第二十五話 お兄ちゃんのすごさ
お兄ちゃんが笑って私に言う。
「さくら、ガンナーLv3おめでとう」
「ありがとう、お兄ちゃんのおかげだよ」
「遥さんとさくら、仲いいね。そういうの羨ましいな」
由衣が私とお兄ちゃんを見てそう言う。
まあ確かにあまり喧嘩とかした覚えはないかな。4つ年上のお兄ちゃんは小さいころからいつでも優しかった。
私の手元には、新しい武器に、新しいスキル。
三階層に挑む準備が、着実に整ってきている気がした。
そのままもう少し進むと初めて見る魔物が現れた。
銀色のうろこの空飛ぶ魚だ。
なんか群れになってる。気持ち悪い。
しかも、めっちゃ早い!あのスピードでもし嚙みつかれでもしたら絶対大けがだ!
「あれがデビルフィッシュだ。群れで襲ってくる上に、動きが早くてなかなかめんどくさい」
「え、じゃあどうやって……!?」
「任せろ。こいつらにはこうするんだ」
お兄ちゃんがデイパックから何か出す。
「え、何それ……」
「仲間の一人が、クラフターのジョブ持ちでさ。九十九里専用でこういうの作ってくれた。よし、2人とも下がれ!」
私と由衣がお兄ちゃんの後ろに下がると、お兄ちゃんが迫りくる魚の群れに向けて何か投げた。
それは大きく広がり、魚の群れを覆う。
「投網……?」
「ああ。フィッシュキャッチャーって言うんだ。今、ギルドにもクラフトアイテムとして申請中で、とりあえず使ってみて色々試してる最中のマジッククラフトアイテムだ。こいつが無事に登録されたら、あちこちのギルドで発売される予定なんだよ」
網の中に捕らえられた魚たちはジタバタ暴れているが、逃げられない。
「この魚、個体は弱いけど動きが速すぎて、普通の銃だと当てにくいんだよ。だから、まず動きを止める」
お兄ちゃんが腰のホルダーから得意げにリボルバーを抜く。
「動きが止まったら――ただの的だ!」
パンッ! パンッ! パンッ!
網越しでもしっかり核を撃ち抜いて、魚の魔物が一匹、また一匹と崩れていく。
しばらくすると、網の中から動きがなくなった。
「……すご……」
ぽかんと口を開けたまま、つい声が漏れた。
「遥さん、すごいです! こんなの初めて見ました!」
由衣も目を輝かせて拍手している。
お兄ちゃんは、照れたように後頭部をかいた。
「いや、俺じゃなくてクラフターの仲間がすごいんだよ。こいつの早さに全員で苦戦してたら、こういうのどうだ、って作ってくれたんだ。クラフターも割とレアジョブらしくて、地元のギルドが他所に行かないでくれってそいつに泣きついてる」
「クラフターって、そんなものまで作れるんだ……」
「作れる。ジョブLv上がると、素材次第で武器も防具も道具も作れるしな。うちのメンバーはガンナーが多いから、次は魔弾を作ってみるって言ってた」
網を回収しながら笑っているお兄ちゃんは、なんだか誇らしげだった。
昔から、友達には恵まれてる人だなと思ってたけど、探索者になるとなんていうかもっと仲良くなって協力体制がきっちりできるようになったんだな。本当にすごい。
「でも、これ……池袋じゃ使えないだろうなあ」
「池袋には魚いないしね……」
「そう。池袋ダンジョンは全階層スライムオンリーだろ?あいつら相手だと結局“火力と狙い撃ち”が全てだ。だから2人はまずリボルバーに慣れることだな」
お兄ちゃんが、ちらりと私のリボルバーを見る。
「さくら、さっきの群れ処理、良かったぞ」
「ほんと?」
「ああ。スキルも生えたし、ちゃんと相手の動きを見ることができてた」
そう言われると、胸の奥がじんわりと熱くなる。
ああ、そうか、私、嬉しいんだ。
褒められるとか、大人になるとあんまりないから。
私の横で、由衣も嬉しそうにこっそり拳を握っていた。
「由衣さんも反応速度がいい。リボルバー向きだな。……もしかしたら、一番伸びるタイプかもしれない」
「え、ほんとですか!?」
「うんうん、由衣さんは素直だから、吸収が早いんだよ。ガンナージョブ生えるといいね」
お兄ちゃんが言った瞬間、由衣は顔を真っ赤にしてモジモジしていた。
(……あれ?この二人、思ってたより距離近くない?)
ちょっと複雑な気持ちを抱えつつ、私は深呼吸して地面に転がる網を見る。
網からこぼれた魚の魔石が、鱗みたいにきらきらと光っていた。
「よし、じゃあレクチャーはここまで。腹減ったし、戻ってなんか喰いに行こう」
「あ、じゃあお兄ちゃん、私、久しぶりに海鮮焼き食べに行きたい!」
「おー、いいな。由衣さん、海鮮は?ダメじゃない?」
「大好きです!」
そして三人でそのまま港へ向かい、海鮮焼きをこれでもかと食べた。
その時、お兄ちゃんにもう一人組んでる仲間がいて、高校時代の陸上部の同級生だった前川凪だよ、と言うと「覚えてるよ、そうか、あいつも探索者してるのか。今度連れて来いよ」と笑っていた。




