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第二十話 続・作戦会議とチャーハン

 そのまま駅の地下通路を抜けて西口に出ると大きな通りを自宅に向かって歩く。

 途中のごはん屋さんも割とどこも混んでて、都内で一番探索者が多いっていう渋谷とかもすごそうだなって思う……。


 「ここだよ」

 大きな通りから一つ入った道に建ってる築25年の1LDKのマンション。

 10年前に引っ越してきてからずっと住んでる。

 駅まで歩いて15分くらいで少し遠いから家賃安めで、大きな通りの音はあまり聞こえないし、スーパーも近いし、コンビニもあるし、自転車置き場は無料だしで住環境としては気に入ってる。


 1階のコンビニで買い物をして、3階の自室に二人を案内すると、手だけ洗ってもらって、リビングのソファで待ってもらうようにお願いする。

 さて、私はご飯の用意だ。

 5合炊きの炊飯器はしっかり炊けていて、私は冷蔵庫からネギと焼き豚と卵を出して、ネギ豚チャーハンを作ることにした。簡単かつ、ボリュームがあるご飯もの、ってなるとこれくらいしかない。実際、15分もあればできあがり、チャーハンとインスタントスープをセットにしてリビングへ持っていく。

「おまたせー」

 山盛りのチャーハンに、2人が声を挙げる。

「よし食べよう」

 ソファを二人に使ってもらって、私は二人の前に座る。

「いただきまーす」


 5合分のごはんで作ったチャーハンはすぐなくなった。

 マジで10合炊きが必要だなこれ。


「よし、それじゃ会議始めるか」

 コンビニで買ってきたあれこれをテーブルに広げて、凪がカバンからペンと紙を出してくる。

 凪は紙に「三階層」と大きく書くと、ペットボトルのお茶を飲んでから紙をペンでたたく。

「――まず、俺が知ってることから。三階層は、一階層、二階層とはダンジョンフロアの環境が違う」

「環境?」

「ああ。公式にも一応情報はあるが、こいつを見てくれ」

 凪が私と由衣の前にタブレットを操作して見せてくれた。

 それはたくさんの写真だった。

「……森?」

 由衣が呟く。

 そう、凪の見せてくれた写真には木々が茂る広大な森の風景があったのだ。

「ああ。池袋ダンジョンの三階層は森なんだ。一階層、二階層の岩場とはまずそこが違う」

 

 いつもの柔らかい口調とは違って、探索者の顔だ。

 由衣も姿勢を正し、私も紙を覗き込む。


「つまり、スライムたちも隠れて襲撃できるってことね」

「そうだ。しかも三階層のスライムは擬態してくる。だから気配探知のスキルがある由衣がいてくれることがきっとカギになる」

「うん、分かった」

「それから三階層は一階層、二階層よりかなり広いから内部で泊まり前提だ。最低でも一泊二日、長ければ三泊になる。だから食料と水は多めに持ち込む必要がある」

「それは私のストレージボックスが使えるね」

「ああ。それとこれが一番問題なんだが、三階層には決まったセーフティエリアがないんだ」


 え?


「ないってどういうこと、凪くん」

「厳密にいえばセーフティエリアはある。だけど消えるんだよ」


 消える?


「時限性の移動式みたいなんだ、三階層以降のセーフティエリアは。できて、10時間でセーフティエリアが消える。で、また別の場所にできるんだ」


 移動するセーフティエリアってことか……。

 もしセーフティエリアに入ってもそこが残り数分、みたいな可能性もあるのか……。


「私のマッピングスキルで、セーフティエリアは分かると思うけど、残り時間が分かったら一番いいね」

「ああ。それに期待してる」


 それから中で泊まることに関しての話を進めていく。

 テントと寝袋を人数分買って、2人が寝て1人が見張りに立つ。4時間で交代。

 凪曰く、かなりの量の食糧と水分が必要と言うことで、それは基本的に私のストレージボックスに入れておく。

 公式の情報を三人で顔を突き合わせて見ると、三階層に関しては、準備をきちんとしてから向かってくださいとしつこいくらいに書いてあったのと、起こった事故の詳細も載っていた。


 ―― 遭難が最も多い。森で迷子になり、救出隊が毎日のように出ている。

 ―― 防犯ブザーにはダンジョンの中でも居場所がわかるGPSが搭載されているので必ず持っていくこと。

 ―― セーフティエリアの残り時間を確認できるようになったので、必ず確認すること。それを怠って、スライムに襲われた事故も多数。

 ―― 森の中で擬態したスライムに襲われる事故も多数報告されている。できれば、マッピングスキル持ちと組んで、擬態スライムに対しての警戒と、ギルドで売ってる回復ポーションを持っていくこと。できれば中級。


 うん、なかなかシビアだな……。

 これだけのことがあってもまだ全国的に死亡事故が一件もないみたいだけど、凪曰く、それはないと思うとのこと。

 ダンジョン内での死亡事故なんて発表したらダンジョン即封鎖!ってことになりかねないし、今の日本の経済はダンジョンからの恩恵でかなり良くなってきているのもあって政府としてはダンジョン内での活動を止めたくないだろうと。


「あ、これ」


 由衣がスクロールして出てきた画面を止める。


 ――ジョブ、盗賊が確認されました。探索者の皆様は十分ご注意ください。防犯ブザーは必ずお持ちください。


 ……盗賊。なんかやだなぁ……。


「あ、こっちも新しい広報が出てる」


 由衣が見せてくれたのは、探索者をより多く登録するために、今まで前科持ちには解禁しなかった探索者への道を解禁したという広報だった。

 ただし、前科持ちの探索者のカードは通常の探索者とは色を変え、なおかつ、現在各都道府県で探索が進んでいないダンジョンのみでの活動を許可する、と書いてあった。各都道府県に最低でも2つはダンジョンが確認されているので、2つしかないところは、より探索が進んでいないほうが割り当てられるみたいだ。


「まあ、いずれこうなるんじゃないかとは思ってたよ……」


 凪が苦笑する。


「もう探索者は150万人を超えてるが、まったく足りてないからな……。日本の全人口から見たら1%ちょっとだ。ダンジョンを探索してくれるなら、前科持ちでも良しとするとはいずれなるだろうとは思ってた……」

「ちょっと怖いね……」

「まあ俺たちのメイン活動の池袋ダンジョンは通常探索者しか入れないから、そこまで気にしなくてもいいだろ」

「そうだね。とりあえず三階層の攻略に三人で挑もう」

 凪と由衣の言葉に頷く。


 うん、今は無事に三階層へ行くことだけを考えよう……。 

 

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