第二話 存在しない錬金術師-4
迷路内で見つける木は全てレンガの壁を超えている。最初は特に意識していなかったが観察を繰り返すことでこれは地表の虫からの逃走用であり、上からフィールドを確認する用でもあることにリンドウは気づいた。また上空を飛ぶ虫から身を隠すこともできることからこのフィールドで生き残るためには必要不可欠な存在であることが言えよう。
リンドウは木を見つけ探し出しては登り、レンガの壁の上に顔を突き出した。上空の虫たちにバレないように木の葉の間から目をキョロキョロ動かして次の移動地点、つまりは一番近い木を探して壁の上または地上から向かう。地味だがこれが一番安全に目的地に着く方法だ。
目的地を目指す過程で気付いたことがもうひとつ。どうやら虫たちは上空と地上でそれぞれ縄張りがあるようにみえる。地上の虫は鋭い爪を持っていても壁を登ろうとはせず、上空の虫は羽休めすることもなく飛び回っている。
一見全体を見渡せる壁の上だけを移動すればいいのでは、と思われがちだが足場が安定しない場所で地上ほどではないにしろ人間の頭部程の大きさの虫が馬と同等の速さで突っ込んでくれば転落死の可能性が高い。死を免れても転落による複雑骨折で身動きが取れず、地上の虫に捕食されるといった可能性もあるわけで。易々とどちらかを選ぶことはできない。故に時間はかかるがその時々で最善の道を選んで進んでいく。慎重に進んでいくことが一番安全なのである。
(そろそろか……)
目的地の大樹までだいぶ近づいてきた。
現時点でゲーム開始から数時間が経過している。リンドウがこのフィールドに着いてから最初に確認したのは時間だ。胸元から出した懐中時計の秒針が元の世界と同じように進んでいたことに安心した。もっとも時間経過は元の世界と同じであることはゲーム記録に記されていて知ってはいたが、自分の目で確認することでさらなる安心感を持つことができた。
周りを確認してみても上空の虫たちは近くにはいない。暫くは壁の上を歩いていっても大丈夫だろう、と判断して木から壁の上に乗り移った……時だった。
《シャッフル十五分前!!》
「——!?」
頭上から声が響き渡る。数回聞いただけなのに聞き覚えのある声、司会者アオの爆音が早口に、でもハッキリと説明し始めた。
《いまいる迷路が他の三つの環境どれかになるよ!! 極寒が砂漠になるか熱帯雨林が昆虫王国になるかは神でもわっかりませーん!!》
「なんだと!?」
突然のフィールド変更に思わず大声を上げた。ただでさえ数時間、休憩しながらとはいえ昆虫を回避しながら進んでいることで体力が削られているというのに、ここで環境による体力消耗まで加担されてしまうのは溜まったものではない。
《見ているこっちは楽しいぜ! みんな死ぬなよー!!》
「チッ! クソッ!!」
他人事のように言うアオに一つ舌打ちをし、リンドウは素早く頭を回転させる。
シャッフル前の残り十五分で大樹まで辿り着けるだろうか。環境による体力消耗は危険だ。最悪二枚、風属性の札を消費しても辿り着くべきだろうかと残りの札の数を思い出す。最後に札を使ったのは数時間前、褐色女に仕向けられたカマキリ戦で幸いまだ枚数はある。そう判断したリンドウは札を取り出してそれぞれの足に貼り付けた。
「付加術式・風属性発動」
カマキリ戦の時と同じく札から霊力の波紋が足に広がり一瞬緑の光を帯びる。風を帯びた足は壁の上の道が途切れていても飛び越えられ、虫に襲われても逃げることができる。
勝負の十五分。次の移動地点を最終目的地、『回復の大樹』として己の目線の一直線上になるように身体の向けた……が。
「くるなぁあああ!!」
「——!?」
突然、進行方向から叫び声が聞こえた。
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