第五十話 一年後の世界とダンジョンの在り方
ダンジョンがこの世界に出現して1年が過ぎていた。
最近ではダンジョンでの採掘物の買い取りに若干の税金が乗せられるようになり、蒼樹さんが文句を言っている。
ダンジョン金貨。
蒼樹さんが特に狙っていたドロップ品だ。
金の含有量が24金とほぼ同じ99.9%ということ。
残り0.1%がとんでもない高密度エネルギーを持っているということで、世界のエネルギー問題解決の足掛かりになるかもという期待値で、今では買い取り価格は一枚600万を超えていて、ちょっとしたお宝ドロップ品の扱いだった。
ただし税金は今では全てのドロップ品が一律10%となっている。優遇措置で、ダンジョン金貨はまとめて20枚なら8%、ということになっているので、蒼樹さんはまとめてから売りにいっているらしい。
探索者からの税金で、税収が潤い、少しだけ保険料が下がったのは世間的には喜ばれたみたいだ。そりゃ、探索者じゃない人のほうが圧倒的に多いもんね……。
蒼樹さん曰く少しでも実入りを良くしているのは「会社の運転資金やからな」とのことだった。
彼は、ダンジョンで得たお金を自分の会社のために使っているのだ。借り入れや投資なしの会社経営は、他所から何か言われるのが嫌だという経営理念があるからだ。
蒼樹さんとはダンジョンで会えば一緒に潜る、というバディ未満、な関係が続いていた。
たまにうちの会社で顔を合わせることもあったし、あのフェスの出荷の際にお世話になったことから、前よりはダンジョンの外でも距離が近くなった。
蒼樹さんは魔法スキルの重ね掛けができるようになっていて、火球とブーストを重ねると破壊力がとんでもなくて、一緒に東京駅ダンジョンの最下層まで行くようになっていた。上野に行ってみたい、という私の希望を聞いてくれて、上野にも何度か連れて行ってもらった。
私もスナイパーのジョブが順調に上がっている。聖女ジョブのほうは意識しなければLv1のままだ。
由衣とは、会社でなら普通に話はできている。もちろん仕事のことだけだけど、それでも嬉しかった。
ただ「日向さん」と呼ばれることが少し寂しい……。
凪は川越ダンジョンで無事に目標だった決闘者のジョブになったと連絡があった。
これで私と凪で由衣を守れるのなら、ダンジョンに一緒に行くことも可能かもしれないと思ったけれど、話をどう切り出していいのか分からない。一年近くダンジョンに関わらないで来た由衣にまだその気はあるんだろうか?
その日の探索は、いつもより早めに切り上げた。
東京駅ダンジョンの帰り、地上に出たところで、蒼樹さんが私の様子をちらりと見る。
「……今日、ちょっと元気ないな」
「え?」
思わず声が裏返った。
「いや、ダンジョンではいつも通りやったけどな。終わってからの顔が、ちょっとだけ」
そんなに分かりやすかっただろうか。
私は少し迷ってから、正直に口を開いた。
「……相方のこと、考えてて」
「相方って確か同じ会社の子やったな」
「はい」
蒼樹さんには同じ会社に以前バディを組んでいた探索者がいることを話していた。そして相方が盗賊の被害に遭い、探索者としてのすべてを奪われたことも。
「またダンジョンに誘っていいのか分からなくて。危ない目に遭わせたくないし、でも……」
そこで言葉が詰まる。
何が正解なのか、自分でも分からない。
「守りたいんやな」
蒼樹さんは、当たり前みたいにそう言った。
「……うん」
「でも、守り方が分からん」
図星だった。
「それ、普通やと思うで」
「え?」
「守りたい相手ほど、どうしてええか分からんくなる。正解出そうとすると、余計に動けん」
少しだけ、肩の力が抜ける。
「日向さんは、もう十分考えてる」
「……そう、ですか?」
「そうや。考えもせんで引っ張り込む奴も山ほどおる。俺みたいな」
苦笑まじりに言われて、少しだけ笑ってしまった。
「相方さんのこと、今すぐ答え出さんでもええと思う」
「でも……」
「迷ってるってこと、伝えられるようになったら、それで一歩や」
蒼樹さんはそう言って、ダンジョンの出口を振り返る。
「ダンジョンも仕事もな、引き返せる場所があるから潜れるんや」
「……蒼樹さん、たまにすごくいいこと言いますよね」
「たまにって何や!俺はいつでもええことしか言わんやろ!」
照れたように言うのが、少しおかしい。
「今日はこのまま帰るか?それとも、軽く飯いく?」
一瞬迷ってから、私は頷いた。
「……少しだけ、付き合ってもらってもいいですか」
「もちろんや。なんか喰いたいもんある?」
「ラーメン!大盛りとんこつで!」
「色気ないなぁ」
「探索帰りの空腹に色気は必要ないです」
「なんや、ちょっとは色気見せてくれてもええんやで?」
「じゃあラーメンの後、パフェ行きましょう」
「それはちょっと色気とは違う気がするんやが……」
東京駅の地下を並んで歩きながら、思う。
不安は消えていない。
でも、抱えたままでも歩ける気がした。
明日は、由衣に私から話しかけてみよう。




