第六十二話 全部話します
水路の真ん中で沈黙が落ちる。
私は、無意識のうちに自分の右手の甲を握っていた。
「でも……」
由衣が、小さく首を振る。
「それだと、さくらだけじゃなくて、私たちも……」
「まあいい方は悪いけど、俺の仮説が当たってたら巻き添え、やな」
蒼樹さんは、はっきりと言った。
世界中が私の巻き添えに……?
ダメ、怖すぎる。
「俺の仮説通りなら、向こうの本命は日向さんや。なあ話してくれんか?どんなスキルとジョブがあるんや?」
「……」
「……セーフティエリアに戻りましょう。ちゃんと落ち着いて話をしないと」
由衣の言葉で、今来た水路をセーフティエリアまで戻る。
でもセーフティエリアは賑やかでとてもじゃないけど、落ち着いて話なんてできなさそうだ。
「しゃーない、出ようか」
「ですね」
「さくら。大丈夫……?」
「うん……。外に出よう」
外の天気は少し悪くて、なんだか私の気持ちに似ていた。
「カラオケ屋にでも行こうか。個室だし、ゆっくり話せる」
凪の提案で、近くのカラオケ屋に向かった。
カラオケ屋の個室の向こうからの喧騒の中、三人の視線が、私に集まる。
「よし、じゃあ教えてくれ、さくら」
「うん。まず、私の本当のステータスなんだけど……」
スマホのメモアプリを立ち上げて、そこにステータスを打ち込んだ。
――
日向さくら 33歳
ジョブ 聖女(?)Lv1 (ガンナー)スナイパー Lv25
スキル
シール貼り
ストレージボックス
聖魔法 ヒール / 小回復魔法・ライト / 光魔法・プロテクト / 防護魔法・加護(初期)・功徳変換
(ガンナー)スナイパースキル 命中・照準固定・精密射撃・必中判断・弱点捕捉
鑑定 Lv8(上限Lv10)
ドロップ率 Lv4 20%UP(上限Lv5 25%UPまで)
HP250/250
MP300/300
ATK350
――
スマホを覗き込んだ三人が息をのむのが分かった。
「……なんやこれ。めっちゃチートやん。なるほど、この聖魔法ってスキルがあるからMP多めやったんやな……」
「さくら、いつの間にスナイパーレベル25になったんだよ」
「ていうか、シール貼りって何……?」
疑問は一つずつお願いします、みんな。
「ええと……何から説明したらいい?」
「そうだな。まずはおまえが召喚されたってときのこと、覚えてる限りでいいから教えてくれ」
凪の言葉に、あの時のことをできるだけ思い出してみる。
「残業の帰り道で、かなり遅い時間だったのは覚えてる。いきなり足元が光って気が付いたら、この魔法陣の上に立ってた」
と、さっき撮ったスライムの上に浮かび上がる魔法陣の写真を見せる。
「で、向こうの責任者らしき子供の魔導士に年齢聞かれて32って言ったら、年増だからチェンジ!って言われて。そのまままた光の中に放り込まれて」
思い出してもあれは怒りが滲む。
勝手に呼び出しておいて、年齢でチェンジとか失礼にもほどがあるわ。
「で、帰ってきたときには手の甲にこの三日月模様があったの」
皆には見えない三日月模様が光る右手の甲を突き出す。
「じゃあ次私。さくら、このシール貼りって何?」
うん、それほんと気になるよね……。
「チュートリアルってことでダンジョンにいきなり放り込まれた時に、手にたまたまネイル用の花のシール持ってて、それをダンジョンに貼ったら、光る花になったの。で、これはシールを実体化するんだって思った。で、100均で名前シール買ってきて色々書いて試すことにしたの。由衣をダンジョンでスライムから助けたことあったでしょ?あの時、シールに落下、って書いてスライムに貼って引っぺがしたんだ」
「あの時……そのスキルで私を助けてくれたんだね……」
「シールに書いたらどうにでもなるってめちゃくちゃチートやな……」
「ええ。私が使ってる弾とかも使ってます。貼ると消えるんですよ。何か今やってみますか?」
全員、コクコクと頷くので、私は何も書いてないシールをバックから出す。
「じゃあ、凪。ちょっと剣貸して」
「あ、おお」
探索者に限り、探索者カードに明示された武器は銃刀法違反にならない、という法律が施行されてからは街でも剣や弓を持ち歩いている人が見られるようになった。ただもしそれをダンジョン以外で使えば、通常以上に厳しい罰を課せられると決まってる。
私は凪の剣に「軽量化」と書いたシールを貼って、凪に返した。シールは青白く光って消えていく。それを見た三人は驚いていた。
「うっわ、なんだよ、これ。めっちゃ軽い」
鞘から抜いて、部屋の隅で剣を振った凪が喜んだ。
「こんくらい軽かったらもっと斬撃にスピード出せるな」
「それがシール貼りスキルの使い方。ただし、割とMPは消費する」
私のMPはマックスの300から250に減っていた。
なので、今の私にはせいぜい6回しか使えないスキルなのだ。
「しっかし……チートやな、日向さんのスキルは全部」
「でもそれだけさくらは理不尽な目に遭ったわけで……怖かったよね、さくら」
由衣の言葉に、ああ、やっぱり私――あの聖女召喚を、今でも心のどこかで許せずにいるんだと思った。
「そうだね、怖かった……。なんだったのあれ、ってずっと思ってる」
「でもそれからどうして探索者になろうと思ったんだ、さくらは」
探索者になろうと思った理由……。
「ジョブもスキルも知らない間についてて、自分で考えて頑張れってことならやってやろうって思ったんだよね。それだけ」
そうだ、あのチュートリアルのあと、全部丸投げするならやってやろうって妙に変なところに火がついちゃったんだよね……。
「それで池袋に行ったらガンナースキルが付いたんでそれメインで探索者始めたの」
「なんつーか、負けず嫌いなんやな」
「こいつ、負けず嫌いですよ、めちゃくちゃ。高校の時なんて……」
「ちょっと凪!何言うつもり!?」
「いや、高校時代のお前のアレコレを……」
「言うな、バラすな、バカ凪!」
聖女スキルと異世界召喚のことを初めて口にできて、私の心は一気に楽になっていた。
まるで風船がはじけたみたいに




