第二話 存在しない錬金術師-8
「……この世界にあるもの?」
「この世界ってなんでもあるよ?」
そう言って少年は傍らに置いてある鞄を漁り、取り出しては次々と地面の上に並べていく。リンドウはイラつきを残しながらも、先程の少年の言葉に引っかかりを覚え、黙って並べられていくそれらを見つめる。そして、教養あるその頭でそれら一つ一つがどんなものであるか当てていく。
「鉄鉱石に石灰石……宝石まであるのか。……それは紅玉か?」
鞄から取り出されているのは全て鉱石だ。それも大量に鞄の中に入っていたようで、あっという間に目の前が石だらけとなってしまった。どれも見ただけでわかるほどに純度が高く、特に目の前に置かれた紅玉は鮮やかで深みのある赤色を持っていて。その輝きと大きさから上位貴族でも中々お目にすることのできない大変希少価値の高い代物だと伺える。
「侯爵家でも見たことがない……何故、こんなものを持ち歩いているんだ?」
この宝石に特別な術式でも刻まれているのか、と。ジッと紅玉を見つめるリンドウに少年はさも当然のように答えた。
「拾ったんだよ」
「えっ?」
「ここにあるもの、全部さっきのフィールドに落ちてた」
「落ちていたって……!」
その回答に驚き、リンドウのイラつきは霧のように散っていった。
「これら全部を、か? 全部鉱山にあるものだぞ?」
再度目の前に広がる鉱山を確認するが、やはりどれも採掘でしか手に入らない代物だ。それらを巨大な昆虫がいた以外は平凡な草木の道であったフィールドに落ちていたというのか。その事実に今度はリンドウが信じられないといった顔で少年に問いかける。
「石だけじゃないよ。ほら、あそこの花と見てみなよ」
そう言って少年が指を差す。その指先を追いかけて泉の向こう側、水辺付近に目を向けると言葉の通りに花が咲き広がっていた……が、その花の種類にまたもや驚きの声がその口から零れた。
「チューリップに菊に彼岸花……アサガオさえあるぞ……!」
園芸が趣味であるリンドウだからわかる。全てバラバラの季節に咲く花々だ。それらが人の手が加えられずに同時に自生している。
「他にも山や海……生息する環境が全く違う植物同士が隣接しているんだ。それにこれも……さっきの会話からしてこれも普通じゃないんだね」
少年は鞄からいくつか取り出したものを両手で抱え込み、その一つをリンドウの前に突き出した。
それは少年の掌より大きい、透き通った透明な——霊力石。
「馬鹿な!? こんな大きな霊力石までも落ちていたというのか!?」
よく見れば更に二つ、同じ大きさ程の霊力石を少年は抱えていた。一つ売れば庶民の平均的家庭であれば一年以上は不自由なく食べていける。それほどまでに価値の高いものだ。
「ボクの戦法は逃げの一手だ。だから、戦う代わりに使える物がないか周りを命探索するんだ」
目を見張るリンドウに少年は確固たる自信を持った目を真っ直ぐに向けた。
「だからきっと、この普通ではない世界にもあると思う。キミが懸念してると思うお札の材料が」
リンドウは彼の注意深さに驚嘆した。自分も注意深く周りを見ていたが、回復の大樹に辿り着くことが目的だったが故に敵の『観察』に重きを置いていた。対して少年は注意深く環境を『探索』して沢山の資源を手に入れた。同じ注意深さでも見るべき対象が違っていたのだ。
だが、同時にその行動に違和感を覚えた。
「材料の入手方法が普通ではないことはわかった……が、何故これらを持ち歩いている?」
「——!」
一瞬少年の肩が小さく跳ね上がる。悪意があるとは疑っていない……だが、この後も共に行動するならば、この違和感は取り除かなければならないだろう、とリンドウは直感で判断した。
「売れば金にはなる。だが、ここは命を賭けた世界。戦法は逃げの一手と言っているにも関わらず、どうして身を重くする鉄鉱石などを持ち歩く?」
金が欲しければ価値のある宝石類だけを持ち歩けばいい。それなら身の安全と両立できるだろう。だが、そもそも霊力石の価値を知らなかった少年が金に固執しているとは到底思えない。
(ならば、もう一つの線が答えに近い、か……)
少年の顔……の横、両耳を一瞥する。癖毛で隠れているが、何も身に着けていないことが髪の隙間からわかる。
「それに、先程の戦いで使っていた焙烙火矢と洋刀は何処から持ってきた? 決められた職以外の所持は基本国では違反だ。まさか法を犯して隠し持っていたわけではないだろうな?」
「あ、あれは拾ったんです!」
「ほう、あれら全部が落ちていたのか?」
集団の中から若いソバカス顔の男が少年を庇うが、そんな姿にリンドウは容赦するわけもなく、その男にも同じように詰め寄った。
「鉱石には気付かなかったが、あのようなもの……特に洋刀が落ちていればで俺も流石に気づくだろう。……だが俺は迷宮内では一度も見かけなかった」
それに対して、彼らは六振り——一人一振りを所持している。それを運よく全員が手にすることができた、と納得することは到底できないだろう。
「な、何が言いたいんですか!」
「待って!」
震えながらも歯向かうとするソバカス顔の男を少年が手で制した。
「だけど!」
「元々言わないきゃいけないことだったんだ……それにここの人は一番の戦力になる人だ。」
生き残るためには貴重な戦力である相手とは仲間割れをするべきではないと少年は充分に理解しているのだろう。霊力石を置き、鞄からまたいくつか材料を取り出して先程並べた鉄鉱石をその手に取る。その様子にリンドウの警戒心は強くなり、一瞬たりとも逃さないように凝視する。大きな鞄と大量な材料、注意深き探索力、所持を許されていない武器。その三つから導かれるリンドウの推測は次の少年の行動で確信に変わることになる。
その腕の中にあるのは鉄鉱石、布、動物の皮。それらを抱えたまま少年は目を閉じた。集中力を高め、己の霊力を腕の中に集め始め——少年は祈りの言葉を口にする。
「『神よ。貴方様にいま願い奉ります』」
瞬間——彼を中心に術式が地面に浮かび広がった。
抱えていた材料たちは輝き出し、溶けるように形を失っていく。お互いを受け入れ、重なり合い、やがて全てが一つになるように集まり一つの塊となる。その光景にリンドウは腰にある刀を握った。
融合した物質はそのまま更なる光に包まれ——一瞬にてして周囲へと光が飛び放つ。
「これがボクの正体だ」
腕の中に残ったのは、一本の短剣だ。
「やはりそうか——!」
リンドウは瞬時に抜刀し、その切っ先を少年に向けた。
「待ってくだせぇ、リンドウ殿! 坊主にも事情があるんだ!」
「事情があったとしても法を犯していることには変わらん」
それが国に仕える者としての義務であるとでも言うように、リンドウの腕は迷うことなく真っ直ぐに切っ先を少年へと突きつける。
「名乗れ、無法者。ゲーム中であろうとも、貴様を野放しにはできない」
「もちろん名乗るよ。ボクの名は無法者じゃない。家族からもらった自慢の名前を持っているんだ」
冷や汗をかきながらも少年は切っ先に怯むことはない。リンドウにも負けない強き目を向け、同じく力強い声で己の名を名乗った。
「ミツル。ミツル・キザハシ……!」
「——貴様!? あの国家犯罪者組合『空のキザハシ』の錬金術師か!?」
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