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第一話 リンドウ・アカツキという男-5


「よくもやってくれたな、リンドウ!」


 あの後、「泊まっていきなさい」というツクヨの言葉に甘えてリンドウはシノノメ家で一晩過ごした。夕方には体調が回復したキキョウと彼女の兄弟に囲まれて楽しいひと時を過ごし、次の日は後ろ髪を引かれるように自宅に帰宅。


 そして帰宅早々にこれである。


「俺が何をしたっていうのですか、親父殿?」


 和風屋敷——アカツキ家の執務室に呼ばれ、扉を開けば父親から開口一番に怒鳴られた。だが、リンドウは臆することなく、それどころか父親の怒号を鼻で笑って毅然とした態度で革張りのソファに足を組んで腰かけた。


「俺は親父殿の命令通りに皇族主催の夜会に参加し、婚約者殿と踊っただけですが?」


 踊ったと言っても習得したばかりの術式を長い時間駆使するのは難しかったため、一曲踊っただけでリンドウは早々に帰ってしまったわけだが。


「それが問題だというのだ!」


 握った拳を執務机に叩きつけ、リンドウと同じ精悍な顔立ちをした父親はその目を吊り上げる。


「私は新しい婚約者を探してこい、という意味でお前に夜会に行けと言ったのだ! なのに、お前ときたら余計なことをしよって! これでは誰も婚約の話を持ってこないではないか!」

「可笑しいですね、親父殿。俺にはちゃんと婚約者がいる」


 幼い頃から愛を誓った女性が、と父親とは正反対にリンドウは涼しげな顔で言い返す。


「婚約者がいる俺が何故婚約者探しなどしなければいけないのですか?」

「その婚約者が死ぬからだろうが!」


 刹那——先程まで父親の言葉を受け流していたリンドウの目つきが鋭く変わり、「チッ!」と舌打ちをした。


「口にする言葉には気を付けろ、親父殿。――俺の婚約者は死なない」

「愚か者。アレは歴史にすら残されていない未知なる呪いだ。解呪など不可能に等しい」


 この世界の人々は大小の差はあれ、生き物であればその身に霊力を宿している。霊力の使用方法は一時的に足を速くするなどといった身体能力の強化から遠くにある岩を浮かすといった物質操作など幅広く、特にアカツキ家は霊力技術に長けた一族であり、首都を囲う結界を始めとした術式関係を生業としている。

 故に、『呪い』に関してこの国で最も詳しい一族であるとも言えるだろう。


「いつ死ぬかわからん女にお前の婚約者は務まらない」


 ダン——! と。大きな音が執務室に広がった。


「聞こえなかったようだなぁ親父殿? 言葉には気を付けろと言ったはずだ」


 立ち上がり、執務机は挟むように父親と向かい合い、睨み合うリンドウ。先ほどの大きな音は両手を執務机に強く叩きつけて発生したものだ。


「俺の婚約者、女、恋人、愛は全てキキョウだけ。他の女なんて俺には必要ない」

「我儘もいい加減にしろ。お前はこのアカツキ家の後継者であり、役目は家の存続だ。貴族に生まれたからには果たさなければならない」

「だったら俺を後継者から外せばいいって言っているだろう! 婿を取らせて妹を後継者にすればいい!」


 警告を無視して逆鱗に触れ続ける父親にリンドウはとうとう怒鳴り声を上げた。だが、父親の方もそれ以上の声を張り上げて対抗する。


「お前のような才能に溢れた者を後継者にしない馬鹿が何処にいる! いいか! この家の未来にはお前の才とお前の血を引く子どもが必要なのだ!」

「だから他の女で子を作れと? ふざけるな!」

「ふざけているのはお前だ! いつ死ぬかもわからんキキョウ令嬢に子など無理だ。そんなにキキョウ嬢を近くに置きたいのならば愛人にでもすればいい!」


 愛人——、その言葉にカッとなってリンドウは執務机を拳で殴った。


「貴様がそれを言うな!」

「全くその通りですわね」


 突然、この怒号合戦を終わらせるかのように高い声が突然割り込んできた。


 声がした方、部屋の入り口に顔を向けると細身のドレスを着た女性が一人――長い赤い髪を手で払い、開いた扇子をパチンっと音を立てて鳴らす。

 その顔はリンドウ、そして父親にもよく似ている。


「愛人なんて言葉、お父様には気安く口にして欲しくないものですわ」

「モクレン……!」

「姉上!」

「ごきげんよう、お二人とも。でも、ワタクシは忙しいのでリンドウをお借りして早々に失礼いたしますわ」


 姉上——モクレンは挨拶も早々に執務室の中へ入り、リンドウの腕を引っ張って一緒に退出するように促した。その行動を否めようと咄嗟に「おいっ!」と声を出した父親だが、そんな彼をモクレンは白と赤紫を帯びた不思議な虹彩をした目で一瞥しただけで無視し、そしてそのままリンドウを部屋の外へと連れ出して容赦なくピシャンと音を立てて障子を閉めた。


「リンドウ。ワタクシ、貴方の一途な姿勢が大好きですわよ」

「……ありがとうございます」

「それゆえに危なっかしいところがありますけれど」


 行きますわよ、とまるで母親のようにモクレンは手を引っ張って歩き始める。もうすぐ二十歳になる男が幼子のような扱いをされて少々恥ずかしいが、それでもリンドウはその手を離すことができなかった。


「貴方は後継ぎなんてものに執着はないから譲る相手さえいればすぐに捨てられる子。まぁ、優しい子ですから今まで受けた恩恵に申し訳なさがあると思いますけれどね」

「それは後を継がなくても返せます……」

「そうですわね、貴方はそういう子」


 若干不貞腐れた返事にモクレンは笑って振り返り、自分より上にあるリンドウの頭へと手を伸ばして姉弟お揃いの赤い髪をなぞるように撫でる。背が高いのは自分の方のはずなのにまるで小さな子どもに戻ったような錯覚に陥ってしまいそうになる。


「お父様はワタクシたちを愛してくださっているけど、時に言葉を選ばなさ過ぎる……辛かったですね?」


 その言葉にリンドウは目を見開いた。


「ありがとう、ございます……」


 そして、父親には見せなかった苦悶の表情を浮かべた。


※第一話のみ、2026/01/02の11:00 から10分おきに続きが更新されます。

※どうぞ続きをよろしくお願いします。

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