第二十二話 三階層作戦会議大詰め
その夜、三人でうちでテーブルを囲んで三階層アタックのための必要な荷物を最終確認する。
うちで打ち合わせをするのが一番楽だって3人して思ってからはこうやってうちに集まるのが自然な流れになった。
由衣なんて、とうとうパジャマや洗面道具もうちにもちこんで、会社帰りとダンジョン帰りに時々泊まっていくようになった。それはかなり楽しいので、私は嬉しいけど。
「水と食料は、Excelの表の通りで三人で三日分。おにぎりは各自50個。あと多めに行動食と飴。それからチョコレート。ダンジョン内部でお湯を沸かせるか分からないから、お湯を入れた魔法瓶は多めに」
由衣がチェックリストを指差しながら読み上げていく。
「薬品類も大丈夫。止血、消毒、ポイズンリムーバー。低級と中級のポーション、あと非常用のマジックランプ。テントと寝袋、念のため各自毛布一枚。それから着替えとタオル」
「ストレージボックスすげえな……。なかったら持っていけるのこの一割でも無理だぜ……」
凪がリストを見ながら感嘆した。
「凪は三階層で泊まったことは?」
「ない。ソロであそこで泊まりのアタックは無理だ。俺は三階層は入り口付近だけで活動して、その日のうちに戻ってた」
やっぱりソロじゃ限界があるんだな……。私は由衣と凪がいてよかった……。
「うん…ストレージボックスの残り容量は十分ある。ついでに簡易マットも入れておいたよ。あと、この間ホームセンターで見つけたこれ」
と私が二人に見せたのは蛍光色のガムテープとマジックだ。森の木が探索者にとって目くらましめいたものになるのなら、由衣のマッピングスキルと合わせて、物理的なマッピングをしておこうと思ったのだ。
そう説明すると、先行の自衛隊の探索部隊も同じようなマッピングをしていたらしい。
「よし、問題なさそうだな」
凪が腕を組んで、今回の作戦の要点をまとめる。
「今、公式から出てる情報によると、四階層への階段は三階層に入ってからは基本的に真っすぐだ。ただ問題はフィールドが森だから方向感覚がたやすく失われること。あと、単純に広い。それと、“分岐っぽく見える偽道”だ。あれに入ると高確率で戻れなくなる。遭難事故の大半がそこで起きてるらしい。どうも森全体に感覚を迷わせるような作用もあるらしくて、四階層への階段を見つけるのに、先行隊もかなり時間がかかったってことだ。セーフティエリアが時限式なのがネックだな。森のフィールドだから、移動も大変だし」
「由衣のマッピングスキルが頼りだね」
「うん、頑張る」
「それで実際のアタックだが、俺は今ちょっと仕事が忙しくてさ。ふたりは?」
「うちの会社、月に二日探索者申請してる人は休暇がもらえる制度ができたから、月末月初の忙しい時期じゃなければ、凪に合わせて休暇取るよ」
私がそういうと、凪がうらやましそうに息をつく。
「最近、そういう会社増えてるみたいだな。羨ましいよ。うちは探索者の副業自体はOKだけど、通常業務に支障がないように、って言われててな……」
「それが不満で、若い子は探索者でやっていく、って会社辞める子も多いみたいで、問題になってるわね……」
「さすがにこの年でそんな度胸ねえな、俺」
「私たちもだよ。会社の業務の支障にならないように副業としてしていくつもり。ね、由衣」
「うん」
最近の社会問題の一つが、探索者をやるために仕事を辞める若い子が増えてきたことだ。
だから最近では、探索者へ今まではダンジョン利益に対してに関しては非課税だったけど、来年以降は少しだけ課税対象にして、普通に働いている人たちの負担を減らそう、という動きが出てきている。
国としては、少しダンジョン探索のスピードも落ち着いてきたということで探索者への締め付けを少しずつ強めていくつもりらしい。
だから、現行の探索者は締め付けが強くなる前に稼いでおこうとかなり無理をしていると掲示板でも注意喚起が出ていた。
「それじゃ、今日は帰るわ。休みとれる日が決まったら連絡する」
凪が立ち上がり、私と由衣は一階のコンビニに行くために一緒に玄関を出る。
凪を見送って、2人でマンション一階のコンビニに行き、夜食と明日の朝食を買って戻った。
今日は由衣はうちに泊まっていく予定だ。
明日の休みに一緒に私の千葉の実家に行くことになってる。
お兄ちゃんから「もっと使いやすいの二人分用意したぞ」と連絡があったのだ。
由衣にそれを言ったら「ちょっとエアガンの手入れ方法とかお兄さんに聞きたいこともあったし、一緒に行く」と言うので、朝から待ち合わせるより泊まっていくほうが早いとなったのだ。
その夜は二人で夜食にカップ焼きそばを食べて早々に寝た。




