第六話 探索者登録しました
翌日の休みの日、私は家から一番近い池袋のギルドに向かった。駅直結のデパートの1フロアにできたギルドはごった返していてちょっと躊躇したけど、ここまで来たらやるしかない。
登録の整理番号をもらい、待合コーナーに座って待つ。
意外に女性も多くて、これだけいたら私も目立たないな。
「あれ?さくら?」
名前を呼ばれて顔を上げると、見知った顔が笑ってた。
「え、あれ?凪?」
「ああ。久しぶりだな」
前川凪、高校時代の部活仲間だ。
背中に木刀を背負っている。
「さくらも探索者になるのか?」
「うん、今日は登録に来たの。凪は?」
「俺はもう登録済みで、これから初めてサンシャインのダンジョンに行ってみるところ。割と情報も出てるダンジョンだしな。ちなみにスライムには打撃がかなり有効らしいぞ」
「そうなんだ。頑張ってね」
「さくらはソロの予定か?」
「うーん、そうだね。入ってみないと何もわからないし」
「確かにな。とりあえず、俺は得意な武器をって思って使い慣れてる木刀持ってきた。さくらは武器は?」
「それも登録してから考えるよ」
「まあ入ってみないとスキルやジョブが生えるかどうかもわからないしな」
「うん」
ごめん、もうスキル持ってるんだ、私。
とは言えないから、当たり障りなく答える。
颯爽と出ていく凪を見送っていると呼ばれたのでカウンターへ向かう。
「日向さくら様。探索者登録ですね。では写真と申請書と身分証明書をお願いします」
カウンターの受付の子に言われ、コンビニで印刷してきたきた自撮りの写真と申請書と免許証を出す。
「はい、ありがとうございます。では続けてここに、指紋の提出をお願いします」
お姉さんが黒いタブレットのようなものを出してくる。ここに両掌を押し付けてほしいらしい。
言われた通りにすると、お姉さんが頷く。
「はい、結構です。では続けて説明いたしますね。登録された探索者の方にはギルドカードを発行いたします。ダンジョンに入ってスキルとジョブが発生した場合、必ず申請してください。これは義務になります。それから、申請書にも書いてありましたが、ダンジョン内での行動は全て自己責任になります。犯罪に遭遇した場合は、通報義務もありますのでよろしくお願いします」
申請書の目立つところにでかでかと赤字で「ダンジョン内での行動は自己責任になります」って書いてあったな……。まあまだ始まったばかりだし、いろいろ手が回らないからそうしておくしかないよなー……。そうしておかないと、いつまで経ってもダンジョンに入れる人を増やせない。
「通報ってダンジョンを出てから110番とかですか?」
「いえ、これを使ってください」
受付嬢に渡されたのは、小さな防犯ブザーだった。
「ダンジョンの中で犯罪行為を見つけたらこれを鳴らしてください。他の探索者の方のケンカなどのもめ事も犯罪行為に該当しますので、ためらわず使っていただいて構いません。これを使うと、該当のダンジョンの外のスピーカーが連動して鳴ります。通報の多いダンジョンには警備員が多く常駐してますが、池袋ダンジョンはスライムしか出ない初心者向けと言うこともあり、通報はそれほど多くありません。それから、ダンジョンの中ではスマホが使えることも確認されてますので、持ち込むなら写真などを撮って証拠など押さえてもらえれば助かります」
「分かりました。できればそういう場面には出くわしたくないですね」
「ええ、本当に」
今日のところは、登録だけして、発行されたカードをもらい帰宅する。
それから掲示板を見ると、ダンジョンに入った人たちの情報で溢れていた。
サンシャインはやはりスライムしか出ないらしい。
先行の自衛隊の情報によると、池袋のダンジョンは5階層で行き止まりで、魔物はやはりスライムしか出ないが、時々武器や装備をドロップすると情報が出ていた。
出現するスライムについても詳細が色々出ていたので確認していく。
うん、私はここにしよう。
出入りに関してもあまり待ち時間はないらしい。
なら入った時の動きやすさ重視かな……。あとは武器だけど、凪みたいに木刀も考えたけど、接近戦は怖い。なので、サバゲが趣味の兄にもらったエアガンを使うことにした。
BB弾はまだあったしこれなら使い方を教えてもらったから何とかわかる。
ヘタレと言われてもいい。
遠距離戦を私は選んだ。そして試してみたいことがあった。
ぶっちゃけ私は特にエアガンが上手いわけではない。使い方を知っているだけで、腕はへっぽこだ。だけど、シール貼りスキルが想定してるものなら、私は次〇大介クラスの射撃のプロになれると思う。
「よし、これでいいか」
手帳の予定を書き込む用のシールに「百発百中の銃」と書いて、エアガンに貼る。すると銃が一瞬青白く光ってシールが消えた。
BB弾を装填して、部屋の中から玄関のシューズケースの上に置いてある空き缶目掛けて撃つ。
ぱんっ!
本来の私の腕では当たるはずがないのだが、見事に空き缶に当たって跳ねとんだ。
「よし、想定通り」
シール貼りのスキルについてチュートリアルのあと、色々考えてみたのだ。シールを貼ったものがその通りになるのなら、武器だって作れるんじゃないかって。想定は大当たりだった。
「よし、私の相棒ちゃん、ダンジョンで頑張ろうね」
スライムに打撃が有効なら、BB弾だって同じはずだ。
翌日会社に行くと、探索者登録をしてすでにダンジョンに入った人たちの話でオフィスはもちきりだった。
「俺、池袋に行ってみた。マジであそこスライムしか出ないのな」
「スキルとジョブ生えたか?」
「ああ。木刀使ったら剣士ジョブが出た。スキルは鑑定」
「やっぱりジョブって武器で決まるのかな」
「ある程度それっぽいな」
「俺、金属バット使ったけどスキルもジョブも出なかった」
「めげるなって。2回目以降で生えることもあるらしいぜ」
「それに期待するか―」
みんな楽しそうで何よりだよ。男って何歳になってもこういうの好きなんだなぁ。と、私は凪の笑顔を思い出して、笑った。
仕事が終わり、まず私は帰り道にある100均に向かった。
私の「武器」を手に入れるためだ。
学用品コーナーにあるおなまえシールをいくつか買い、マジックも数本。
それからシールを入れておく小さめのポーチを1つ。中に仕切りがあるタイプを選んだ。
「よし、これでいいかな」
帰宅後、斜めがけ出来るバッグに武器とシールのポーチを入れて準備完了!
さあ、週末は初めてのダンジョンだ。色々試すぞーとわくわくしながら、遠足の前のような気持ちで眠りについた。
今日は後一回21時に更新します。




