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第二十三話 私の兄が神だった……!?

ちょっとラブコメ入ります。

 次の日の朝、由衣と二人で私の千葉の実家に向かう。

 日本一有名な海辺の夢の国を電車の窓から見ながら、更に向こうへ。途中で一度乗り換えて内陸へ行くと小さな町に着いた。駅前にお兄ちゃんが車で迎えに来てくれてたのは助かった。

「さくらー、おかえりー」

 いつものお兄ちゃんののんびりした声。

 駅前ロータリーで愛車のジムニーの運転席で手を振っているお兄ちゃんの姿を見て、ちょっと胸が温かくなる。

「お兄ちゃん、ただいま。ごめんね、休みの日に迎えに来てもらって」

「いいっていいって。俺から言い出したことだし。そりゃ迎えに行くよ」

 お兄ちゃんは運転席からひょいと身を乗り出して、にこっと笑った。

「由衣さんもいらっしゃい。あげた子は役に立ってる?」

「おはようございます、遙さん。ええ、とても役に立ってます」


 遥さん?

 え、由衣ってば、いつからお兄ちゃんを名前で?

 

 (ちょっと待って、ついこの前「初めまして」したばっかりだよね!?)


 驚いて横を見ると、由衣はまるで当然のように微笑んでいた。

「え?あ、さくらに言ってなかったっけ?この間お邪魔したときに連絡先の交換してて……」

「うん。俺が“佐伯由衣さん”ってフルネームで呼んじゃってさ。そしたら“そんな丁寧に呼ばなくていいですよ”って言われた流れで」


 はー、お兄ちゃんにそんな甲斐性があったとは……。

 てかお兄ちゃん、絶対わざと私に黙ってただろ!


「ってことで、2人とも探索者カードは持ってきてるな?」

「ああ、うん。お兄ちゃんが持って来いって言うから持ってきてるけど……」

「よし、実践だ。今からダンジョンに行くぞ」


 は?


 いやいやいや…!!


「ダンジョンってお兄ちゃん、何の準備も私も由衣もしてきてないよ!?」

「大丈夫だ。行くのは九十九里の一階層の入り口あたりだけだから、普段着でも武器さえあればいける」

「武器さえあればって……」

「荷台に二人の新しい武器は積んである。今日は実践で教えてやるからな!」


 めっちゃ生き生きしてるよ、お兄ちゃん……。


 そして私と由衣はそのまま、お兄ちゃんに九十九里のダンジョンへ連れていかれることになった……。


 


 ……私の知ってる九十九里じゃない……。

 

 まず出てきたのはそんな感想だった。

 見慣れたはずだった海岸には大きな黒い穴が空中に空いていて、周りには警備が多い。

 少し離れたところの駐車場は車でいっぱいだった。

 

「九十九里は三階層までしかないんだが、ここはスライムとフィッシュデビルって言うダンジョンの中を群れで泳ぐ魔物がいる」

「魚の魔物ってこと?」

「ああ。空中を群れで飛んでくるのだいぶ怖い」


 お兄ちゃんが車の荷台からガソゴソと何やら取り出してくる。


「あと、さくら。おまえ、池袋にアタックしてるんだったよな?」

「うん。もうすぐ三階層にアタックする」

「ならちょうどいい。池袋の三階層のスライムって擬態する上に、二階層までのスライムより10倍ほど硬いんだろ?」


 そうなのだ。

 凪が教えてくれたけど、二階層までのスライムよりずっと硬くてなかなか大変らしい。一階層や二階層のスライムならエアガン一発でどうにかなるけど、三階層以降は何発撃ち込めばいいのかまだ未知だ。


九十九里(ここ)のスライムはかなり硬いらしいから、池袋の良い練習になるだろ。だから池袋の三階層のために、これのレクチャーを今日は九十九里(ここ)でする!」


 とお兄ちゃんが見せてくれたのは……リボルバー?


「池袋の三階層は、連射より一発の火力がものを言うはずだ。だから、今日はこいつのレクチャーをしようと思って2人分準備しておいた」

「って、これ新しいやつじゃない?」

「ああ、2人のために新しく買っておいた」

「え?いくら!?払うよ!!」

「気にすんな、俺も探索者始めて、それなりに稼げてる」


 お兄ちゃん……いや、お兄様!

 え、私の兄が神だった……?


「よし二人とも入場ゲート行くぞ。探索者カード出せるようにしておいてな」


 武器を入れたデイパックを背負ったお兄ちゃんの背中を追って、由衣と二人で初めて池袋以外のダンジョンに入る。

 ゲートを抜けてダンジョンに入ると、中は割と明るくて地面は固まった砂みたいな感じで歩きやすい。


「ちなみに俺のジョブは最初はガンナーだったんだが、レベル5に達した時点でスナイパーになった」

「え?」

「所謂、ガンナーの上級職だな。スキルも命中だけじゃなく、精密射撃、が新しく生えてきた」


 私、まだガンナーLv2なんだけど……。


「基本はサバゲ仲間と時間を合わせてダンジョンに入ることもしてたが、ぶっちゃけソロで入るほうがLv上げには良かったんだよ。仲間たちも、最近じゃソロで入ることも多くなってるらしい」

「私もさくらも、まだジョブLvは2なんですよ。遥さんすごいです!」


 由衣に褒められてまんざらでもない顔してにやけてる兄、キモい。


 お兄ちゃんのダンジョンアタック自慢を聞きながら歩いていると、前方に、砂浜の影みたいにぬるっと形を変える青いスライムが一匹、こちらに気づいて揺れた。

「ほら、あれだ。まずは通常スライムで新しい武器の扱いの感覚を覚えるんだ」

 兄が軽く合図すると、由衣が一歩前に出る。手にした新しいリボルバーを、まだぎこちないながらも両手で構えた。

「由衣さん、焦らなくていいから。リボルバーは重心が後ろ寄りだから、手首で支えようとせず腕全体で――お、そうそう。一発じゃ無理だと思うから、何発か撃ち込んでみて」


 由衣は「はいっ」と返事して、そのまま引き金を引いて一発。二発、三発、四発、五発、と連続で引き金を引いた。


 パンッ!パンッパンッパンッパンッ!

 

 乾いた音とともに、スライムが青いしぶきを散らして弾け飛ぶ。

「……倒した?」

「倒したね。5発で行けたか。やっぱりこいつはエアコッキングでも火力があるな。それに由衣さんの射撃の腕が良いんだろうな」


 由衣の頬が少し赤くなる。お兄ちゃんの微妙に嬉しそうな顔がむず痒い。


「じゃ、次はさくらの番だな。ほら、これ。弾は装填してある」

 お兄ちゃんから手渡されたのは、私の手にちょうどいいサイズの、黒のマット仕上げのリボルバー。軽量モデルなのに、見た目がやたらかっこいい。

「……これ、ほんとに私に?」

「さくらの腕なら扱えると思って買ったんだよ。撃ってみろ」


 くぅ……お兄ちゃん今日やたらかっこよくない!?お兄ちゃんのくせに!


 呼吸を整えて、目の前に現れたスライムに狙いをつける。


 パンッ!


 うん、やっぱり一発じゃダメだった。続けて5発撃ちこんだところでやっと倒せた。

 リボルバーには6発しか装填できないので、お兄ちゃんに教えてもらって、空になった弾倉に新しい弾を装填する。

 弾の装填を早くする練習も必要だな、これは。


「いいぞ、さくら。反動もちゃんと制御できてるじゃん」

「ほんと!? よかった……!」

「じゃ、もう少し奥行くぞ。三人で一階層の群れ抜けたら、実際の池袋三階層でも通用するはずだ」

 お兄ちゃんが前に立ち、由衣が後ろを警戒し、私は中央に入る。自然と三人でフォーメーションが出来ていた。


「兄妹でダンジョンっていいですね」

「由衣さんは姉弟は?」

「一人っ子です」


 由衣が笑うと、兄がちらっと振り返った。


「由衣さんはジョブはスカウトだっけ?」

「はい」

「ガンナーも生えるといいね。割と後から新しいジョブが生えることもあるらしいから」

「はい。私もガンナースキルほしいです。せっかく遥さんにこうやって教えてもらってるし、エアガンも使い慣れてきた感じもあるので」


 由衣、あんまりお兄ちゃんを調子に乗せないで。

 この兄、天狗になるとめんどくさいんだから。



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