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111 埋葬


 とろける肉が売り切れだった。



 ピンク色の髪とエメラルドグリーンの双眸の少女たちがニカニカと笑みを浮かべつつお腹を押さえている。腹がぷっくりと膨れており、ちょっと食べ過ぎだった。美味だったので仕方無いんだけどな。



 というか今度からは野菜を持ってこよう。子供らの栄養が偏っちまうといけない。



 バーベキューセットを洗いもせずにステータス画面にしまう。洗うのは家に帰ってから。使い終わった木炭は通路の隅に避けておいた。



 食事を終えると銀狼はまた主人の死体の元へと戻ったようだ。ちょこんとおすわりをしている。口の周りがソースで汚れていて、それを舌でなめて綺麗にしている。寂しげな影が差していた。



 ピクニックシートを俺は片付けつつ、



「あの死体を埋葬しないとな」


「埋葬するの? そんなことしなくても良いのに」



 エヴリルが眉をひそめる。不満そうに揺れる瞳。左手を腰にびしっと置いた。



 俺は顔を振る。



「馬鹿。あのままじゃ、死体と狼が可哀想だろ」


「それはそうだけど。じゃあ、どうするのよ? この洞窟に穴でも掘るの?」


「いや、町の共同墓地まで運ぼう。俺がやる」



 調理セットを片付け終えて、俺は銀狼に近づいて行った。「ちょっと噛まれるわよ」エヴリルが注意をこぼしつつ着いてくる。その後ろからシノも追いかけて来た。



 銀狼はもう攻撃してこなかった。しかし獰猛(どうもう)に口をわななかせ「グルルゥ」と威嚇の声を発する。めっちゃ睨んでいる。こいつの顔、格好いいなー。



 しゃがみ込み、優しく語りかけた。



「俺はスティフだ。お前、名前は?」



 魔獣は魔力で思いを言語化できるはずである。



「……ぐるぅ、我はボロック」


「そうか。ボロック、お前の後ろにいる主人は気の毒だが死んでいる。良かったら、俺たちに埋葬させて欲しい」


「主はまだ生きている! 寝ているだけだ!」



 こいつ可哀想な奴だなー。どうしたもんか。



「じゃあ、息をしているかどうかを確かめさせて欲しい」


「主に触れるな」


「触れるなと言われても、触らなきゃ確かめようがないな」


「主はもうじき目を覚ます。スティフよ、去れ」



 頭の硬えー奴。お前だって本当は気づいているだろうに。肉の腐ったような死臭が漂っているからな。お前はただ、主人が死んだことを認めたくないだけじゃないのか? 



 ピンク色の髪が前に出た。きつく尖った鋭い瞳。銀狼をびしっと指さす。



「残念だけどねえ、貴方の主人は明らかに死んでるわ。こんなところに打ち捨てておくなんて、主人に気の毒だと思わないの? それに貴方が守ってたら、天国に行きたくても行けないじゃないの。可哀想よ!」


「……ぐるぅ、何だと」


「せっかくスティフが埋葬してあげるって言ってるんだから、貴方からもお願いしなさいよ。主人を無事に土へ還してあげること。それが従者としての最後の使命だわ」


「……きゅーん」



 ボロックは立ち上がり、死体を振り返った。その服の匂いをくんくんと愛おしそうに嗅ぐ。またおすわりをした。別れたくないようだ。こいつ、主人のことが大好きだったんだな。



 俺は近づき、デニムジャケットの死体を背中に担ぐように持ち上げた。ちくしょう臭い上に汚い。だけど仕方の無いことだよな。



 銀狼がびっくりしたように見上げる。



「おい、主をどうするつもりだ!」



「共同墓地へ運ぶ。お前も来い」



 ポケットからダンジョン水晶を俺は取り出した。しゃがんで地面に置く。



「みんな、水晶に触ってくれ」


「はーい」とエヴリル。


「スティフは優しいな」とシノ。


「どこへ行くつもりだ?」とボロック。


「だから共同墓地だって言っているだろ」と俺。



 銀狼が悲しい顔をしつつ水晶に触れる。みんなが手を伸ばした。俺は「帰還」と唱える。



 三人と一頭がダンジョンの外へとワープした。



 ……。



 ダンジョンから町の教会へ真っ直ぐに歩いた。死体を担いでいる俺を、通りかかる町民が眉をひそめて眺める。臭いものを見るような目つきだ。いや実際、死体は臭いんだけどさ。しかしうっとうしい。



 やがて教会へとたどり着く。神父と話をして死体を葬ってもらう。金貨一枚を支払うことになった。



 俺の財布の中身が減ることは無かった。死体のズボンには銭袋があり、金がいくらか入っていたからな。



 こうして、ボロックの主人は土葬された。墓石に、マイル、ここに眠ると文字が刻まれる。主人の名前は銀狼が教えてくれた。そいつが墓前におすわりをして、いついつまでも別れを惜しんでいる。その瞳からはまた涙がこぼれていた。



 夕方。



 やっとボロックが墓を離れて歩いてくる。俺たちはずっと待っていた。



「スティフ、まだあの狼の用事があるの?」



 エヴリルがぶつくさとぐずっていたが、狼を野放しにする訳にもいかない。人を襲うようになったら大変だ。狂犬扱いされて冒険者に退治される恐れがある。



 俺たちが待っていたのを銀狼はびっくりしたみたいだった。立ち止まり、うろんな瞳でこちらを見つめる。大型犬ほどの体躯だ。



「ぐるぅ、お前たち、まだいたのか?」


「ああ。ボロック、これはお前の金だ」



 俺は歩み寄り、主人の銭袋を渡す。ボロックは口でくわえた。



「すまんな」


「お前、これから行くところあるのか?」


「また魔獣ギルドへ戻ろうと思う」


「そうか。なら、俺の魔獣になればいい」


「……い、いいのか?」


「ああ。お前は強いみたいだし。歓迎するぞ?」


「何から何まで、すまない」



 エヴリルとシノが俺を追い越して前に出た。



「貴方、もう噛みつかないでよね!」


「ボロックさん、よろしくお願いします」


「分かった。噛みつかない」


「それならいいわ。ちゃんと働いてよ」


「我はこれでも強い」


「自分で自分を強いという奴は弱いって決まってるのよ」


「ぐるぅ、そんなことはない」



 こうして、ボロックが仲間になった。俺たちはその足で魔獣ギルドへと向かう。銀狼と魔獣契約を書面で結ぶためだった。



 それにしてもである。今日も俺たちは儲けが何も無いんだよな。こんなことがあったから仕方無いんだけどさ。死体の銭袋はボロックにやっちまったし。



 そろそろ本当に金を稼がないとまずい。家霊(やれい)を迎えるために家を買いたいしな。



 家霊とは、住人の仕事スキルの成長率を上昇させてくれるありがたい神霊様のことである。ミアレスフィアでは家を買い、家霊を迎え入れることでやっと一人前扱いされるのだ。



 特に詠唱スキルってのは貴重なもんで、人間(魔獣も含む)は中々覚えやしない。エヴリルも一つしか習得していないようだしな。



 仲間も大分集まったことだし、そろそろ本格的に仕事を軌道に乗せるべく、邁進することにしますかね。まあ、焦っても仕方無いんだけどな。



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