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第二十九話 三階層のセーフティエリアと出会い

 ガムテープをちょうど100枚貼ったところで、目の前が一気に開けた。

 明るくて、人も結構いる。

 セーフティエリアのスペースまでたどり着いたのだ。

 

「セーフティエリアだ」


 広場のようになった場所には大きなスクリーンを持ったドローンが浮かんでいて『セーフティエリア消滅まで5時間』と大きな文字で書かれていた。


「あれがギルドが作ったっていう最新式の投影機か。入った瞬間、セーフティエリアの残り時間が分かるのはありがたいな」

「そうだね。5時間あるなら一休みできるよ」


 いくつかの探索者パーティが休んでいるのが見えた。上の階層に比べると人数は少ないけど、ここまで来るだけあって、みんなそれなりのベテランに見える。

 私たちも少しは慣れた探索者に見えてるかな?


「おい、凪だろ?」


 休む準備をしようと、レジャーシートを広げようとしてたら声をかけられた。

 顔を上げると、男の人と女の人が立っていた。


「やっぱり凪だ。やっとおまえもここまで来たのかよ」


 凪の知り合いらしい。

 いかにも、な軽装の探索者風の男女のコンビだった。


「ああ、何だ、おまえらか。おまえらも探索者になったって聞いてはいたけど、まさかここで会うとはな」


 凪の笑顔に、親しい間柄なのだとわかる。

 男の人と女の人——二人組の探索者は、凪の大学の同級生らしい。

 見た感じ、装備は軽装だけど実戦慣れしている雰囲気がある。


「久しぶりだな。そっちは三人で来てるんだ?」

「まあな。やっと今日初めて三階層まで降りたとこだよ」

「俺たちも先週やっと三階層まで問題なく下りられるようになったとこだ。んで、そっちのお嬢さん二人のうちどっちが凪の彼女なわけ?」


 かかかかかのじょお!?


「どっちもちげーよ。こっちが高校の同級生で、こっちがこいつの同僚。ジョブの嚙み合いがいいから、パーティ組んだんだよ」

「へえ、リボルバー持ってるってことは二人はガンナー?」

「いえ。ガンナーはこっちの子だけ。私はスカウトです」

「スカウトか。ってことは、マッピングスキル持ち?」


 探るような言葉だった。

 でも、マッピングスキルは特に珍しいスキルでもない。


「はい、マッピングスキルのおかげで、ここまで迷わずに来れたんです」

「私もジョブスカウトなのよ。マッピングスキル、本当に便利よね」

「そうなんですね!わ、同じジョブの人に初めて会ったかも!ええと……」

「ああ、まだ名乗ってなかったわね。私は杉下美幸。前川くんとは同じ大学だったの」

「俺は宮野徹。凪とは大学時代、色々一緒にやった悪友ってとこ。俺のジョブは剣士なんだ」

「へえ! 剣士さんなんですね」

「ああ。でも三階層は戦い慣れた探索者でも油断すると足元すくわれるから、ほんと気をつけろよ」

「さっき、ここに来る前に、擬態スライムと一戦やったよ。あいつらほんと硬かった」

「だよな。一階層と二階層のスライムがゼリーなら、三階層は石だよな」


 宮野さんはそう言って、ちらりと周囲の探索者たちへ視線を流した。

 三階層の空気に慣れている人の目だ。


「それにしてもここまで来れたって、結構すごいと思うぞ。最近、この階層で脱落するパーティ多いし」

「え、そうなんですか?」

 思わず前のめりで聞き返した。

「うん。ニュース見てると思うけど……世界中でダンジョン発生してるでしょ?そのせいでギルドの管理がどこも追いついてないんだってさ。だから事故が多くなってて、探索するのも、低階層のみって探索者が増えてるらしい。低階層でも、それなりに稼げるからな」

「世界中……」

 由衣が息をのむのが分かった。

「日本は比較的安全って言われてるけど、それでもどこのダンジョンも三階層以降は“管理が間に合ってない”って噂が出てる。上のドローンも、人手不足で全部自動化された結果だしな」

「そ、そうだったんだ……」

「まあ怖がらせたいわけじゃないけどね」

 美幸さんが笑った。

「でも三階層は、マッピング持ちのスカウトがいるのは本当に大きいわよ。マッピングのおかげで、次のセーフティエリアが発現してもすぐ分かるし。まあまだ私たちも四階層には行けてないんだけどね。もう少し三階層で慣れてからアタック予定よ」

「そうなんですね」

 由衣が少し誇らしげに胸を張る。

「だから、三階層で無理に進むより、今はセーフティエリアでゆっくりして正解だよ。消滅まで五時間って出てるし」

「そう言ってもらえると安心します……」


 緊張が少しゆるんだところで、宮野さんが軽く手を叩いた。


「よし、じゃあ俺たちも休憩するか。凪、俺たち向こうで休んでるから、久しぶりだしあとで少し話そうぜ」

「おう。あとでそっち行く」

 美幸さんも私たちへ軽く手を振る。

「じゃ、またあとでね」

 二人は別のスペースに向かっていった。

 その背中を見送りながら、私は小さく息を吐いた。


(三階層って……こんなに緊張する場所なんだ)


 でも、由衣と同じジョブの人に会えて、知らなかった凪の人間関係をちょっと知れて、世界の状況を同じ探索者の人から聞けて——


 なんだか「本当に深層に来たんだ」って実感が湧いてくる。

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