第五十九話 秘密の共有
少しずつだけどジョブのレベルが上がるようにスキルレベルも上がると気づいたのは、鑑定レベルとドロップ率UPのスキルのレベルが上がっているのを確認した時だった。
ストレージボックスは、レベル表示はなく、収容できる量がドン、ドン、と増えていく感じで私の現在のストレージボックスの容量は1トンだ。
会社は相変わらず、ストレージボックスを持っていたら申請してくれ、とメールで社員に回してるけど、今のところ誰も名乗り出ていない、と雪城さんが教えてくれた。会社はストレージボックス持ちに別途仕事をさせたいのだろうということは分かる。私はこれ以上仕事や残業が増えるのは断固嫌なので、絶対言わない。
ギルドにはもちろん報告している。
ギルドに言われた通り、認識阻害の魔石はずっと放り込んだままだ。だからチェックを忘れていて、容量がいつの間にか増えているのにも気づかなかったというのもある。
最近では、ストレージボックスのスキル持ちの探索者も少し増えてきていて、ギルドの売買所ではドロップした空間アイテムもそれなりに出回り始めていて、探索者たちはそこそこストレージ、という手段を得ることができるようになっていた。
「そんで?日向さんが言いたいことって何や?何?俺に惚れた?」
「ないです」
「うわ、一刀両断」
「真面目な話です。私のスキルのことで」
とんかつ屋の個室でする話ではないかもしれないけど、これからも一緒にダンジョンへ行くのならさすがに話しておこうと思ったのだ。
凪も由衣も知ってることだし。
「……信用してないわけじゃないんです」
一度、箸を止めてから言った。
「でも、これ、軽く言っていい話でもなくて」
「それは俺を信頼してくれたってことやろ?まあもうそれなりに一緒にダンジョン行っとるし、探索者として信頼してくれたってことなら嬉しいけど?そんで?」
促されて、私は目の前に認識阻害用の魔石をストレージボックスから出した。
拳大くらいの大きさだ。
「……私も、ストレージボックスもってます」
「……」
「黙っていてすみませんでした」
「ええよ。どうせ、ギルドから言われたんやろ?秘密にしとけって」
「……はい」
「俺もや。ちなみに容量は?」
「最初は500キロでした。今は1トンです」
「ほー、それは結構な容量やな」
「蒼樹さんは?」
「俺か。俺は10トンや」
は……?
「最初は100キロやった。そこからどんどん容量が増えて来たんや。それで俺はブルーツリー流通を立ち上げた。俺一人の会社やけど、ストレージボックスを仕事に使ったらあかんって決まりはないからな。容量は俺が今んとこ世界一らしいな。せやから俺は常にストレージボックスの中身を見張られとる」
「見張られ……?」
「こん中に入れたら密輸とかもし放題やろ?せやから俺は自分から申告して、常にストレージの中身をギルドにスキャンしてもろうとる。その魔石と一緒やな。認識阻害と中身のスキャン装置を入れてあるんや」
「……それ、怖くないんですか」
思わずそう聞いていた。
「何が?」
「ずっと見張られてるって」
蒼樹さんは肩をすくめる。
「まあみられてんのは中身だけで、俺のプライバシーには関係ないし、中に変なもん入れんかったらええだけやし。慣れやな」
それから、私を見て言った。
「せやけど、日向さんが俺にそれ教えてくれたんは、正解やと思うで」
「……え?」
「ストレージボックスは今でこそそれなりに持ち主の増えたスキルやが、まだまだレア扱いや」
「……ですね」
「つまり使いたい奴が大勢いるっちゅーことや。それこそ密輸なんかしたい輩には喉から手が出るほど欲しいスキルや」
「はい……」
「知る人間は少ないほうがええ。日向さんが信頼できる相手だけにしとき。ちなみに俺のストレージボックスのこと知ってんのは、取引先の上層部のごく一部とギルドだけや」
ああ、だからあのフェスの緊急出荷の時、蒼樹さんに依頼が出たのか……。納得した。
「……せやからな」
蒼樹さんは少し間を置いてから、声を落とした。
「俺が今日ここで聞いた話も、外には出ぇへん」
「それ、信じていいんですか?」
「疑う理由あるか?」
「……ない、ですけど」
蒼樹さんは、ふっと笑った。
「ストレージ持ちはな、同じ立場のやつにしか分からんことが山ほどある。便利やし、夢もある。でも同時に、ずっと狙われるスキルや」
箸の先で、とんかつの衣を軽く突きながら続ける。
「せやから俺は、同じスキル持っとるやつを“道具”やとは思わん」
「……」
「仲間か、少なくとも守る対象や」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「今度またダンジョンに行くときは、パーティ組んでるやつらと行くんやろ?三人パーティやったか?そん時、同行させてもらえたら自己紹介も自分でするわ。一人は、東京駅ダンジョンで会ったあの子やろ?もう一人は?」
「私の高校時代の陸上部の同級生で、前川凪って言います」
「OK、どこのダンジョンに行くんでも都合つけるから連絡頼むわ」
「はい」
「よっし、そんじゃ、とんかつ冷めるから食事に集中や。これで足りんかったらファミレスでもはしごしようや」
まだ言えないジョブやスキルもあるけど、少なくとも一つだけでも隠し事を口にできたことは、思った以上に私の心を楽にしてくれた。




