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閑話休題 ―凪・2―

 結界の内側に入った瞬間、空気がふっと軽くなった。

 湿り気を帯びた冷気が遠のき、代わりに人の気配と、かすかな焚き火の匂いが漂う。


 川越ダンジョン第一層、セーフティエリア。


 簡易ベンチがいくつか置かれ、壁際には自販機型の補給装置。

 持ち込みをしなくても、補給ができる環境なのは、観光地ならではの福利厚生だろうか。

 探索者たちがそれぞれ距離を保ちつつ、休憩を取っている。


 凪は壁際の空いているベンチに腰を下ろし、二人にも座るよう手で示した。


「まずはあんたたち、気をはりすぎてるのか、疲れすぎだ。これやるから回復しろ。話はその後だ」


 そう言うと、ポーションを一本投げ渡す。

 受け取った男は少し驚いた顔をしたが、素直に礼を言って栓を開けた。


「ありがとうございます……助かります」

「久々にダンジョンに入ったので、疲れてたのは確かなんで……」


 二人が落ち着いたのを確認してから、凪は切り出す。


「さっき言ってたな。“スキルを盗賊に盗られた”って。詳しく聞かせてくれ」


 一瞬、二人は顔を見合わせた。

 どこまで話していいのか、迷っているようだった。


 だが先に口を開いたのは、年上に見える方の男だった。


「……盗られたのは俺のスキルです。《マッピング》を」


 凪の眉が、わずかに動く。


「このダンジョンでか?」

「そうです。場所は2階層のセーフティエリアでした。休憩していたら、突然現れたローブの奴に光の糸みたいなので縛られて、気づいたらスキルもジョブも消えてたんです。俺、ジョブはヒーラーでした。だから基本的には後衛職だったんです。そのあとはセーフティエリアに入ってきた他の探索者さんに助けてもらって、何とかここを出られました」

「そうか……。災難だったな……。実は俺の仲間もやられたんだよ、池袋で」

「じゃあ、俺たち以外にも……?」

「ああ。少なくとも、俺の知る限りで二件。あんたと俺の仲間、どっちもダンジョン内のセーフティエリアでの事件だ」


 若い方が唇を噛む。


「……装備も、金も、全部無事でした。奪われたのは……相方のジョブとスキルだけです」

「……つまり、ヒーラーのスキルも?」

「はい。ヒーラーは回復系のスキルばかりなんだけど、全部盗られました」

「そうか……。ギルドへの報告は?」

「しました。他にも被害は出てるって見たけど、ほんとだったんだな……」

 

 凪はゆっくり頷いた。


「そうか。でも俺が知っている情報と一部違うな。あんた、スキルとジョブを盗られたのはいつだ?」

「一か月くらい前です」

「なら、俺の仲間のほうが早いな。俺が知ってる情報は、盗賊が奪ったジョブとスキルに被りはないってことだったが、ここで齟齬が出て来た」

「どういうことですか?」

「俺にもわかんないよ。ただ、これはギルドのほうでちゃんと把握できてるかどうか確認する必要があるな。でも、あんた、ジョブとスキルがないのに、よくダンジョンに来たな」

「いや、実はここに入ったら新しいジョブとスキルが生えたんですよ」

「え?」

「ネットで見たんです。盗られたジョブとスキルは戻ってこないけど、もう一度ダンジョンに入ったら新しいジョブとスキルが手にはいることがあるって。で、一か八かで今日相方と来てみたら、新しいジョブとスキルが、ほら」


 と彼はステータス画面を見せてくれた。


 ――


 ??? 30


 ジョブ 魔法使いLv1


 スキル

 火球


 HP100/100

 MP200/300

 ATK150


 ――


「魔法使いのジョブが生えたんです。俺、最初はヒーラーだったから、適性がそっち系のジョブだったのかなって。だから今日からは魔法使いのジョブと合うキルを伸ばすために探索者することにしたんです」

「強いな。……怖くなかったのか?」

「そりゃ怖かったですよ。今でも、またあいつに会ったら、って思うし、頑張ってレベル上げしてたジョブやスキルを盗られたのは本当に悔しいです。でも、相方に言われたんです。一緒にダンジョンに潜りたいって」

「……」

 魔法使いになった元ヒーラーが隣りの若い男の肩を叩く。

「俺、こいつの先輩なんですよ。後輩に言われちゃもっかい頑張ってみるしかねーかって思って。こいつ剣士で、俺が魔法使いになったんで、攻撃特化バディになっちまったから、回復用のポーションとか多めに必要になるから、今後はポーションが多く落ちるって言う池袋に行くのもいいかなって考えてたところです」

「池袋のスライムは確かに回復ポーションは多めに落とすけど、MPの回復ポーションが欲しいなら、池袋より、神田川がお勧めだぞ。確か、MPポーションはあっちのほうがドロップ率は良かったはずだ」

「マジっすか!いいこと聞いた」


 聞きたいことは聞けた。

 この情報は早めに共有しておきたい。


 凪はベンチから立ち上がり、目の前の二人に、情報の礼代わりに地図を差し出した。


 「俺は急用ができたから、戻るわ。今の話の礼代わりにこれやるよ」

 「え、でも……」

 「かまやしないさ。もしまたダンジョンで会うことがあったら、その時返してくれりゃいい」

 地図を受け取った二人は何度も礼を言い、早速広げていた。

 「それじゃあな」


よし、地上へ戻ったら、まずギルドだ。

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