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112 全滅必至


 ダンジョン地下四階



 今、魔獣たちの戦い方がめちゃくちゃだった。これじゃあ前へ進めない。俺は顔を険しくして舌打ちをする。おい、おめーら、ちゃんとやれ。



 出現しているモンスターは水色のスライムにまたがる小さな騎士、スライムナイトである。こいつらがやけに強い。無詠唱の回復魔法を使いやがる。おかげでダメージを与えてもすぐに傷口を治療するのだった。



 エヴリルとボロックは互いに独立独歩を貫いており、協力して倒そうという気が無いようで。そのせいで敵の反撃をくらって血を流す始末。



「――アクアヒール」


「愚かな貴方に恵みの水よ」



 シノが回復魔法を連続で唱えている。水弾を撃つタイミングを見計らっているようだが、今のところ一回も放てていない。味方に当たる危険性があるからな。



 いい加減にしろお前ら。俺は指示を飛ばす。



「エヴリル、ボロック、協力して一体ずつ倒せ!」


「やろうとしてるわよ! ボロック、あたしの攻撃した敵を攻撃しなさい!」


「グルウ、違う。手分けをした方が良い。囲まれたらやられるぞ!」



 別々の敵を攻撃し始めるゴスロリ服と銀狼。スライムナイトを倒すには倒すのだが、殲滅速度は遅かった。モンスターの沸くスピードの方が早く、やがて六体の敵に囲まれる次第である。



 エヴリルが唱えた。



「――鳳凰剣舞」


「今宵は花見酒。王子様、愚女と踊っていただけますか?」



 三つの炎の斬撃が洞窟に吹き荒れた。おい! お前の火の刃がこっちに飛んで来ているからな! シノと俺は慌てて回避する。



「おい! エヴリル!」


「危ないですっ」


「うるっさいわね。いま、戦っているんだから声をかけないで!」



 くそったれ。これではスライムナイトの出現過多となり全滅が必至だ。



 戦い方をどう教えたら良いものだろうか? いや、違うな。危機感を自らで感じて身につけるしかないんだ。そうするにはどうすればいいのだろうか?



 増殖し続けるモンスターたち。その数がいま十を超えた。



「こ、これじゃあもうダメだわ!」


「ぐわうるぅぅ、敵が多すぎる」


「――水弾」


「水しぶきは風に運ばれ。飛んで貫き給え」



 シュンシュンシュンシュンシュンッ。



 起死回生の攻撃魔法をシノが飛ばす。だが、その一発ずつがエヴリルの肩とボロックのお尻にヒットした。派手にぶっ飛んで洞窟の壁に叩きつけられている。骨が折れたと思う。あちゃー。



「痛いっ!」


「グワァァ!」


「ご、ごめんなさいごめんなさい。えっと、――アクアヒール」


「愚かな貴方に恵みの水よ」


「――アクアヒール」


「愚かな貴方に恵みの水よ」



 ピンク色の髪の少女と銀狼が水のような泡に包まれた。怪我が回復する。二人が立ち上がり、恨みがましげにこちらを睨み付けた。



「ちょっとシノ! どこ狙ってんの!」


「我を殺す気か!?」


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「馬鹿お前ら、前を向け!」



 俺は叫んだ。スライムナイトの剣がエヴリルの体を今まさに斬りつけようとして、



 ガツンッ。



 ボロックが牙で防ぐ。



 俺は悲観してため息をついた。「ステータスオープン」その中からダンジョン水晶を取り出して床に置く。



「来い! 三人とも。帰還だ」


「もう、逃げるしかないわ!」


「撤退だ!」


「ごめんなさいです」



 ゴスロリ服と銀狼が走ってくる。三人と一頭が水晶に触ったところで俺は唱えた。



「帰還」



 ……。



 ダンジョンから出ると俺は疲れた息をついた。深刻な気分で首を振る。



 すぐそばでは魔獣たちが言い争いをしている。



「どうしてボロックはあたしの言うことを聞かないの!」


「言う事を聞けだと! お前は何様のつもりだ!」


「二人とも、スティフの言うことをもっと聞いた方が良いと思います!」


「シノ! 大体貴方、あたしに攻撃魔法をぶつけないでよ。おかげで骨が折れたじゃない。もう二度と撃たないで!」


「そうだ! シノ、お前は時でも無いときに魔法を撃ったな。あれは痛かったぞ!」


「ご、ごめんなさいですぅ」



 今日もダンジョンからの儲けは無い。これでは銭袋が軽くなる一方である。というか三人と一頭ぶんの食費を計算するとあと一ヶ月ほどしか金が無いんだよな。そしてこいつらは地下四階すら攻略できないでいる。本当、やれやれである。



 俺は歩き出した。



「ちょっと、スティフ、どこ行くのよ」


「スティフ、我は悪くないぞ」


「スティフ、どこへ行くんですか?」



 胸ポケットからアパートの鍵を取り出し、エヴリルに渡した。そして感情のこもらない声で指示する。



「お前らは先にアパートに帰れ。俺は働いてくる」


「働くって、何するの?」



 ピンク色の髪の少女の瞳が不安そうに揺れていた。しゅんとした表情になり、泣きそうに目を細める。目尻から涙がつたった。



 ステータス画面から銭袋を取り出して、今度はシノに渡す。



「シノ、これ」


「あ、はい」



 俺は二人と一頭に背中を向けた。右手を上げる。



「みんな、好きなものを好きなだけ食べて良いぞ。夜には帰る。じゃあな」



 行く先は前に働いていたおとっつぁんの経営するベアビリーズ食堂である。頭を下げて何日か働かせてもらおうと思った。



 二人と一頭は途中まで着いてきた。



「スティフ、怒っているの? ごめんね、ごめんなさい」


「グルゥ、スティフ、すまぬ」


「ごめんなさいです!」



 謝る二人と一頭を無視して歩き続ける。いまこいつらに必要なのは謝ることではない。考えることだ。その上で真剣に話し合えよな。生きて飯を食うって言うのは簡単なことじゃないのだから。


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