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閑話休題 ―楔と餌場—

短めの閑話休題を一度入れます。

 楔は間違いなく打つことができた——。


 ウルスは、目の前で蠢く魔法陣の向こうに投げた楔が聖女の証を抉ったことを確信していた。

 

 やっと見つけた。

 

 彼女がどれほどその身に宿した聖女のジョブとスキルをレベル上げしているかは定かではないが、ダンジョンに入っている以上ジョブもスキルも使っていないわけはなく、使っている以上、必然的にレベルは上がる。

 できればジョブとスキルのレベルを20以上にしておいてくれたら助かるのだが。

 いや、贅沢は言うまい。


「ウルス殿。首尾はいかがな感じか」

 魔法陣のある儀式の間に、宰相がやってきて問いかける。

「はい、あの時の聖女をやっと見つけました。聖女の証である紋様に楔を打ち込んだのでもう釣れたようなものです」

「それは僥倖。王もお喜びになる」

「ですが、時間がありません。世界の果てからの波は近々到達するとの観測結果も出ております。できるだけ速やかに聖女を喰わねばなりません。ですので、例のアレを使おうと思います」

「アレを使うか……。こちらの世界に影響は?」

「ありません。顕現は向こうの世界で行います。そのために魔法陣の向こうでは花が咲いてます。それを使います」


 何故かあの花からは聖女の「力」を感じた。盗賊たちが持ち帰ってきたそれを培養し、使い方を変え、あちらのダンジョンの最下層に一面の花の森を作ったのだ。聖女を釣る”餌場”として。

 

「聖女の力を直接取り込める形にしておけば、多少レベルが足りずとも問題ありません。楔が呼び水となり、向こうからやってくるでしょう」

「……危険は?」

「聖女が抵抗しなければ、です」


 ウルスはそう言って、小さく笑った。


 抵抗する理由があるだろうか。

 召喚され、役割を与えられ、力を使い、世界を救う。

 それが聖女という存在だ。


 ――少なくとも、彼はそう信じていた。


「この魔法陣は“喰らう”ことに特化しています。聖女の証を通じて、ジョブとスキル、その成長の履歴ごと……余さず喰って。世界の果てからの波を止めます」


 宰相は黙って頷いた。

 詳細を理解しようとはしていない。ただ結果だけを求めている。


 ウルスは再び魔法陣を見る。


 中心に形作られつつある“核”は、まだ輪郭が曖昧だ。

 花を喰い、その核はまだ形になっていない。

 だが確実に、巨大な何かの形をなぞり始めている。


(もう少しだ。聖女が、聖女であり続けている限り)


 楔は打たれた。

 流れはできた。


 あとは――向こうの世界で、彼女がいつも通り、力を使ってくれさえすればいい。


 それが釣り針の役目を果たす。


「こちらの世界を救うために、どうしても聖女の力は必要なのだ……。悪く思わないでくれ」


 心のどこかで、異世界の聖女を使うことに罪悪感めいたものはあったが、ウルスにとって今一番大事なのは己の世界を護ることだった。

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