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第六十三話 それぞれの言いたかったこと

  一通り話して、一旦落ち着いたらおなかが空いてきたので、カラオケ屋のメニューを片っ端から頼んでみた。

 料理を持ってきた従業員さんには凪の剣とか蒼樹さんの杖とか、テーブルの上の私と由衣のエアガンで怖がらせてしまってちょっと申し訳なかった。そうだ、探索者は増えたとはいえ、そうじゃない人たちのほうがまだ圧倒的に多いんだよね……。

 そのことを、時々忘れてしまうのは、探索者になる前の日常と剥離していくみたいであまり居心地は良くないな……。


「日向さんだけ話すのはフェアやないなと思うんや」


 フライドポテトを食べながら、蒼樹さんがそんなことを言い出す。


「せやから、この際、この場で全員ぶっちゃけてみぃひんか?」


 何を言い出すんだ、この人は。

 ぶっちゃけるようなことあるの?この場で?


「探索者として内緒にしてることとかあったらこの際、四人の秘密ってことでぶっちゃけようや。言い出しっぺやし、俺からいこか?」


 そんな軽いノリでいいの?って思ったけど、そうだ、この人、根が軽かったわ。


「なら、俺から行くわ。俺な、実はストレージボックスの容量が世界一やねん」

「え?それ、さくらじゃなかった?」

 凪が私に聞いてくる。

 残念、もう更新されちゃってるよ。

「ちなみに10トンや。俺はこれを使って、自分で物流会社やっとる。あとな。実は俺、自分が原因で一回、パーティ全滅させかけたことあるんや」

「え?」

 それは知らない。どういうこと?

「探索者になったばかりの頃、大学時代の友人たちと組んで、パーティで潜っとったことあってな。たまには遠出してみよか、ってことで車で地方に行ってみたんや。仲間にマッピングスキル持ちもおったし楽勝やろって考えとった」

 蒼樹さんは、ポテトを一本つまんだまま、少し間を置いた。

「でもな。俺、ダンジョンに入った時点で気づいとったんや。なんかおかしいって」

「おかしい……?」

 由衣が、静かに聞き返す。

「モンスターの湧き方が変やった。めちゃくちゃ多かったんや。雨が降ってんのか、くらいの勢いでスライムが天井から降ってきた。ドロップも妙に良すぎた。せやのに俺、言わんかった」

「……なんで?」

「効率がええと思ったからや。危ないかもしれん、より、稼げる、の方を優先してもうた」

 部屋の空気が、すっと冷える。

「結果、最下層手前で想定外にダンジョンが広がったんや。マッピングが追いつかんレベルでダンジョンが変化した。撤退判断も遅れた。俺が指示出しとった」

 蒼樹さんは、そこで初めて私たちを見た。

「一人、重傷や。俺を含めた他3人は軽傷やったけど、死なんで済んだのは運が良かっただけや」

 誰も、すぐに言葉を挟めなかった。

「仲間はみんな俺のせいやないって言ってくれたけど、俺はそれからソロでやることに決めたんや。ちょうどその頃、ストレージボックスのスキルが発現して、1人でもダンジョンに入れる、って思うようになった」

 蒼樹さんの告白に全員押し黙る。特に危ない目に遭ったことのある由衣は思い出しているのか少し顔色が悪い。

「せやからな」

 蒼樹さんは、少しだけ笑った。

「俺はもう、“知らんふり”はせぇへんって決めとる。特にダンジョンの違和感に関しては」

 その視線が、まっすぐ私に向く。

「この先、もっとヤバいもんが出てきても、俺は止めるし、引き返す判断もする。そのために聞かせてもらったし、俺も言った」

「……はい」

 この人はダンジョンを甘く見てはいないんだと改めて分かった。

「……じゃ、次は私かな」

 由衣がスッと手を上げる。

「私は大したことじゃないけど。一回、盗賊に全部ジョブとスキルを奪われて、しばらく何もできないでいたけど、遥さん……さくらのお兄さんのおかげで、ガンナーのジョブとスキルと拘束士ってジョブとスキルまで取得できた。でもね、正直、今でも怖い時があるの」

「……お兄ちゃんがやりたくてやったことだろうから由衣がそこまで感謝しなくてもいいとは思うけど……」

「ううん、違うの。私、本当に怖くて怖くて、ダンジョンに入るって決断がなかなかできなかった」


 由衣は、自分の膝の上で指を絡めた。

 その手が、ほんの少し震えているのが分かる。


「奪われた時、全部なくなったんだって思った。ジョブも、スキルも、自分がここにいる理由も」


 ……うん、やっぱりあの時の盗賊見つけ出してしばきたおす。


「こんな怖がりな私でもいい?一緒にダンジョンに行っていい?」

「ええに決まっとるやろ」

「そうだよ。だって由衣は私のバディなんだから」

「よし、じゃあ次は俺だな」

 凪がニカッと笑う。

 凪が自分のステータス画面を出す。

「俺のは秘密ってよか、悩みなんだけどさ」

 そう前置きしてから、凪は自分の剣の柄に手を置いた。

「さくらと由衣は知ってるけど、俺は二つジョブ持ってて、メインが剣士。もう一つがドラゴンスレイヤー」

「……え?」

 蒼樹さんが、目を細めた。

「いや、ちょい待ってくれ。ドラゴンスレイヤーって、あの……」

「そう。そのドラゴン倒す前提のジョブ。結構レアみたいで、かなり少ないジョブだな」

 凪は肩をすくめる。

「でもさ、知ってるだろ?今んとこ、この世界にドラゴンはいねぇ」

「うん……」

「世界中のどのダンジョンにも、噂すら出てない」

 凪は笑ったまま、続けた。

「ドラゴンがいねぇのに、ドラゴンスレイヤーって何だよ、って話だ」

 その声は軽い。

 でも、剣を握る指は、少しだけ力が入っていた。

「スキルは強い。攻撃力も伸びるし、対大型補正とか、鱗特攻とか、無駄に盛られてる」

「無駄に、って……」

「無駄だろ。相手いねぇんだから」

 凪は、少しだけ視線を落とす。

「正直な話な。俺、自分が何と戦うために剣振ってるのか、分かんなくなる時がある」

 部屋が、静かになる。

「雑魚相手に無駄にオーバースペックで、ダンジョンで出会うモンスターもドラゴンじゃねぇ。……この剣、どこ向けりゃいいんだよって、ずっと思ってた」

 凪は、ふっと息を吐いた。

「だからさ。俺、最近は池袋ダンジョンにソロで通ってる」

「……理由は?」

 蒼樹さんが聞く。

「理由なんてねぇよ」

 凪は即答した。

「ただ、あそこが一番“何か出てきそう”な気がするだけだ。あと、俺の大学時代の友人があそこメインで潜ってるってのもあるかな」

 そして、少しだけ真剣な目で私たちを見る。

「もし、いつか本当にドラゴンが出てきたら。あるいは、ドラゴンみたいな“どうしようもねぇ化け物”が出てきたら」


 凪は、剣の柄を軽く叩いた。


「その時は、俺が前に立つ。それがドラゴンスレイヤーの仕事だろ」


 ニッと、いつもの笑顔に戻る。


「だからまあ……悩みって言うか秘密って言うなら、これだな。俺は今は出番のないジョブ持って、ダンジョンをうろうろしてるだけの男ってこと」

「……そんなことないよ」

 由衣が、小さく言う。

「そうだよ」

 私も続けた。

「だって凪は、いつも一番前で剣振ってるじゃん」

「はは、まあな」

 凪は照れくさそうに笑った。


「ドラゴンがいなくてもさ。今は、さくらや由衣を守るために振ってりゃいいか、って思ってる」


 その言葉に、私は妙に納得してしまった。

 凪はそういうやつだ。強くて優しくて、リーダーに相応しいタイプだ。

 ああ、私、凪と再会できてよかったな……としみじみ思った。

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