第十八話 赤いポーチは高かった……
受付カウンターに整理番号と袋を出すと、スキルとジョブの登録の時に手続きしてくれた眼鏡の男性が出て来た。
「日向さん、ダンジョンお疲れさまでした」
「どうも……ええと……」
「失礼しました、先日は名乗っていませんでしたね。池袋ダンジョンギルドで副ギルド長をしております雪城と申します」
丁寧な自己紹介に、思わず頭を下げる。
「パーティを組まれたと伺いました」
「あ、はい」
「良いことです。特に池袋ダンジョンの三階層以降は、日帰りが難しくなりますので、内部で泊まる準備が必要になりますから」
え、そうなの?
凪を見ると頷いていた。
うわ、これはほんと三階層以降の情報ちゃんと集めないと……。
「それで、今日のドロップの買い取りはこれだけですか?」
そこに広げたドロップ品を雪城さんが鋭い眼差しで確認する。
「あ、はい。それで、今日初めてドロップしたものもあって、これはこちらで公開されているドロップ品の中には見当たらなかったので、鑑定してみたら空間ポーチ、とありました」
「ふむ……では、拝見します」
袋の一番上に置いてあったポーチを雪城さんが手に取り、鑑定盤(黒いタブレットみたいなもの)の上に乗せて操作する。
すると雪城さんが眉を寄せた。
「日向さん、これをドロップしたのは何色のスライムだったか覚えてますか?」
「ええと……確か……」
考えている私の横で由衣が答えてくれた。
「二階層の紫のスライムだったと思います」
「紫、ですか。ふむ……」
雪城さんがまた何かを調べ始める。
「確認しました。紫のスライムからはレアドロップが期待できるとの統計が出ています。空間ポーチは初めてのドロップですが、他のダンジョンではレア武器や上級ポーションなどの報告があるようです」
「やっぱりレアアイテムでしたか……」
「はい。これは良いものですよ。ストレージボックス持ちでなくても大容量の持ち運びが可能になります。これがあれば、探索が捗るのはまちがいないですね。では、こちらの買取価格ですが、基本的にレアアイテムは100万となってます。他のものも今簡単に査定しましたが、本日は全部合わせて155万でいかがでしょうか。」
「ひゃくごじゅうごまん……」
ボーナスでも見ない金額に思考がストップする。
「あの、雪城さん。基本的に買い取り金額は私たち三人で分けたいので、3人でちょうど分けられる額にしてほしいんですが」
雪城さんへの由衣の言葉に私も頷く。
だって今日からは、私たち三人は仲間なのだ。
「ちょっと待てよ、俺は何もしてないぞ」
「もちろん凪くんの今日のドロップ分も全部合わせてだよ」
「それでもそれじゃ俺の取り分多すぎるだろ」
「今日だけだよ。次からは三人で入るんだし。さくらどう?」
「もちろんいいよ。凪がいなかったら、今日絶対危ない目に遭ってたし」
押し問答の末、ポーチ含めて今日の買取は150万となり、1人あたり50万で分けた。給料2か月分が一日で……。
ただ、手持ちの電子マネーのカードにはその額は入りきらないので、三人ともギルドで発行している電子マネーのカードを作った。
最近、探索者に専念したいからって会社辞める若者が多くなったってニュースになってたけど、なんか分かるわ……。
でも三十路の私にはそんな度胸ないから、社畜しながら探索者は副業でやるよ……。




