第二話 存在しない錬金術師-5
「くるなっ!! くるなったら!!」
リンドウは風を纏った足で跳び、叫び声が聞こえる付近に着地して下を見た。そこには鳥打帽を被った男……いや、少年が行き止まりで数体の巨大カマキリに追い詰められていた。少年の手には大きな洋風の剣が握られているが、その体格には似つかないが故に重さに負けて引き摺るように持っている。
「ギョエエエ!!」
「坊主大丈夫だ! いま行くぞ!」
少年だけではなかった。よく周りを見ると少し離れたところで男たちが数人、洋風の剣や斧を構えて巨大なカマキリと対峙している光景が目に映った。
(他に参加者がいたのか!?)
考えてみれば、司会者アオは『プレイヤーの諸君』『参加者の皆さん』と口にしていた。だけど、この平和な時代に自分のようなゲームへ参加する大馬鹿者が他にもいたと誰が思うだろうか。その事実にリンドウは仰天する。
「くるなってば!!」
両手を大きく持ち上げて襲いかかってきた先頭のカマキリの懐めがけて少年は叫びながら黒くて灯りの灯った何かを投げた。その数秒後、黒いものは一瞬赤く光り、すぐさま破裂音を周囲に広げて爆破した。
「焙烙火矢だと!?」
何故焙烙火矢を持っているのか。ヒ・イズル帝国では国が許可した職業でなければ大量の火薬を所持することは許されていない。手持ち花火の火薬を集めて爆弾のようなものを作る馬鹿はたまにいるが、いま見た威力はそんな規模では収まるものではない。専用の火薬で作られた正真正銘の焙烙火矢だと言えよう。
爆発をモロに受けたカマキリはその場に倒れた……だが、それを踏み越えるように後ろのカマキリたちが詰め寄ってきて、さらには爆撃に気付いた他のカマキリたちがこちらに向かってきているのが壁の上から確認できる。
いまならまだ距離がある。木に登って逃げろ、と叫ぼうとした時に少年が一か八かのように剣を捨てて木に登ろうとした……が。
(登れないのか!)
木登りの経験がないのだろう。鍛えている自分とは違い、力の入れ方がわからない少年は自身を持ち上げることができない。その姿を嘲笑うかのようにカマキリたちが次々と両手の刃物を研ぐように擦り合わせる。
焙烙火矢には限りがある。このままでは少年は食べられてしまう。
(周りの救援は!?)
先ほど少年に声を掛けた男——斧を振り回す逞しい老人だが、他の仲間を助けるために目の前のカマキリに手こずっていて救援には向かえない。他の仲間も同じく、少年の元に向かうには敵が多過ぎる。
「クソッ!」
《シャッフル十分前ぇええ!!》
再度残り時間を知らせるアオの声がフィールド中に広がった。
(どうする——!?)
助けるか、助けないか。 突然迫り来る二択にリンドウは動揺する。
残りの時間で少年……だけではなく、ここにいる全員を助けて、このフィールドの間に『回復の大樹』まで無事辿り着くことはできるか……と考えたがリンドウはすぐに無理だと判断した。
(札を使いまくったとしても時間内に全員辿り着けることはできない!)
この後に現れるフィールドが環境変化以外に何があるのかわからない。もしかしたら巨大昆虫以外の化け物がいるかもしれない。そんな未知なる環境に変わってしまうことがわかっているのに、ここで有限である札を大量消費してしまうのは得策ではない……ことぐらいリンドウはわかっている。
神様ゲームは生き残った者が勝者だ。参加者が一人でも残っていればゲームは続行される。故に全体の九十九%の参加者が死んでも問題はない。
己の欲のために参加したのだ。馴れ合う必要などない。願いを叶えたければ心を鬼にして切り捨てろ。勝利への歩みを邪魔する弱者などいらない。
(生き残らないと——!)
だが、リンドウの目は少年から離れない。いつの間にか呼吸が浅くなり、冷や汗が流れる。
(キキョウのために俺は——!)
バックンバックンと慌しい鼓動が鼓膜に伝わる。胸の下にあるはずの心臓が耳の横にあるように錯覚してしまう。
(俺は……!!)
『リンドウ。あちらにも火を貸してくれないかしら?』
「……!」
何故か。
リンドウの脳は『あの日のキキョウ』を思い出した。
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