第三十一話 空飛ぶスライムにスキル発動!
レジャーシートを畳んで荷物を背負い直した私たちは、三階層の森の中へと足を踏み出した。
由衣のマッピングスキルを頼りに、次のセーフティエリアへ向かうことにしたのだけど、時間はもう午後8時を過ぎていて、できれば次のセーフティエリアで少し眠りたいので、早めに到着したいところだ。
「うん、あっちだね」
由衣が示した方向には木々が茂っていて、少し暗いので三人ともヘッドライトを装着した。
基本的にダンジョンの中の灯りはずっとあるので、時間の感覚がなくなるのが怖いところだ。だから、腕時計は必須。
「セーフティエリアまではそこまで遠くないけど……油断はなしで」
由衣が言うと、私も凪も頷いた。
私たちは間隔を詰めながら、木々の間を慎重に抜けていく。湿気を含んだ空気が肌にまとわりつき、木々の隙間からスライムの気配がちらつく。
「……なんか音しない?」
由衣が立ち止まる。
私も耳をすませる——シュル、シュルッ……草擦れとは違う、粘り気のある音。
少し遠い……?
「来るぞ」
凪が短く言った瞬間、それは“真上”から落ちてきた。
「——上っ!!」
由衣の声に、反射的に見上げた空間で、木の枝よりさらに上、視界の端で半透明の影が弾けた。
丸い。
でかい。
うねる。
あれは。
飛んでる……!?
「二人とも下がれ!」
凪が前に出た。
私は即座にリボルバーを構える。
(大丈夫、二階層までなら普通に当たった——)
引き金を引く。
バンッ、バンッ!
届かない。
スライムは高度を揺らしながら滑空して、弾は全て届かず地面に落ちていった。
「嘘でしょ……!」
胸が冷たくなる。
「さくら、ここからじゃ距離が足りねぇ!由衣、後方!俺が前で——」
凪が言い切るより早く、スライムが枝を蹴るようにして急降下を始めた。
ただ落ちてくるんじゃない。凪を狙って落ちてくる。
分かっているのだ、私たちのパーティの要が凪だってこと——。
(このままじゃ、凪が——)
私は咄嗟に腰のポーチを開け、シール束を見る。
使うのは——これ。
白地に矢印型のマークを描いた、小さなシール。
矢印の横に書いてある文字は——。
「迎撃」
こんな状況だから使えるかもしれない。
手に汗が滲む。
でも、貼れる。間に合う。
「凪、肩貸して!!」
「は!?何を——」
「いいから!動かないでね!!」
私は凪の後ろに立ち、彼の肩にリボルバーを固定して、凪が振り向く前にさっとリボルバーの側面にシールをペタッと貼った。
(お願い、発動して……!)
シールが貼られた瞬間、薄い光の膜が銃身を包み、シールが消えた。
同時に右手の甲がじわりと温かくなる。
——よし、スキルが通った。
次の瞬間、降下してきたスライムが私たちの目の前に迫る!
「よし!」
引き金を引く。
バンッ!!
弾丸はスライムに弾かれず、むしろ押し出されるようにして軌道を伸ばし、跳ね上がった。
ドゴッ!
スライムの中心部へ、弾が吸い込まれるように命中した。
スライムは空中で震え、粘性の塊が裂けるようにして崩れ落ち、光の粒子の中から何かドロップした。
拾ってみると、青いビー玉みたいな感じで、鑑定すると「軽量化コア」とあった。
「さくら、今の……何したの?」
由衣がぽかんとした顔で聞いてくる。
由衣は向こうを向いてたからこっちは見てなかったはず。
「えっと……その……」
シール貼りのスキルのことは言えないから、考えていた言い訳を口にする。
「……照準固定のスキルに命中のスキルを重ねられないかなって試してみたらできたの。そうしたら、迎撃、って出た」
「スキルの合わせ技ってありなのかよ……。……助かった。ありがとな、さくら」
その言葉に胸がじんわり熱くなる。
成功してよかった……。
「次のセーフティエリアまで、気を抜かずに行こう。あいつ、単体じゃないかもしれない」
凪が前方に視線を向ける。
確かに、また上から何かが動く気配がした。
飛ぶスライムは一体じゃない。群れで襲ってくる可能性もある。
「……うん。行こう」
私はリボルバーを握り直し、ほんの少し震える指先を押さえた。
三人で縦一列に並び、再び三階層の森を歩き出した。
次のセーフティエリアまで、まだ距離はある。
けれど、さっきよりも一歩深く“踏み込めている”気がした。
そこからは三人で、湧いてくるスライムたちを倒しながら進んだ。
明らかに数が多かった。
三じゃ移送はスライムが多く湧いてるってほんとだったんだ……。
辿りついた次のセーフティエリアはさっきのような広場ではなく、木々の間のようなエリアで、木々の間に見える上空のドローンは「残り時間9時間15分」と示して浮かんでいた。
「よし、テントをはって休もうか。まず俺が見張りをする」
「うん、分かった」
投げるだけで開くお手軽テントを開いて、寝袋を出す。別に寒くはないけど、念のため毛布も。
「……あー……生きてる心地する……」
由衣がその場にへたりこみそうになり、凪が苦笑しながら水を渡す。
「気を抜くのはテントの中に入ってからにしろよ」
「……うん。今日はもう無茶しない。三階層は、やっぱり二階層とは違う」
「違うよね……敵も、距離感も。私、さっき普通にパニックだった。冷静に対処できたさくらがすごいよ……」
「俺もだ。けど、さくらのおかげで助かった」
凪が少しだけ照れたように私を見る。
胸がまたじんと熱くなった。
「……明日は、今日の倍慎重にいこう。三階層に慣れる。それを第一の目標にしよう」
「うん」
「うん!」
それから由衣と二人、寝袋に入り込んで仮眠をとった。
アラームで目が覚めて、見張りに立っていた凪と交代。頭上のドローンは残り時間5時間を指していた。
私と由衣は二人で見張りをすることになっていたので、眠気覚ましにガムを噛みながらリボルバーの手入れをすることにした。
お兄ちゃんに教えてもらった通り、シリコンオイルを使って手入れをする。
シリンダーがちゃんと回るか確認して、弾のかけらとかごみが残ってないか見て、乾拭きをしてから、トリガー周りにシリコン油を少量。
「よし、これでいいかな」
「うん、大丈夫そうだね。私も次は頑張ろう。せっかっく遥さんにこんないいのもらったんだもん。使えないと申し訳ないよ」
「由衣、お兄ちゃんにそんなに恩を感じなくていいよ。あれ、めっちゃ楽しんでレクチャーしてたし、このリボルバーもおそらく自分の趣味で選んだと思うし」
「でも、私は嬉しかったよ」
本当にうれしそうに笑う由衣を見て、お兄ちゃんめ……と思った私だった。




