第六十五話 お花見に行こう!
久しぶりに来る我が社の倉庫は相変わらず忙しそうで、私は駐車場からまず事務所のあるプレハブへ向かった。
「お疲れ様でーす」
中に入ると、事務所には倉庫担当の課長と事務のパートさんが数人いるだけだった。
知らない人もいたので、一応挨拶をする。
「本社営業部の日向です」
「おー、日向さん、こっち来るの久しぶりだな」
「こんにちは、日向さん」
「これ、皆さんでどうぞ。以前、フェスの緊急出荷でご迷惑おかけしたお詫びです」
持ってきたせんべいの詰め合わせを差し出す。
「おーありがとう。現場のみんなと頂くわ」
「じゃあ私、ちょっと現場行きますね。今日はブルーツリー流通の蒼樹社長と一緒に来たので、現場にご案内してきます」
「ああ、頼むわ」
プレハブの外に出ると、倉庫の入り口にある散り切った桜の木を蒼樹さんが見上げていた。
「もう散っちゃってますね」
そう話しかけながら隣に立つ。
そういえば、今年はお花見できなかったな……。
「今年も花見できんかったなぁって思って見とった」
「私もです。来年はみんなでお花見したいですね。……ダンジョンの中に桜が咲くようなとこあるのかなぁ」
「あるで」
「え、ほんとに?」
「ああ。確か池袋ダンジョンの最下層や。なんや、桜によう似た花が年中咲いとるらしい。まあ俺も現物見たことはまだないんやけどな。情報としてもギルドから出てるから暇なときに確認してみ」
「はい!あ、そろそろ倉庫のほう行きましょう。フェスの出荷、よろしくお願いしますね」
「任せや」
そして倉庫に入ると、フェス出荷のための棚卸準備に来たことを伝え、仕事に取り掛かった。
仕事の合間にチラリと蒼樹さんのほうを見ると、倉庫内で働くパートのおばさんたちに大人気でニコニコ笑っていた。
うん、まあ倉庫内に自分の息子くらいの年齢の男の人が来ることなんて滅多にないもんね、はしゃいじゃうよな……。
出荷手順を蒼樹さん交えてミーティングを終わらせ、棚卸のためのリストを倉庫の棚に入れる。
よし、今日の仕事はこれで終わり。
蒼樹さんが帰りも会社まで送ってくれるというので、お言葉に甘えた。
ニ度目の助手席はなんだかとても眠くなる。
つい転寝をしてしまい、頬に何か当てられて目を覚ました。
「ひゃあっ!」
「起きたな。ほら、肉まん」
軽く頬をつついたのは、コンビニの肉まんだった。
「腹減ってるやろ?あんだけ倉庫内で働いたら」
いつ買ったんだろう、とは聞かなかった。
ありがたく肉まんを受け取って、車の外を見るとそろそろ会社が近い。
少し頬が熱いのは肉まんのせいか、車内の暖房のせいか。
私は肉まんにかぶりつきながら、熱くなっている顔を蒼樹さんに観られたくなくて外を見ていた。
会社に戻ってからもちょっとボーっとするくらいには何だか暑かった。暖房効きすぎだったのでは?ちょっと冷たいものでも飲もうかな。
と、休憩室へ向かうと由衣がいた。
「あ、さくら、お疲れ様」
「由衣もお疲れ様。ミーティングだったんでしょ?」
「うん疲れたぁ」
ぐったりしてる由衣を見ながら、自動販売機でアイスコーヒーを買った。
「え、冷たいの飲むの?今日ちょっと寒いよ?」
「え?そう?」
「うん、ほら」
由衣がスマホを見せてくれる。
外気温10度。
確かにちょっと寒いかな……。でも私は暑いから。
「さっきまで車の暖房の中にいたから暑くて」
「え?今日は幸手の倉庫に行ったんだよね?電車で行ったんじゃなかったの?」
「それがね」
蒼樹さんに送り迎えしてもらったことを話すと、なんか由衣がニヤニヤしてる。
「ほー、それはそれは楽しい仕事時間を過ごせてよかったじゃない」
「……肉まんは美味しかったけど」
「肉まんて。さくららしいわ」
「ところでさ。今年、お花見できなかったでしょ?」
「唐突に話を変えてくるなぁ。うん、まあ行けなかったね」
「それでね。さっき、蒼樹さんが教えてくれたんだけど、ダンジョンで年中桜が咲いてるところがあるんだって!」
「へえ、そんなとこあるんだ。さすが不思議空間と言うべきか……。で?どこ?」
「……池袋の、最下層」
由衣のトラウマ刺激するかな、と思ってたけど、由衣はむしろ楽しそうで。
「池袋かぁ。最下層って5階層だっけ?」
「うん、確かそう」
「よし、そろそろ池袋に挑むのも考えてたし、遥さんとも相談してたから行く方向で考えてみるよ」
「お兄ちゃんと?」
「そうだよ。遥さんにも言われてたの。トラウマを払しょくするにはその場にもう一度行くことも手段としてありだよ、って」
お兄ちゃんへの信頼度すごいな、由衣。
「みんなで池袋ダンジョンでお花見もいいかもね」
「うん、お花見しながらコーヒー飲みたいんだ、私」
「さくら、ほんとコーヒー好きだね」
よし、凪にも一回話をしてみよう。




