっ、クレナチアがいっぱい咲いてる!」
「凄いですっ」
「ぐるうっ」
シノと狼もそれぞれ嬉しそうな声を上げた。前をゆくエヴリルがこちらを振り返って両手をいっぱいに開く。そのままくるくると横に回転した。子供のように浮かれている。エヴリルスマイルである。
友人夫婦はすでに到着していた。太い切り株のベンチに並んで座っている二人。男性の方はギター、女性の方はアコーディオンを演奏している。アンサンブルが響いていた。賑やかなメロディーである。
ルタークとヘミリー。
子供っぽい雰囲気であり、それがコンプレックスなのか髭を生やしている男性がルターク。それと、今もベアビリーズ食堂でウェイトレスをしているこの女性がヘミリー。おしとやかな性格と顔つきの看板娘だ。あんまり褒めたくないけどな。照れくさいからさ。
俺は二人に近づいて行った。右手を上げて声をかける。
「よう、二人とも。遅くなったか?」
二人が気づいて楽器の演奏をやめた。座ったままこちらを振り返る。
「おっ、スティフ。いやいや、僕たちも今ここに着いたばかりだよ」とルターク。
「スティフ! 頼まれていた曲、出来たわよっ」とヘレナ。
「ありがとう。作曲費はいくらだ?」と俺。
「金なんて」
「お金は要りませんっ」
二人がふふふと微笑む。
半年前、ルタークはヘレナにぞっこんであり、毎日のように食堂に通っていた。気づいた俺が機会を作ってくっつけてあげたのだ。あれは愉快だった。
髭の男性は音楽を仕事としており、ヘレナは趣味である。だけど幼い頃から彼女はピアノ教室に通っていたのだとか。
俺の後ろには魔獣の二人と一頭が手持ち無沙汰に立っていた。顔を強ばらせている。そう言えばこいつらって人見知りするのだろうか? 分からんけど。
ルタークとヘミリーにビーストたちを紹介する。
「こっちが俺の魔獣であり従者で、エヴリルとシノとボロックだ」
二人が楽器を手に持って立ち上がる。新品のような光沢を帯びたギターとアコーディオン。ルタークがご丁寧に頭を下げた。
「こんにちは。初めましてだね。僕はルタークっていう音楽家だ。今日から君たちの先生ってことになる。よろしくね」
「せ、先生!?」
「先生ですか?」
「ぐるう、どういうことだ?」
三者が戸惑っている。
ヘミリーがジト目で睨みつけてきた。
「ちょっとスティフ、何も言ってないんじゃないの?」




