第二話 存在しない錬金術師-1
ゲームの開催場所——フィールドは神々によって選定される。そこが異空間であることは確かだが、そこがどういう場所であるかは辿り着いた時にしかわからない。
そしてこの度、百五十年振りに開催されて参加者たちが降り立った第一フィールドは——巨大な迷路。一色のレンガで積まれた壁は大の男の背を優に超え、その景色は簡単に進む方向を混乱させて参加者たちを迷い人とさせる。
他の参加者たちと同じく異世界に飛ばされ、迷路の中に放り込まれたリンドウは——
「クソがぁああああ!!」
自分の背丈を軽く越える馬鹿でかいカマキリたちに追いかけられながら迷路内を爆走していた。
母の言葉を思い出した日——リンドウは大馬鹿者になると決めた。
周りには部屋に篭っているように見えていたようだが、実際は移魂術で影武者を作って自室で待機させ、皆を騙している間に唯一ゲーム参加に反対しなかったヒナタと共に過去の記録を片っ端から調べ上げ、開催日当日まで情報収集に努めた。
命を賭けている以上、これはゲームという名を戦場だ。生き残るためには情報をいち早く、より多く手に入れることが秘訣。 頭に過去の記録を叩き込み、必要な物資を集めて装備を整える。大馬鹿者になると決めたが命を落とす大馬鹿者にはならないために。
「なのにクソ女ぁ!!」
刃物のような両手を振り回して追いかけてくるカマキリたちから抑え切れない怒りを叫びながら逃げているリンドウ。
時は数分遡る。
先に伝えておくがリンドウは飛ばされてすぐにカマキリたちに追いかけられたわけではないし、また無闇矢鱈に歩き回って遭遇したわけでもない。 時として危険な任務を請け負うこともあり、軍人であるツクヨの弟子でもあることから特に見知らぬ土地では周囲に注意を払って慎重に行動するように、と幼い頃から学んできた。 そのため、到着した時も焦って行動せずにこのフィールドでは何ができて何ができないのか、と情報を収集するところから始めていた……はずだったのだが。
「……ぉおおお」
「ん?」
レンガの壁に囲まれた迷路だが下は普通の地面だな、と所々に生えている木にも目を向けながら慎重に迷路を進んでいた時。背後から何か音がしたことに気付いたリンドウは立ち止まり、音を拾うために耳を澄ませた。 周囲に変化が生じた時は一度立ち止まり、情報を整理する。それは正しい行動の一つだろう……が、リンドウは後程この行動に深く後悔した。
立ち止まらないでさっさとその場から離れればよかった、と。
「燃えろぉおおおおお!!」
「!?」
突然視界に入り込んできたのは壁の高さを越えた火柱。 数メートル離れた壁の先、およそ一枚越しのところで次々と叫び声と共に火柱が立っていく。
一般人でも霊力を持っている者はいるが、高さ数メートルの火柱を一瞬で立ち上げるなど鍛えてなければできないことだ。ましてや、時間を置くことなく次々と発動させる芸当など神職者の中でもできる者は限られている。
一体誰だ、と。まさか自分の知っている者がこのゲームに参加しているのかと立ち尽くしているとレンガの壁の上から人の頭が飛び出してきた。
「あぁああもぉおおおしつこい!! こちとら無限に火が出せるわけじゃぁねぇんだボケぇ!!」
褐色の女だ。しかも頗る口が悪い。
(火を出しているのはあいつか……だが……)
キョロキョロと辺りを見渡している女をリンドウは知らない。軍人ならともかく高い霊力を保持する神職者であるのならリンドウが知らないわけない。次々と入ってくる情報に呆然とするリンドウだが、次の瞬間、褐色の女と目が合った。
「「……あっ」」
そりゃぁもうバッチリと。
お互いに数回瞬きした後、褐色の女の方が先に反応し、腕を振り上げた。
目は三日月に。大きく歯を見せてニヤァ、と笑った。
「——!?」
嫌な予感がする。すぐにこの場を離れるべきだと全身に警報を鳴らし、身体の向きを反転させてリンドウは走り出した。
そして——その予感は見事に的中することになる。
「そんなにエサが欲しいならあっちにいきな!!」
バコォオオオオオン!!
女の声が終わると同時に背後から破壊音が襲いかかってきた。
顔だけ振り返って背後を確認すると、まぁ予想通りにレンガの壁の一部が破壊され、土煙が舞い、その奥から巨大なカマキリが数匹姿を表した。そして、木の上にいる褐色の女ではなく同じ地表にいるリンドウに狙いを定めるカマキリたち。
「「「ギョエエエエ!!」」」
「じゃぁ兄ちゃんあとはよろしく!」
この数分後が冒頭のリンドウの叫びである。
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