第十五話 レアジョブの同級生
二階層のセーフティエリアで落ち着いたランチを終え、由衣と凪と三人でブルーシートの上に腰を下ろして、持ってきていたコーヒーを飲む。魔法瓶最高。まだ熱いくらいだ。
「ふぅ……やっぱりコーヒーとチョコは合うなぁ」
「ほんとほんと。由衣、準備いい」
「さくらがコーヒー好きなのは知ってるから持ってきた。凪くんも飲む?」
「ああ、もらう」
由衣が紙コップに凪の分のコーヒーも準備する。
まあ、私は毎日会社でコーヒー飲んでるの見られてるもんね……。
「凪、ほんとさっきはありがとう」
「いや、たまたま居合わせただけだ。ダンジョン内で他の探索者に絡むのはルール違反だからな」
少し間が空いた。周囲の探索者たちはそれぞれの休憩に集中していて、私たちの会話に気を取られる様子はない。
私は、ふと自分の胸の内を思い返す。
凪なら。凪にならスキルのことを少し打ち明けてもいいかもしれない。
……全部は明かせないけど。
「凪、ちょっといい?」
私の声に、凪が少し顔を上げる。
「ん?どうした?」
私は深呼吸をしてから言った。
「実は、私……ちょっと特別なスキルが発現しちゃって。『ストレージボックス』っていうんだけど……すごく容量が大きいの……」
凪の眉が軽く上がる。
「池袋ギルドで申請があったっていう国内最大容量のやつか。あれ、さくらだったのか」
「うん、そうみたい」
「はー、めちゃくちゃ話題のスキルの持ち主がお前だったとはなぁ……」
「知ってるのは、ギルドの人たちと由衣と凪だけ」
「そっか。俺を信頼して打ち明けてくれたんだな、ありがとう、さくら。じゃあ俺のも言わないとフェアじゃないな。
俺のスキルは、耐性貫通斬って防御しながら攻撃可能なスキルだ。で、ジョブだが二つある」
え、凪も二つ……?
「まず剣士。これは基本ジョブで割と多いな。でもってもう一つは、ドラゴンスレイヤーだ」
は……?
私と由衣が呆けた顔をしたものだから、凪が一瞬しかめ面をして、スキルウインドウを出してくる。
「ほら、見てみ?」
凪の目の前に浮かぶスキルウインドウを由衣と二人で覗き込む。
――
前川凪 32歳
ジョブ
剣士 Lv10
ドラゴンスレイヤー Lv1
スキル
耐性貫通斬(爆発的な防御力と攻撃力を併せ持つ)
HP100/100
MP10/10
ATK1500
――
「ATK1500……」
「ドラゴンスレイヤー……マジだ。てかやっぱりどこかのダンジョンにドラゴンっているの!?」
「声が大きいぞさくら」
「あ、ごめん……」
たしなめられて声を潜める。幸い、誰も聞こえていなかったみたいだ。
「今のとこ、ドラゴンは見つかっていないけど、探索者の中では、何人かドラゴンスレイヤーのジョブは発現してるみたいだ。俺はそのうちの一人ってことだよ。」
「……そっか。凪がドラゴンスレイヤー……」
私は改めて凪のウインドウの数値を見つめた。ATK1500。
冗談みたいなステータスだ。
「俺からしたら、さくらのストレージボックスのほうがうらやましいしほしいスキルだよ」
「え、なんで?攻撃力高いほうが絶対便利じゃん」
「いやいや。ソロでダンジョンに潜ってるとさ、荷物問題はだいぶ重要だぜ?」
凪は苦笑して肩をすくめた。
「ドロップ品を拾える量は限られるし、補給品も抱えていかないといけないしな。ストレージ系のスキルは、ソロだとほんとありがたいんだって。あーあ、俺にもストレージボックス発現しないかなぁ」
「……そういうものなんだ」
私は自分のストレージボックスの便利さを、いま初めて客観的に知った気がした。
「それにな」
凪は少し真顔になる。
「スキルもジョブもレアならいいってもんじゃない。扱えなきゃ事故るし、レベルも簡単には上がらない。だから……無理はすんなよ、さくら」
そのまっすぐな目に、思わず胸が熱くなる。
「うん……ありがとう、凪」
隣で由衣がほほえましそうに微笑む。
「え、じゃあさ。凪くん、私たちと一緒に行かない?さくらのスキルも使えるし、私、ジョブがスカウトで、スキルがマッピングだから使えると思うよ」
「こっちはスカウトでマッピングスキルかよ……。しっかり動くには最高だな。俺としちゃ、ソロが気楽だけど、2人のスキルに相乗り出来たら、三階層で行き詰ってるとこを突破できそうだなぁ」
「え、凪が行き詰ってるの?」
「ああ。俺は三階層はまだ降りた周辺しか行ってない。三階層はちょっと特殊でな。帰ったら公式サイト見てみろよ。池袋ダンジョンは五階層までしかないけど、下に行くほど厄介だぞ」
私たちは二階層までしか情報を入れていなかった。でも凪と一緒に行くなら、三階層以降の情報も必要だよね……。
「さくらとえっと、由衣?がいいなら俺としては助かるんだけど……」
「私はいいよ。さくらは?」
「うーん……。凪ならいいかな」
「じゃあ頼む。俺はギルドからできればソロはやめてほしい、って言われてたからありがたいよ」
数少ないドラゴンスレイヤーを失うわけにはいかないもんねえ……。




