第四十八話 本業のトラブル!
池袋ギルドを出て、凪と駅に向かう。
私の頭の中にはさっき雪城さんと鷹宮さんから聞いた話がリピートしていた。
ユニークスキルとジョブが狙われている可能性がある……。
なら、私の聖女ジョブとスキルとシール貼りのスキルは……狙われる可能性がある?
「さくら。付き合ってもらって悪かったな」
「え、ううん。私も聞いておいてよかったよ。ありがとう、凪」
「由衣のこともあるからな。情報共有はしておくべきだと思ったんだ。よし、今日の仕事はここまでだ。メシ行こうぜ」
「あ、じゃあナポリタン食べたい!ほら、東口のとこにある大盛りの!」
「お、いいな。よし、じゃあ行くか。今日は俺が奢る」
「やった、太っ腹!」
うん、今日は考えるのも不安になるのもやめよう。
お腹すいたし、ご飯を食べてゆっくり寝よう。明日も仕事だし。
そのまま凪とナポリタン専門店に行くと、大盛りが売りの店なので、探索者でいっぱいだった。
でも今日はもう口がナポリタンになっているので、今から他の店を探す気にもならない。
待つことに決めて、店先の椅子に腰かけて、ここ最近のお互いの近況報告をする。
「もう少しで目標の剣士レベル20になりそうなんだけど、さくらは?」
「私はガンナーレベル8になって、そのままジョブがスナイパーになったよ」
「すげえな。うわ、俺も負けてらんねえ」
「私、最近は東京駅ダンジョンに潜ってるんだけど、そこで、ソロで潜ってる魔法使いさんと知り合ってね。それがつい最近、うちの会社と取引始めた会社の社長さんだったのにはびっくりした」
蒼樹さんのことを思い出すと、少しこわばった心が柔らかくなるような感覚を覚える。
「魔法使いでソロって珍しいな。基本後衛職だから、前衛職と組むジョブなのに」
「ソロで一人でガンガン魔法ぶっ放すのが楽しいんだって。私はダンジョンで会ったら一緒に行動することがあるけど、基本は魔法使いさんはソロで潜ってるみたい」
「ソロが楽しいって気持ちはちょっとわかるな。俺も久々にソロで潜ってるけど、色々試せて楽しいから」
「私も色々スキルの重ね掛けとか試せて楽しんでる。もっといろいろ試して使えるスキルを増やしたいと思ってるよ」
そこで席が空いたと呼ばれたので、カウンター席へ向かう。
お腹がめちゃくちゃ空いてたので、ナポリタンの大盛を遠慮なく凪にごちそうになりました。
家に帰ると、会社から電話が来ていたことに気づいて折り返すと、総務の雪城さんだった。
『遅い時間にごめんなさいね、日向さん』
「いえ、雪城さんこそお疲れ様です。何かありましたか?」
『それが、日向さんの作った出荷リストに抜けがあったって営業から連絡があって』
「え、私の作ったリストって、まさか明後日のフェスの分ですか?もう搬入は終わってるはずですが……」
まずい。大規模フェスで動く売り上げはどんな小さな商品でも大きい。1つでも抜けがあったら大変だ。
「すぐ行きます」
『ごめんなさいね。フロアは開けてあるから』
「分かりました」
もう午後8時を過ぎていたけど、それどころじゃない。
フェスの出荷は、うちの会社の年間でもかなり大きな仕事の1つだ。これにミスがあったら売り上げにも信用にも関わる。
会社に着くと、営業部の担当が私を見つけてリストを突き出してくる。
「日向!出荷リストのWチェックしなかったのか!?」
「しました。Wどころか、3回してます」
「なら、なんで、追加で来たはずの出荷リスト分がすっぽり抜けてるんだ!?」
「追加?」
追加って何?
私は一番最初にもらったリストで出荷指示と宛て紙指示したけど?
「追加って何ですか?私は一回しか出荷指示もらってないです」
「え!?」
「出荷指示は一回しかもらってないです。私のメールボックス確認してください」
これは絶対に確信がある。
すぐ自分のデスクでパソコンを立ち上げ、フォルダ分けしてある出荷指示、もとい、宛先メールを確認する。
うん、やっぱり出荷指示は一回しかもらってない。
「やっぱりないです。いつ誰が私に追加の指示を送ったんですか?」
営業部の秋元さんが困惑した顔で私を見る。
「佐藤商事の常盤さんが、一週間前に俺と日向に送ってきてるはずだ」
「常盤さんからの出荷指示は一回だけです。この時も、秋元さんと私にCCで送ってきてますよね?じゃあその追加指示のメール、私に見せてください」
秋元さんのパソコンを立ち上げ、出荷指示のメールを見せてもらう。
内容は追加で、キーホルダーを3種類と、Tシャツを5種類、各100枚、合計500枚。
内容にもおかしなところはない。
と、メーラーを見た時気づいた。
「あ」
「ど、どうした?」
「これ、私のメールアドレス間違ってます」
「え?」
「ほら、hinataのところが、himataになってます。秋元さんのアドレスは間違ってないので、エラーが出なかったんですかね……」
「本当だ……。アドレスを手打ち?今時?」
「nとmはキーが隣りなので、気づかなかったのかもしれませんね。でも、そんなこと言ってる場合じゃないです。この追加の出荷の手配をしないと。倉庫のほうは?」
「開けて待ってくれている。車の手配も、今急いでしてる。フェス会場も設営の真っ最中だから搬入口は開いてる」
「なら、出荷さえできればフェスの開場には間に合うんですね」
「ああ、そうだ」
私は、秋元さんのパソコンから自分のメールに出荷リストを転送すると、パソコンの前に座って出荷リストを作り始める。
「一時間で作ります」
「頼む」
これは私のミスではないけど、会社のミスではある。私に追加の出荷指示のメールが来ているか一言関係者が確認すれば良かったんだから。
とにかくリカバリーしなくちゃ。
幸い、点数は多くない。これならそれほど時間はかからない。
私はExcelを立ち上げて、リストをコピペして在庫との照合を始めた。
これ、昔の仕事上での経験談がネタです……。今時、手打ちでメールアドレス入力する人がいるとは思わなかったんだよな……。今、ネタになってるからいいけど。




