第五十二話 盗賊たちとエンカウント
東京駅ダンジョンの通路は、灯りはあるけれどそれなりに薄暗い。
照明代わりの魔導灯が一定間隔で灯っているが、角を曲がるたびに影が増える。
いつもより探索者が多いのは、気のせいじゃない。
「今日は、探索者が多いですね」
「せやな。やっぱり今日はちょっとレート上がっとるから日向さんの言う、ちりつも狙いが多いんちゃうかな」
「ここしばらくレート上がり気味ですもんね」
「その分、税金も上がっとるけどな」
最近、どのドロップ品も少し買い取りレートが上がってるのだ。
買い取りレートが高ければ、税収も上がるので政府の罠だとSNSでは言われている。
「まあ、文句言いながらも潜るんですけど」
「せやな。それが探索者や。さあ、今日も稼ぐでー!」
軽い会話のまま、通路を進む。
すれ違う探索者の数も多い。ソロもいれば、即席パーティーもいる。
――なのに。
「……日向さん」
「はい?」
蒼樹さんの声が、少し低くなった。
「さっきから、人の流れおかしない?」
「え?」
すれ違う探索者たちが向かうのは、入口方向。それは私たちの背後だ。
こっそりと私と隣の蒼樹さんにディテクトーー加護を展開する。
「うぉっ!なんやこれ!?」
蒼樹さんが突然発現した加護に驚いたのだろう。青白く光る自分を見て声を挙げた。
「これ、私のスキルです。私たちを守ってくれるので受け入れてください」
「……分かった」
一瞬きょとんとした蒼樹さんは、すぐに状況を飲み込んだらしい。
「……なるほどな。守護系のスキルか」
「はい。敵意と殺意に反応します。詳しいことは今は言えないんですけど……」
青白い光は主張しすぎず、それでいて確かに存在感を放っている。
蒼樹さんは感心したように、軽く息を吐いた。
「構わんよ。スキルは探索者にとっては大事な武器やからな。俺みたいに前面に全部出すほうが珍しいわ」
「驚かせてすみません」
「いや、助かる。前に出る判断ができる」
そう言って、蒼樹さんは自然に歩調を落とした。
私の隣、半歩前。私を守る位置取り。
ディテクトの反応は、さらに強くなる。
背後だけじゃない、前方もだ。
「……前方、三人」
「せやな。数、合うとる」
魔導灯が一段切れる地点。
影が濃く、音が吸われるような通路の折れ。
そこに――人影があった。
グローブをつけたローブの人物が一人。
顔は真っ暗で見えない。認識阻害されている。
―盗賊だ。
あの時、私たちを、由衣を襲った人物を同一人物かどうかは分からない。だけど無関係じゃない。
「日向さん」
「はい」
「ここからは、ちょっとだけ緊張してな」
蒼樹さんの声は、冗談めいているのに低い。
「了解です」
一歩、踏み出した瞬間だった。
男の後ろで、左右に二人。
逃げ道を塞ぐ位置取り。
そして私たちの背後では同じく5人の敵意満載の気配。
盗賊はやはり複数人の組織的なものだったんだと確信した。
ディテクトの反応が、青白い色から赤い警告色に変わる。
「……蒼樹さん」
「ああ」
蒼樹さんは前に出て、肩をすくめた。
「あんたらがダンジョンを騒がしてる盗賊やな。あ、別に肯定も否定もいらんで。スキルの警告色は嘘をつかんからな」
「……」
「で、そこを通してくれる気は……なさそうやな。なら実力で押しとおるだけや。行くで!」
ポン、と私の肩を蒼樹さんが叩く。それが合図だった。
振り向きざま、背後から襲い掛かろうとしてきたローブの盗賊たち目掛けて弾を発射する。シール貼りのスキルで魔弾となってる弾はまっすぐ彼らの額目掛けて軌道を修正した。
踏み込んでくる盗賊が弾を避けようとするが、弾は自ら軌道をさらに修正する。
そういうふうに作ったものなんだから当たり前だ。だが盗賊たちは驚いたらしく、グローブを突き出し、そこからぶわぁっと現れた光の糸の束が弾を絡めとると軌道を失った弾は石畳に落ちた。
まずい。
「日向さん、下がれ!」
蒼樹さんが叫ぶと同時に、私の前に躍り出る。
私は壁を背に彼の動きの中に守られた。
右手に火球、左手にブースト。
重ね掛け。
「まとめて吹き飛ばすで!」
轟音。
通路を満たす熱と衝撃。
――だが。
火球は、盗賊たちの前で歪んだ。
さっきの光の糸が、網のように広がっている。
「ちっ!」
光の網の中で火球は消えた。
「逃げるで!」
「はいっ!」
蒼樹さんに手を取られ、私たちはダンジョンの奥へと駆け出した。




