表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/72

第五十三話 助けに来てくれた人たち

 盗賊たちの脇をすり抜け、角を曲がった――そのときだった。


 ディテクトの反応が、再び揺れた。


「……え?」


 青に戻っていた光に、別の色が混じる。

 赤でもない。警告でもない。

 あえて言うなら白い光?

 強い――けれど、敵意はない。


「前か?」

「待ってください……これ、盗賊じゃない」


 通路の奥。

 足音が二つ、はっきりと近づいてくる。


 蒼樹さんが、無言で私の前に立つ。

 私も念のため銃を下げなかったけど。


 ――この気配、知っている。

 


 影の向こうから現れたのは、一人の男性と一人の女性だった。

「さくら」

 低く、よく通る声。

 軽装。けれど無駄のない動き。

 2人とも探索者だと、一目で分かる。

 と、いうか、めちゃくちゃ知ってる2人だった。


「……お兄ちゃんと……由衣……?」

 喉が、かすれた。


 なんで……二人がここに……?


「知り合いか?」

「お兄ちゃんと……相方です」


 2人とも、なんでここに……。


「俺の妹は、相変わらず、面倒なとこに首突っ込むな」

「……なんで、ここに……?由衣も……」

「話はあとだ。ちょっと後ろに下がれ」

 私と蒼樹さんを守るようにしてお兄ちゃんと由衣が私たちの前に立つ。


 そう言って、お兄ちゃんは視線を角の向こうから駆けてくる盗賊たちの気配に向けた。

 手には愛用のエアガンを持ってる。由衣もだ。


「……由衣」

 名前を呼んだ瞬間、胸が詰まる。


「まだ、怖いよ」

 由衣は、正直に言った。

「でも……逃げたままなのは、もっと怖いって思って」


 お兄ちゃんが、肩をすくめる。


「あとでちゃんと説明する。だから今は俺と由衣ちゃんに守られてろ」


 由衣が、私の隣に立った。

 少し震えている。でも、下がらない。


「……日向さ……ううん、さくら」

「うん」

「私、戻るよ」

「……うん」


 その一言で、十分だった。


 通路の向こうから再び、盗賊たちの気配が向かってくる。

 お兄ちゃんがデイパックの中から以前も見せてくれたことのある投網を出した。

「由衣ちゃん、ここに」

「はい!」


 由衣がお兄ちゃんの示した投網の重り部分にリボルバーを構えて弾を撃ち込むと、投網が銀色に輝き始めた。


「いいぞ、いける!」

 お兄ちゃんが投網を持って構えた瞬間、角から盗賊の群れが現れそこ目掛けてお兄ちゃんが全力で投網を投げる。

 投網が大きく開き、5人まとめて、お兄ちゃんが投げた投網に囚われた。

もがいて抜け出そうとしているけど、投網はびくともしない。

「よっし!」

「さすが遥さん!」

 


 お兄ちゃんの投網攻撃に由衣がはしゃいでる。めっちゃ笑顔。

 前よりお兄ちゃんと由衣の距離が明らかに近いんだが……。

 ええと……もしかして、なの……?

 


「よし、ギルドに連絡するか」

 お兄ちゃんがスマホを取り出して、ギルドの緊急ホットラインへつなぐ。

「あ、お疲れ様です。今、東京駅ダンジョンで、指名手配中の盗賊グループを捕らえましたので、回収をお願いします。五人です。場所は、この後すぐ送ります」

 お兄ちゃんが通話を切って、ダンジョンの地図を開けてこの場所をピン打ちした情報をホットラインへ送った。仕事早い。

「よし、それじゃセーフティエリアへ行こうか」

「待って、お兄ちゃん、盗賊を引き渡すまでは離れないほうがいいんじゃ……」

「大丈夫よ、さくら。この投網は魔法を使おうが刃物を使おうが破れないから脱出はできないわ。それにギルドの捕縛隊ももう来る。ほら、足音聞こえるでしょ?」

 確かにすぐ向こうから複数の足音が近づいてくるのが分かる。

「私のスキルはそういうふうに働くの」

「え?え?」


 由衣のスキル……?


「その説明をゆっくりするから、このままセーフティエリアに行こうって言ってるんだ。ここでこいつらに話を聞かれるわけにはいかないからな」

 投網の中でもがく盗賊たちを一瞥して、私と蒼樹さんは、お兄ちゃんと由衣について奥のセーフティエリアへ向かった。


 


 セーフティエリアは誰もいなかった。どうやら東京駅ダンジョンにいる探索者は、みんな出てしまったか二階層以降へ向かったようだ。

「おー誰もいないなら好都合だ」

 お兄ちゃんがベンチに座ると、私の挙げたアイテム袋からペットボトルを取り出す。

「ほら、2人とも汗だくだぞ、水分補給しろ」

 私と蒼樹さんはペットボトルを受け取り喉を潤した。

 ああ、かなり緊張してたのがよくわかる。水分が沁みる……。

「おおきに。はあ、水がこんなうまい思ったの久々や」

「さくら、この人は?」

「ええと、蒼樹さん、ですよね?うちの会社と業務提携してる……」

 由衣が恐る恐る話す。

「ああ、そうや。ああ、そうか、あんたもあの会社の人やったもんな。俺はブルーツリー流通って会社を経営してる蒼樹牡丹言います」


 ぼたん……。

 え、蒼樹さんの下の名前って牡丹って言うんだ……。

 そういえば今更だけど、蒼樹さんの名前知らなかった……。


「あんま下の名前は名乗りたないねん。せやから、会社の名刺にも書いてない」

 

 そう言って、蒼樹さんは少しだけ照れたように頭をかいた。


「へえ……」

 私は思わず、じっと蒼樹さんを見る。

「牡丹、って……意外です」

「よく言われるわ」

 蒼樹さんは苦笑した。

「強そうや言われたり、花みたいや言われたり。どっちもあんまピンと来ぇへん。まあおかんが自分の好きな花の名前つけただけなんやけどな」


 お兄ちゃんが、興味深そうに頷く。


「なるほど。物流会社の社長で、探索者で、しかも名前が牡丹。あ、俺は日向遥って言います、さくらの兄です」

「よろしゅう。しかし、何や、お兄さんのその俺への評価」

「覚えやすいですよ」


 由衣が、くすっと笑った。


 ……あれ?

 由衣、笑ってる。


 さっきまでの緊張が嘘みたいに、柔らかい表情だった。

 少し前までなら、こんな場面で笑う余裕なんてなかったはずなのに。


「で」

 お兄ちゃんが、改めて私を見る。

「さくら。無茶してないか?」

「……多少は」

「多少で済む妹じゃないのは分かってる」


 ため息混じりに言われて、言い返せなかった。


「でも」

 お兄ちゃんは、蒼樹さんの方をちらりと見てから続ける。

「ちゃんと仲間を頼れてるみたいだな」


 蒼樹さんが、軽く頷く。


「妹さんは、ようやっとります」

「それならいい」


 一瞬、空気が静まる。


「……由衣」

 私が名前を呼ぶと、由衣は少し背筋を伸ばした。

「うん」

「さっきの……スキルって……」

「あ、うん」


 由衣は自分の手元を見つめてから、ぎゅっと拳を握る。


「ちゃんと、話すね」

「うん」

「私が、どうして戻ってきたのかも」


 その目は、もう逃げていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ