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第二十一話 会社に探索者申請をします!

 うちの会社でも結構な人数が探索者登録をしたみたいだ。社内広報には、どこの部の誰が探索者登録をした、と毎日のように更新され、今日は探索者休暇を誰が取ってる、と周知されていた。

 うちの会社は流通の仕事をしているので、ストレージボックススキル持ちにはスキルで仕事をしてもらう代わりに特別ボーナスを出す、なんて社長からの言葉があったが今のところ申請した該当者はいないらしい。まあそうだよね……レアスキルみたいだし。

 一応、私も他人からスキルの鑑定をされてもストレージボックスをわからないようにしておきたいとギルドで相談したら、新しく発売される予定だという、スキルの認識阻害の効果がある魔石を一つ貸し出してもらえた。それをストレージボックスに入れておくだけでいいらしいので、さっそく入れて、鑑定をしてもらっても分からなかったみたいなので、これで一安心だ。他にもまだ隠しているスキルとジョブがあるけど、これは基本的にお口にチャック。


 それから由衣と二人で、最近の食事量のデータを取り、凪の分と合わせてどれくらい食料の準備をするか決めることにした。

 一応三人で三日分想定だ。

 こういう時、いつでも話せる同じ会社で良かったなぁ。


 昼休みに、私物のノートパソコンのExcelに食事量のグラフを作って、由衣と確認する。

「うん、やっぱりおにぎりは最低でも20合分は必要だね。ってことはおにぎりだけで10キロくらいあるね……」

「おにぎり10キロ……。五合炊き1つじゃ厳しいな……。やっぱり10合炊き買おうかな……」

「私も炊飯器を買い替えようと思ってたから、今日帰りに一緒に行こうか?」

「うん」


 それからエネルギー補給優先で、肉類中心でのおかず。できるだけ匂いがないものののほうがよい、というのは凪の意見だ。

 ダンジョン内には空腹の探索者がたくさんいる。そこにセーフティエリアとはいえ匂いの強い食事なんて持ち込んだら敵意しか向けられないぞ、としみじみ言ってた。経験則かな?なので、カップ麺は除外。レトルトカレーも。

 あとはチョコレートや羊羹といった防災コーナーにあったカロリー高めのお菓子と何より水分だ。500ミリリットルの水とお茶を各60本。

 多すぎたとしても、重くはないんだから別にいい。

 ここまでで約50キロ。ストレージボックスの1割を使ってしまうが、準備に手は抜けない。他に消耗品や寝泊まりの道具、着替えなどを含めたらストレージボックスの2割弱を使うことになる。

 

 そして、これはダンジョンの不思議なんだけど、ダンジョンの中にいると、トイレに行きたくなくなるのだ。

 人間の一番の生理現象なのに、これはダンジョンの不思議の一つと言われていて、謎はまだ解明されていない。

 汗はあんなにかくのにね。


 仕事帰りに、由衣と池袋駅前の電器屋に行って、お互い新しい炊飯器を買った。家にある5合炊きも一緒に使うから一気に15合までは炊けるな。

 最近お米が高いのが悩ましい問題だけど、実家の親戚が米農家なので、毎年実家に4俵、併せて240キロほど格安で売ってもらっている。もう私もお願いして別に売ってもらおうかな……。

「そういえば……さくらは会社には探索者登録したの?」

「ううん、まだ。由衣は?」

「私はしたよ。社内の情報として周知されちゃうから、営業部の探索者登録してるやつらにスキルとジョブがバレて、パーティ組もうってうるさいったら。もう私はパーティ組んでるからお断りって何回も言ってるのにしつこいんだよね。さくらも登録したら、それは覚悟したほうがいいよ」

「お疲れ様……。うーん、登録したほうが色々今後が楽だよね……。私も明日にでも総務に行ってして来ようかな……。探索者には、ダンジョンに入るための特別休暇が出るって、社内広報に書いてあったよね?」

「そうそう。月に2日。つまり年間で探索者の私たちには24日の休暇が増えるんだよ。もちろん、業務に差し障りのない日を選ばないといけないし、ダンジョンに入ったって証明書は必要だけど、助かるよね」

「会社的には、探索者としての副業を認めるから、辞めないでくれって必死なんだろうね」

「まあうちの会社、万年人手不足だしね。とりあえず倉庫のほうはバイトを増やしてしのいでるらしいよ」


 どこも世知辛いな……。まあ私は会社を辞める勇気はないから、ダンジョン探索は副業としてやらせてもらいます。

 

 翌日、午前中の休憩時間に総務部へ向かう。

「すみません、営業部の日向です」

「あら、日向さん、どうしたの?」

 私の呼びかけに立ち上がってくれたのは、総務部の雪城さん。ん?なんか最近同じ名前を聞いた気が……。

「あの、私、探索者の登録をしたので、会社に申請を……」

「日向さんも?うちの会社じゃ女性で二人目ね」

「そうなんですか?」

「ええ。第二営業部の佐伯さん」


 うん、それは知ってる。


「他はみんな男性社員よ。じゃあ日向さんの申請の受付するわ。探索者カードは持ってる?」

「あ、はい。持ってきました」

 探索者カードを差し出すと、雪城さんが「じゃあこっち書いて」と社内用の申請書を渡してきた。

 一応、社内で情報は全て共有されるらしい。

 ジョブはガンナー、スキルは鑑定とドロップ率UPと命中のみ書いて申請する。ストレージボックスは書けない。認識阻害してるし、ギルドの雪城さんにも気を付けるように言われてるし……って、あ……!

「あの雪城さん」

「書けた?」

「あ、はい。あの……つかぬことを伺いますが、池袋の副ギルド長の雪城さんって知ってますか?」

「知ってるも何も、池袋ギルドの副ギルド長の雪城亮は私の兄よ。そういえば日向さん、板橋に住んでるから、探索者活動するなら、池袋が一番近いわね」

「はい。池袋で活動を始めました」

「うちの兄が何か迷惑かけてない?」

「いえ、むしろすごくお世話になってます」


 本当に、雪城さんのおかげで助かってることばかりだ。


「そう。まあ基本的に仕事は真面目な人だから、多少無茶ぶりしてもいいわよ。はい、確かに申請受け付けました。ケガをしないように頑張ってね」

「ありがとうございます、ぼちぼち無理しない程度に頑張ります」


 

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