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閑話休題 ―ウルスの苦悩―

 ウルスは聖女召喚のための儀式の間で魔水晶を眺めていた。

 魔水晶に溜まっている聖女召喚のために必要な魔力はまだ半分にも満たない。このままではあとどれくらいかかるか分からない。それでは遅いのだ。この国に迫りくる世界の果てからの波はおそらくそう遠からずこの国を飲み込む。

 それを阻止できるのは聖女のみ。

 あの時の召喚した聖女がいれば今頃すべての問題は解決していただろうに、若い娘でないと聖女ではないという上層部の一声でこんなことになっているというのに。

 上はウルスを責める以外に何も建設的な意見は出さない。

 いい加減、ストレスマッハだった。


(やはり自分で向こうに行くしかないだろうか……)


 ウルスは歴代でも最も有能であり、天才とも言われている魔術師だ。

 彼の生み出した術式は多岐にわたる。

 異世界にダンジョンを生み出すのも、中にいるモンスターやドロップ品もウルスが作った術式あってこそだ。

 それほどの才能に恵まれた彼でも唯一無理なこと。

 それこそが、世界を護るために聖女にのみ与えられるスキルだった。

 代わりになる術式を長年懸命に構築したがうまくいくことはなく、とうとう聖女召喚を行わないと、というところまできて行った聖女召喚は失敗だった。いや、召喚自体は成功したのだ。

 だが、召喚された聖女が年増だったばかりに還すしかなかった。

 還したはいいが、再度別の聖女を召喚しようとしたとき、召喚のための触媒の魔水晶の魔力が枯渇していることに気づいた。

 しかも、魔水晶に残っているはずの、召喚した聖女に付与されるはずの聖女のジョブとスキルが全てなくなっていたのだ。

 それはつまり還した聖女に全てもっていかれてしまったということだった。

 さくらからしたら、誰がこんなもんいるか!と全力でたたき返したいところだが。


 ウルスは、異世界観測用の魔水晶に浮かぶ光の流れを見下ろしていた。

 そこに映るのは、数え切れないほどの小さな光――向こう世界に設置したダンジョンでの探索者たちの活動ログだ。


「……向こうからの吸い上げ自体は滞りない」


 向こうに作ったダンジョンは、あまりにも“優しい”ものだ。


 最深下層でも10階層以下。すべての階層にセーフティエリアも稼働。

 浅い階層には致命的な罠はない。ほとんどが広めのフィールド、もしくは一本道で、迷路のあるダンジョンもそこまで広くも難しくない。

 魔物は弱く、撤退も容易。

 負傷はしても、死亡はまずよほど不運でない限りはあり得ない。


 それはわざとこのように作ったのだ。

 探索者が増えなければ、意味がないからだ。

 安全な場所で稼げる、強くなれる、という興奮は、どんな世界でも人を呼ぶ。

 向こうの世界の”力”はウルスが思っていた以上に良質だった。

 さすが聖女の器を持つ人物を産み落とすだけの世界だと感心したものだ。

 向こうに作ったダンジョンは、探索者を誘い込み、その生命力を世界ごと吸い上げる装置だ。


 

「恐怖だけを与えれば、人は逃げる。報酬だけを与えれば、人は集まる」


 向こうがありがたがっている魔石はこちらからしたら道端の石ころ。

 ポーションは豊かな川の水。

 あらゆるドロップ品はこちらの世界ではありふれた生活用品だ。

 

 それをダンジョンにばらまいた。


 成長するジョブとスキルがこちらに吸い上げる魔力の元になる。

 攻略の難しさはそれなりに設定しているが、こちらの世界の難関ダンジョンに比べればイージーモードが過ぎる。


 それらはすべて、探索者を“ダンジョン中毒”にするための餌だった。


 彼らが繰り返し潜り、戦い、成長するたびに、世界から切り離された“力”が、少しずつ魔水晶へと回収されていく。

 一滴一滴と本当にわずかではあるが。

 だが、それだけでは足りない、間に合わない。

 どれほど力を集めても、自分たちの世界を護る“最後の一押し”には届かない。


 それが、聖女のスキルだった。


「聖女は……本来であれば、召喚者であれば誰でも良いのだ」

 

 それがどれほど傲慢な言葉か、ウルス自身が一番理解していた。

 聖女としての器さえあれば、極端な話、赤ん坊でも構わないのだ。

 ただ、それは自分たちの世界では生まれない器である以上、異世界から連れてくるしかない。

 だからこの国の歴史上で、全ての聖女は召喚者だった。


 聖女は、単なる魔力の持ち主ではない。

 他のジョブでも、スキルでも、代替できない。

 聖女とは、世界の敵であり、世界を守護するもの。

 平和な時代には必要なく、危機が迫るときにのみ必要な存在なのだ。

 だからこそ、若さも、血筋も、才能も関係なかった。

 あの時、困惑しながらも状況を理解しようとしていた彼女を。

 あの時召喚した彼女を”使う”べきだったのだ。

 今となっては遅いのだが。


「……やはり自分で接触するしかないか」


 だが、彼女がどのダンジョンに入っているのか、分からない。

 一度だけ聖女スキルらしき反応があったが、一度きりだ。

 その後、どれくらい彼女が聖女のジョブとスキルのレベルを上げているのかまったく(いとくち)がないままだ。


「……向こうで見つけるための手段を考えないといけないな」


 どうあっても、聖女はこの世界に必要なのだ。


「まだダンジョンに探索者として入っているのなら、おびき出すための餌を撒くのが一番か……」


 聖女を惹きつけるもの。

 そのヒントを見つけるために、ウルスは王宮の奥にある禁書庫へ向かった。


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