101 青天の霹靂
デロデロデロデロレン、ドロンッ。
「残念なことに、人生のセーブデータが消えました」
がっかりの効果音と共に、神様の声が聞こえた気がした。
職場の定食屋でカツ丼を作っていた俺は、突如として宇宙空間に移動した。目の前にはデカい大仏がいる。ちょっ、いきなり何が起こったって言うんだ? 俺は気でも失って、夢を見ているんだろうか? 分からない。それにしても大仏こわい。
金色の巨大像が喋った。
「申し訳ありません。貴方の地球でのセーブデータは強烈な衝撃によって消えました。もう一度、やり直しますか?」
……は?
いや……。
意味が分からない。
セーブデータが消えるって、昔のスーパーファミコ○じゃあるまいし。というかこの地球での人生はゲームだったのだろうか? 疑問を俺はぶつけた。大仏は頷きもせずに肯定を口頭で示す。
「その通りです」
「あ、あの、じゃあ、もう同じところからやり直せないんですか?」
「はい、やり直せません。セーブデータは消えましたから」
俺は何回か頷いて、独り言ちつつ聞いた。その場にあぐらをかいて右手のひらで膝を何度も打つ。
「何だよ、やっぱり人生はゲームだったのかよ。ずっとずっとおかしいと思っていたんだ。生まれつき俺は、運が悪いって設定だったんですよね? だって家は貧乏だし、初詣で引くおみくじはいつも大凶だし、カラスのフンにはよく当たるし、近所の狂犬には追いかけられるし、グッピーを飼うと一日で死ぬし、兄貴は結婚したって言うのに俺にはいつまで経っても人生の恋愛イベントはやってこないし、それでいて料理だけは誰よりも上手いってのは、この料理のチート能力は大仏様がゲームだからってギフトしてくれたんですね? ああ、納得がいきました」
「……マア、そんなところです」
「だけどどうして俺は、運が悪いっていう設定だったんですかね?」
「……キノセイ」
「気のせい!? 気のせいじゃないっすよ! 学校に傘を持って行かない日は必ず雨が降ってくるし、友達がいじめられているから助けようとしたら、今度は俺がいじめられるし、だいたい大学受験の日に大風邪を引くとかないっしょ! おかげで本領が発揮できなくて、落ちちゃったじゃないですか、大学。おかげさまで家の稼業を継ぎましたよ。ええそうです。定食屋です」
「……キノセイ」
「いやいやいや、気のせいじゃないっす。運が悪すぎます。まあ、セーブデータが消えたようなんでもう良いですけどね。ハァ……もう一つ聞きたいんですが、どうして俺のセーブデータは消えたんですか? さっき、強烈な衝撃によって消えたと言っていましたが、まあ異世界もののアニメにありがちな、交通事故とかですか?」
「女の子に告白されたことです」
「……は?」
「先ほどカツ丼を作っている最中、幼馴染の女の子が厨房に入って来て、貴方に愛の告白をしました。超弩級の衝撃に見舞われて、貴方はセーブデータが飛んでしまったのです」
「俺、告白されてセーブデータが無くなったんですか!? それって人生勝組になる直前じゃね? い、意味が分からないし。とんだやわなセーブデータもあったもんだなおい!」
大仏は表情をそのままに厳かに語った。
「もう一度人生をやり直しますか?」
「やり直すも何も、俺のこれから始まるハッピーライフを返せこの野郎!?」
「それはできません」
「できないだとこの野郎! ふざけんなよ! やっと幸せになれるって言うところだったのによお! 殴って良い?」
「人生をやり直しますか?」
「やり直すも何も、やってらんねーよ、ったくよお。人生やり直したとしても、また幸せになる直前でセーブデータが飛ぶんじゃねーのか?」
「……ダイジョウブ」
「不安そうな声色で慰めの言葉を吐くんじゃねえ!」
「大丈夫です。さて、人生をやり直すというのは嘘ですが」
「嘘だったの!? 今までの話、全部嘘!?」
「次は地球ではありません。ミアレスフィアという世界になります」
「勝手にどんどん話を進めんじゃねー!」
俺は動悸が激しくなった。くそ、この大仏め。まさか愉快犯なんじゃねーの? それで俺の人生をバッドエンドにして楽しもうって魂胆なんじゃないのか?
「ミアレスフィアに、貴方の体を転移します。剣と魔法とダンジョンの世界です。チートギフトはありません。それでは、グッドラック」
「おいふざけんじゃねえ! 俺の人生を返せコラ! セーブデータカムバック! かむばっくとぅーみー♪ らーらーらー♪」
もうやけになって歌いながら、俺の体は白い光に包まれた。




