第四話 ギルドって何!?
翌朝のニュース速報は、昨日よりもさらに現実味を帯びていた。
『全国各地の未知の空洞、政府が正式発表――内部には魔物確認、探索者募集へ』
そのニュース速報を見て溜め息しか出ない。
「……やっぱり、夢じゃない……」
スマホを握る手に、つい力を入れてしまう。右手の甲の薄青い紋様が、じんわりと熱を帯びているのを感じた。
電車の中で流れる新しい公式会見の映像。官房長官が、深々と頭を下げ、落ち着いた声で説明を始めた。
「皆様、昨日発表いたしました『未知の空洞』ですが、政府の調査の結果、これらはこの地球上のどこともつながっていない空洞であることが判明しました。内部には生命反応が確認され、いわゆる『魔物』と呼ばれる存在が存在します。これらの魔物は、空洞から出てくることはできませんので、その点はご安心下さい。そしてこれらの魔物を駆除すると、一定の条件下で物品を落とすことが確認されました。一定の条件下に関してはまだ詳細は分かっていませんが、魔物から採取できる物品に関しては、現在調査を進めていますが内部の探索に必要な武器であったり防具もあるようです。現在、政府で管理しているこれらの物品に関しては、最前線で探索を続けている自衛隊のチームに使ってもらっています」
画面を食い入るように見つめる乗客たちの間にも、ざわめきが広がる。
「さらに、これらのダンジョン内でスキルとジョブと言われる特殊能力を発現することが確認されています。スキルとジョブに関しては現在リストを作っている最中です。こちらは本日中にサイトに確認されているスキルとジョブを公表いたします。スキル・ジョブ保持者は、自己の能力を用いて安全に探索・戦闘を行うことが可能です」
右手の甲を押さえる。私の紋様も、まるでそれに応えるかのように、じん、と脈打っている。
「現在、ダンジョンは全国に複数確認されており、探索の範囲も非常に広大です。そこで、政府は広く一般から探索者を募集し、その管理・安全確保のためにギルドを設置いたします。ギルドでは探索者登録、スキル認、・ジョブ認定、報酬管理などを行い、誰でも公式にダンジョン探索に参加できる体制を整えます。なお、ギルド登録をしていないにも関わらずダンジョンに侵入した場合は、厳罰となりますので、必ずギルドで探索者登録をしてからダンジョンに入るようにしてください」
会見中なのにニュース速報のテロップが流れる。
《ダンジョン探索のギルド公式サイト 本日開設 探索者登録受付開始》
《登録には年齢・健康状態の確認、スキル・ジョブ保持者は証明が必要》
《登録完了後は、探索者証明カードを発行。各ダンジョン入り口にて出入りを管理》
心臓が高鳴る。
ここまで現実味を帯びると、もう笑い飛ばせるものではない。
昨日の夜見た空洞、手の甲の紋様――全てが、現代世界に降りてきた現象の一部だということを、否応なく認識させられる。
(……やっぱり、私も関わるしかないのかもしれない……)
駅の改札を抜け、街の雑踏に紛れながらも、頭の中はニュースの情報と右手の感覚でいっぱいだった。
この街のどこかにある無数のダンジョン、そこで出会うであろう魔物、手に入るかもしれないアイテム、そしてスキル発現者――。
それは、確実に、私の平穏な日常を変えてしまう未来の始まりだった。
会社では、やはり今日もダンジョンの話題でもちきりで、ギルド登録自体は簡単らしく、血気盛んな営業部の男性たちが仕事後に登録に行ってみようと話していた。
「みんな楽しそうよね」
佐伯さんが書類を手に私のデスクにやってくる。
「まあ非現実なことが起きたから、楽しいのは分かるけどさ」
「そうね……。まあ命に関わるようなことがないのなら良いんじゃないかな」
「日向さんは興味あるの?」
「……興味って言うか」
行け、と右手の模様に背中を押されているような感覚がずっとある。
「どんなところなんだろうなって好奇心はあるかな」
「私もかな。有名配信者とかが探索者になって内部の配信をしてくれたらいいのにね」
ああ、それいいな。もし私が入る必要に迫られても、先にどんな所か安全なところから確認できる。
仕事終わりにコンビニに寄って、あの時買ったのと違うティラミスを買って店を出る。同じの買ったらまた連れていかれるかもって思って、怖くて買えなかった。
帰宅してまずはお風呂に入る。ここが一番くつろげる。
お風呂から上がって、ネイルをはがそうと道具を持ってきて右手の甲を見ながらため息をつくと前触れなくまた目の前に透明なウインドウが開いた。
――チュートリアルを開始します。
はい?
瞬間、ぐらりと眩暈がして、私はどこかに引きずり込まれた。
今日は20時にもう一度投稿します。




