第二十四話 ガンナージョブのLvが上がりました
こほん、と照れを隠すように咳払いをしたお兄ちゃんが私を振り返る。
「……さくら、そろそろガンナーのLv アップが近いんじゃないか?そろそろ『命中』の次のスキル、来るかもな」
「え、ほんと?」
「ああ。カンナ―ジョブがLv3になれば、ガンナー特有の『照準固定』が付与されるはずだ。命中の上位スキルで、精密射撃の下位スキルだな。由衣さんのスカウトジョブに関してはよくわからなくて申し訳ない」
「いえ、気にしないでください」
照準固定か……名前だけで強そう。
「じゃ、まずは経験値稼ぎだ。三人でこの階層、行けるところまで行ってみるぞ」
お兄ちゃんの声がいつになく頼もしく響いた。
私と由衣は顔を見合わせて、うなずき合う。
「うん、行こう!」
私たちはそのまま砂の地面を少しずつ奥へ進んでいった。
少し奥へ歩いて行ったところで大きな砂のトンネルがあり、お兄ちゃんを先頭にして向こう側が見えている短いトンネルを抜ける。
その瞬間だった。
「群れだ、構えろ!」
お兄ちゃんの声に反応して、私と由衣は同時にリボルバーを構える。
ザザザ……ッ。
砂を巻き上げながら、紫や緑の半透明のスライムが10体ほど、波のように押し寄せてきた。
一匹一匹は大した脅威じゃないけど、群れになると話は別だ。
「由衣さんは右の群れ!さくらは正面を抑えろ。俺が左を削る!」
「了解!」
「はい!」
お兄ちゃんが言い終わる前に、もう全員構えてスライムに照準を合わせていた。
深呼吸して、ゆっくりと引き金を絞る。
――パンッ!パンッ!パンッ!
三発撃ち込んだところで一体目が弾ける。
すぐに次。
パンッ!パンッ!
二体目は二発で弾けた。
三体目も二発。そこで弾倉が空になる。
でもまだ来る。
波みたいに、じわじわ押し寄せてくる。
私はお兄ちゃんからもらっていた弾を弾倉に入れながら、警戒を怠らない。
「さくら、そっち来るよ!」
「わかってる!」
スライムがふよん、と形を崩しながら左右に揺れた瞬間、狙いをほんの少し修正する。
パンッ!
スライムが大きく揺れる。
命中したけどまだ足りない。
でも感覚がすっと掴めてきた。
横目で見ると、由衣もなかなかのものだ。
リボルバーなのにほとんどブレず、一発ごとに確実に仕留めていく。
弾倉に弾を入れる動作も滑らかだ。
(由衣、本気で銃の才能あるのでは……?)
お兄ちゃんも左側で、一撃一撃が早いし重い。
スナイパーのスキルなのか、着弾と同時にスライムの核だけを正確に撃ち抜いている。
「さくら、押される前に数減らせ!」
「うん!」
前に出て、呼吸を整えて照準を合わせる。
スライムがぐにゃりと跳ねた瞬間――
パンッ!
一発で核を貫いた感触が、腕を通じて伝わった。
次の瞬間、ポンッと軽い破裂音を立ててスライムが霧散した。
そのタイミングで、視界の端に光が走る。
――【ジョブレベルが上がりました:ガンナー Lv3】
「……え?」
胸の奥で、熱が弾けるように広がる。
「お、さくら! 今レベル上がっただろ!」
兄の声が後ろから飛んできた。
「う、うん!上がった!!3になった!!」
「新しいスキル来てるか確認しろ!戦闘中でも大丈夫だ!」
急いでステータスを意識すると、新しい文字が浮かんだ。
――【スキル:ロックアーム照準固定】
(来た……!)
照準を安定させ、撃つ瞬間のブレを極限まで減らす、ガンナーの基礎強化スキルだと文字を見ただけで理解した。
これがお兄ちゃんの言ってた『精密射撃』の下位互換のスキル……。
「さくら、そのスキルが使えるようになったなら、残り一気に削れるぞ!」
「……うん!」
腕に意識を集中すると、視界の中心にいるスライムたちがゆっくりと『止まって』見える。
シールで停止させた時と似てる。
パンッ!
一撃。
パンッ!
二撃。
すごい、硬いのは分かるのに、完全に『強く』なってるのが分かる。
由衣とお兄ちゃんが各方向から残りを削り、最後の一体が霧散した。
静寂が戻った砂の広場で、息をつきながら振り返る。
「……倒した?」
「倒したな。お、ドロップあるぞ」
お兄ちゃんが満足そうに笑って、砂の上のドロップ品を集める。
あ、あれは……。
「お兄ちゃん、ちょっとその小袋見せて」
お兄ちゃんが拾った、お守りくらいの大きさの小さな袋を見せてもらう。
「鑑定」
―― 空間袋。10キロまで収納可能。
「やっぱり空間系のドロップ品だった」
「さくら、鑑定スキルもあるのか?」
「うん。まだこっちはLv1だけどね」
「そっか。で、これは?」
「ストレージボックスみたいなもんだよ。10キロまで収納可能だって」
「そっか。じゃあこれはおまえにやるよ。池袋に行くならあったほうがいいだろ?」
いやいや、いらないから!
お兄ちゃんになら言ってもいいか。
「私はいらないよ。必要ないから」
「いや、池袋の三階層からってダンジョン内で泊まりになるんだろ?」
「うん、でもいらない。見てて、お兄ちゃん」
地面に置いたリボルバーに手を当てて呟く。
「収納」
リボルバーをカット&ペースト。
瞬時にリボルバーは私のストレージボックスに入った。
唖然としたお兄ちゃんがえ?え?と私と地面を交互に見る。
「私、ストレージボックスのスキルが発現したんだよ」
周りに人はいないけど、念のため小声で。
「え、でも探索者カードには書いてなかったぞ」
「ギルドからストレージボックスについては秘匿してくれって言われてるの」
「はー。まあ確かにあまり人にはバレたくないスキルだよな。じゃ、それならこれ、俺がもらうわ。弾倉の持ち込みに使える」
「だね。使ってよ。今日のレクチャーのお礼」
「ありがとな、さくら」
これでお礼になるのなら別にいいよね。




