第三十九話 魔法使いに出会いました
主人公がエセ関西弁の魔法使いと出会います。
今日も仕事帰りに東京駅ダンジョンに来た。
東京駅ダンジョンの入口は、相変わらず現実感がない。
人通りの多い地下通路の一角が、いつの間にか“向こう側”につながっている。
探索者カードをかざして中に入ると、空気が変わる。
地下通路型という情報通り、見通しは良く、直線的だ。
ここに通い始めて10日間。
ガンナーレベルは4に上がった。
順調、とは言い難い。ここから5になるための道筋が見えない。
私の少し前の頭上にはドローンが飛んでいる。
最近ギルドから売り出された、探索用ドローンだ。常にスマホにドローンの映像が送られてくるようになっているのと、モンスターの通知もしてくれる。
マッピングスキルのない探索者にはあったほうがいいとの意見も多かったし、凪も買ったと聞いたので迷わずポチッた。
スマホの通知に「前方、アーマードゴブリン」と表示が出たので、私はリボルバーを構えた。
角を曲がった先に、背中を見せている単体のアーマードゴブリンがいた。
こちらに気づくより先に、私は弾を撃ち出す。
――必中。
青い光を帯びた弾丸が、迷いなく前方のアーマードゴブリンの背中を鎧の隙間から撃ち抜いた。
「よし」
ドロップ品はなさそう。
そう思った、次の瞬間だった。
――ドンッ!
通路の前方から、衝撃音。
爆発音に近い。
「……え?」
警戒して身構えた直後、通路の奥が一瞬、白く染まった。
炎だ。
ドローンで確認していたゴブリンがいたはずの場所が、まとめて吹き飛んでいる。
しかも一体じゃない。数体分の魔石が、床に転がっていた。
単体湧きのはずのゴブリンが、数体固まってたってこと……?
ううん、それより……これは……。
「……魔法?」
攻撃魔法。
しかも、かなり火力が高い。
魔法使いのジョブ持ちの人は多いとは聞いていたけど、実際に攻撃魔法を目にするのは初めてだ。
私は壁際に寄り、そっと様子をうかがう。
爆炎が晴れて、通路の向こうから、足取りも軽く人影が現れた。
黒を基調にした軽装の探索者。
ローブでも後衛装備でもない。むしろ動きやすさ重視。
私よりは年下……かな?
少し長い髪を後ろで無造作に一つに束ねてる若い男性だった。
その人物は、転がった魔石を見て満足そうに笑った。
「いやー、やっぱ地下直線ダンジョンは気持ちええな!撃ち放題や!」
ルンルン、と言った感じで楽し気に魔石を回収している。
いや……楽しんでる。完全に。
こちらに気づいたその探索者は、ぱっと顔を上げた。
「お?あんたソロか?」
関西なまりのある口調だった。
距離はまだある。
敵意は感じない。でも、油断できるタイプでもない。
「……そうだけど」
私がそう答えると、相手はにやっと笑った。
「ええやん。ここ、ソロ多いとこやしな。見ての通り、俺もソロや」
軽い。
そして、強そうだ。
さっきの魔法――
威力、範囲、かなりの高レベルのジョブかスキル持ち……。
凪とも、由衣とも違うタイプ。
ダンジョンを“危険な場所”じゃなく、“遊び場”として見ている目だ。
「俺、先行くで」
探索者は肩越しに振り返り、楽しそうに言った。
「巻き込まれたないんやったら、ちょい距離とっとき」
そう言って、次の角へ走っていく。
直後、また轟音と閃光。
私は思わず息を呑んだ。
(……すご)
好戦的で、危うくて、行き詰っている今の私には、参考になる存在になるかも。
リボルバーを握り直す。
「……魔法使いなら、私のシール貼りの勉強になるかもしれない」
東京駅ダンジョン。
ソロレベリングのはずだった今日の探索は、少し予想外の方向へ転がり始めていた。
爆音が収まったあとも、通路には焦げた匂いが残っていた。
爆音の後の床に散らばる魔石の数を見て、思わず眉をひそめる。
(……あれ、一撃?)
アーマードゴブリンを含めて、最低でも三体以上。
それをまとめて、あの一発で。
基本的には単体でしか湧かないはずのゴブリンがどうして?
私が呆然としていると、少し先で立ち止まっていた彼が、ふと思い出したように振り返った。
「そういや」
軽い声。
さっきまで爆炎を撒き散らしていた本人とは思えない。
「あんた、ガンナーやろ? そのリボルバー見りゃ分かるわ」
「……うん」
否定する理由もなく、短く答える。
「ここ、ガンナーのレベリングにええって有名やもんな」
そう言いながら、彼は楽しそうに肩を回した。
その仕草ひとつひとつに、余裕が滲んでいる。
「せやけど、リボルバーやと火力ちょい控えめちゃう?アメリカのホンモンと違うしなぁ」
――低め。
胸にちくっと刺さる言葉だけど、事実でもある。
お兄ちゃんの用意してくれたこのリボルバーに私は最近物足りなさを覚えるようになっていたのも確かで。
「工夫はしてるけどね」
そう言って、私はリボルバーを軽く掲げた。
「へえ?」
彼の視線が、私の銃に吸い寄せられる。
「改造?それともスキル?」
「……後者」
詳しくは言わない。
でも、彼はそれだけで察したらしい。
「なるほど。ガンナー系のスキル職っちゅうわけや」
納得したように頷いてから、にっと笑った。
「ええやん。そういうの、俺めっちゃ好きやで。工夫で戦うタイプやろ?」
好き、って。
普通は警戒するところじゃないの?
「俺な、攻撃魔法しか持ってないんや」
あっさりと、爆弾みたいなことを言う。
「攻撃魔法、だけ?」
「ああ。防御?回復?知らん知らん。当たる前に焼けばええ派」
「……危なくない?」
「危ないで?」
即答だった。
でも、その顔は楽しそうで、どこか誇らしげでもあった。
「せやけど――おもろいやろ?」
そう言い切るその目は、
ダンジョンを“恐怖”じゃなく、“挑戦”として見ている人の目だった。
「なあ」
彼は一歩、こちらに近づいてくる。
距離はまだ安全圏。でも、圧はある。
「ここからしばらく一緒に進まへん?別にパーティ組めってわけじゃなくて」
「……どうして?」
「ガンナーと魔法使い。火力の出し方、全然ちゃうやろ?お互いいい勉強になるやん」
確かに。
「それにお互い見てて面白そうやん」
――見て、盗む。
技術も、発想も。
私は少しだけ考えてから、リボルバーを構え直した。
「……巻き込まれても文句言わないなら」
「自信家のセリフやな」
彼は楽しそうに笑い、指先に火球を灯す。
「じゃあ先行こか。次、ちょっと数多いで。リボルバー構えとき」
軽く手を振って、再び前へ。
炎が通路を照らす。
私はその背中を見つめながら、小さく息を吸った。
(……この人から、学べることは多そう)
東京駅ダンジョン。
停滞していた私のレベリングは、このちょっと変わった好戦的な魔法使いとの出会いで、想定外の方向へ動き出そうとしていた。




