表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/90

最終話 世界を救ったそのあとで

 池袋ギルドの掲示板が、一枚増えていた。

 入口のところにやけに派手で大きなのが。

 それだけなら、あまり気にするようなことでもなかったかもしれない。

 新しいダンジョンの調査依頼か、素材の買取価格改定か、そんなところだろう。

 でも、その掲示板にあったお知らせは違っていた。


「……“異世界交流対応窓口はこちら”?」


 思わず声に出すと、カウンターの奥から、ギルド職員がため息交じりに答えた。


「正式に決まりました。あちらの世界との国交の窓口はこの池袋ギルドが先陣を切ることになりました」


 私は、隣を見る。


「……ねえ」

「ん?」

「世界、救ったあとって、こんな感じなのね」

「そりゃそうやろ」


 蒼樹さんが、いつもの調子で肩をすくめた。


「生活も仕事もそう変わらへん」


 その言葉に、私は少しだけ笑って、依頼票に手を伸ばした。


「これにしようかな」

「また花の採取か」

「だっていくらあっても困らないって聞いてるし」


 あの花は今でも池袋ダンジョンで咲き誇っている。

 あの花には魔石と同じエネルギーがあることが分かり、花の培養のために研究をすることになり、研究用に採取依頼は絶えない。

 元はシールだなんて知っているのは、ごく少数だ。


「よし、そんじゃ行くか」

「まって、その前に今日は雪城さんに呼ばれてるんだ」


 カウンターで告げると、奥の応接間へ通される。そこには雪城さんと鷹宮さんが待っていた。


「お疲れ様です、日向さん、蒼樹さん」

「失礼します」

 ソファに座ると、雪城さんが一枚の書類を出してきた。

「これは向こうからの国交承諾書です。これを元に、交流窓口を作ることに決まりました」

「なんて書いてあるんか分からんなぁ」

 そりゃ向こうの言葉だもん。

 でも、鑑定スキル持ちの人間には分かる。その人が作ったであろう、こちらの言葉の書類が一緒に並べられた。

「特にお互いに高圧的な交渉にはなりませんでした。向こうの代表はウルスと言うまだ少年に見える方でした」

「本人はもう100年以上生きているらしいですよ……」

「なるほど。それであんなに大人びているんですね……」

「それでまずは何を?」

「向こうは、こちらに発現したスキルやジョブについて色々知りたいそうです。なのでまずはこちらに使節団を受け入れることから始める予定です」


 それなら平和的かな……。

 ウルスからは個人的に手紙も来ていて、国交のために全力を尽くすこと、お互いの良い部分を託しあえるように努めていきたいと書いてあった。


「そしてこちらからは、前川さんが行ってくださることになりました」

 え?凪が?

「本人もやる気満々でして、そのために会社に休職願を出したそうです」

「……はあ、そうですか」

「何でも、向こうにはドラゴンがかなり多くいるのにドラゴン討伐のエキスパートがいないそうで……。こちらにいるドラゴンスレイヤーの皆さんと一緒に行くとのことです」


 結局、凪のドラゴンスレイヤーのジョブはスライムドラゴンには不発だったから、使えるところができてやる気満々なんだろうなぁ……。


「まあ、それも凪なら楽しくやるやろ……」

「だね……。凪って昔からやりたいことがあったら全力になっちゃうタイプだから……」


 思い出すのは高校生の時。

 私と凪は陸上部だったんだけど、短距離メインだった凪がある日いきなり長距離に転向したいと言い出して、顧問の先生がもったいない、と止めたけど、長距離にいきたい、という凪の想いに折れて、長距離に転向を認めたことがある。それで高校生記録出しちゃったもんだから、あの有言実行なとこはどこに行ってもやっていけると思うわ。


「あ、そうそう。私、来週から繁忙期なので、残業続きになるから今日の探索が終わったらしばらく潜れないから」

「分かった。そんじゃ、今日はさっさと終わらしてメシ行こうや」

「うん!」

「あー、せやったら今言うとくかな」

「え?」

「あんな、俺、ヘッドハンティングしたい人がおんねん」

「会社に?」

「せや。めっちゃ有能でな。来てくれたらめっちゃ助けになってくれると思うんや」

「へえ……じゃあすれば?仕事かなり忙しくなってきてるんでしょ?さすがに一人じゃ限界じゃない?」

 蒼樹さんの会社は、流通業界では今では引く手あまたの人気がある。そりゃ、世界一の容量のストレージボックス使える探索者だからねえ。

「おー、マジで限界や。だからな。さくら、うちに来えへん?」

「……は?」


 今なんて?


「さくらに俺の会社に来てほしいんや。今、ストレージボックス8トンまで広がったやろ?俺も12トンまで広がったから、さくらがおったら20トンまで荷物引き受けられるんや。今すぐじゃなくてもええで。でも考えてくれへんか?」

「……」

「年間休日125日、ボーナス夏冬二回で合計4か月分、有給は年間20日。残業はなし。他、月2日のダンジョン有給つける」


 う……なんて魅力的な……。残業なしって幻じゃないの?


「どうや」

「……ちょっと考えさせて」

「分かった」


 明日、由衣に相談しよう。


「よし、そんじゃ行くか、ダンジョンへ」

「お弁当は持ってきてるから、一日頑張ろう」

「おー、卵焼きある?」

「あるよ」


 そして私たちは今日もダンジョンへ行く。

 相変わらずすごくおなかはすくけど、それはそれで慣れて来た部分もある。

 私たちの世界はもうダンジョンなしでは回らない以上、それを使って社会を作っていくしかない。

 この空腹はその代償みたいなものだ。


 私は最初から聖女じゃない。でも、探索者ではある。

 与えられたものを大事に育てて、これからも頑張ろうと決めている。

 アラサーでも、年増でも、やりたいこと、やれることはたくさんあるって、今からこの道をやってくる人たち(たんさくしゃ)に伝えていきたい。



 終

これで本編は完結になります。ここまでありがとうございました!あとは明日19時にエピローグを投稿して、この物語は〆です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ