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エピローグ ―ウルスと凪―

※最終話のあとの小さな蛇足です。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

 あの波が消えてから、一年が経った。

 我々の世界には、もう「聖女」を必要とする議論は存在しない。

 必要なくなった、というより――思い出す必要がなくなったのだ。


 世界を救ったのが誰だったのか。

 その問いに、我々はもう答えを持たない。

 だがそれでいい、と私は思っている。


「おーい、ウルスー!」


 今日はドラゴンダンジョンの討伐が完了したとの知らせを受け、現場に来てみたのだが、あれほど禍々しい空気に満ちていた場所がとても静かな場所に変わっていた。ダンジョンの入り口に立って私に向かって手を振っているのは、あの時聖女と……いや、聖女をやらないと言い切った女と一緒にいたドラゴンスレイヤーだ。

 あちらの世界の他のドラゴンスレイヤーたちとこちらに来て、我々が長年悩み脅かされてきたドラゴンの討伐をこの一年行ってくれている。


「ここはやっと終わった。でも俺ら、そろそろ一回あっちに帰らないといけないんだ。色々手続き終わったらまた来るから」

「ああ、分かっている。本当にありがとう。このダンジョンはドラゴンしかいない、この世界でも指折りの難関ダンジョンだったんだ。だからこうして討伐完了してくれたおかげで、世界の危機が少し減った」

「少しなのかよ」

「まだまだドラゴンはいるし、ドラゴン以外の脅威となる魔物もいる」

「はー、ほんと、俺らの世界のダンジョンは温かったんだなーってこっちに来てよく分かったわ」

「向こうのダンジョンに関しては引き続き、同じような難易度にしているが、最近、もう少し難易度を上げてくれとは言われているぞ」

「なるほど。自分の強さを試したい血気盛んなやつらが増えて来たってことかもな」

「今後の交渉次第だが、今のところは難易度を上げるつもりはない。向こうが何を出してくるかで考える余地はあるがな。ダンジョンから提供される、向こうの世界のエネルギーは本当に上質で、こちらの世界のあらゆる研究や生活に使えて助かっている。ダンジョンの難易度を上げて、このエネルギーが供給されなくなったら困る」

「おかげでとんでもなく腹が減るっていうマイナスはあるけど、それをペイできるだけの稼ぎを俺たちもダンジョンからもらってるからな。これがさくらの言う対等、ってことの一つの答えなんだろうな」

「そうだな。あとは、国王が何を望み交渉したいかだ。まあうちの宰相は結果が全て、という人物だから、うまく王をコントロールしてくれるだろう」

「そういやさ」

 凪が、不意に思い出したように言った。

「あの時、最後にさくらと何話してたんだ?」


 私は、一瞬だけ言葉に詰まった。


「……聞いていないのか」

「何が?」


 私は、視線を逸らす。


「――叱られた」

「は?」

「聖女を制度にしたこと。奪う前提で世界を守ろうとしたこと。失敗したときの責任を、弱い立場の者に押しつけていたこと」


 淡々と告げると、凪は口を開けたまま固まった。


「……マジで?」

「非常に具体的で、逃げ道のない指摘だった。そして、年増扱いしたことを更に怒られた。年増なんて今後どんな女性にも絶対に言うな!と」

「あー、あいつ、それだいぶ根に持ってたからなぁ……」


 私は、苦笑する。


「途中から、こちらが反論できなくなってな。素直に謝ったよ」

「……そりゃお疲れだったな」

「ああ」


 私は、頷いた。


「世界を救ったあとで、彼女は――私を、敵ではなく人間として扱った」

「ああ、でも素直に謝って正解だったと思うぜ。物理的なお灸据えられずに済んだんだから」

「物理的?」


 私の疑問に、彼が肩をすくめる。


「あいつがストレージボックス持ちなのは知ってるだろ?」

「ああ。あのスキルはこちらでは割と平民でも普通に持っているスキルだが、向こうではそうでもないようだな。そのあたりの差異についてはまだまだこれから研究、精査したいところだが……」

「あいつ、あの時、ストレージボックスに大量の鉄パイプの槍を待機させてたんだよ」

「は?」

「話し合いが決裂するようなら、物理的な方法を、って先を尖らせて槍にした鉄パイプの中に砂と小石と火薬詰めて、そこに仲間の魔法使いに攻撃魔法を付与してもらってたんだよ。使うことになったら、全部焼き払ってしまった後で、シール貼りのスキルでダンジョンごと封印すればいい、ってな。殺意強すぎだろ、って思ったけど、目がマジだったんで反対もできなかった。だからもしおまえが徹底抗戦しようとしてたら、頭の上にそれが全部降ってくるとこだったんだぜ」


 殺意強すぎの場所にいたことを今さら知り、絶句する。


「その鉄パイプの特製槍は、こっちに来た仲間のストレージボックスに入れてきて、ドラゴン退治に使わせてもらった。いやー、えげつない火力だったぜ」

「……」


 まもなく彼女が、シール貼りのスキルについて研究協力してほしいという私の頼みを受け入れて長期滞在する予定だが、そのときは、絶対に「年増」なんて言わない。

 それだけは、命に代えても守ろうと改めて誓った。


 終

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


当初の予定よりかなり長くなってしまいましたが、

無事に完結できてよかったです。


この物語は、「聖女召喚の理不尽さ」を書きたくて始めました。



さくらは最初から聖女ではありませんでした。

でも彼女はきっと今日もどこかで、

お腹を空かせながらダンジョンに潜っていると思います。


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

次回は、もう少し余裕をもって書きたいと思います。

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