第十四話 セーフティエリアでの再会
湧いてくるスライムを倒しながら、由衣のマッピングでたどり着いた二階層のセーフティエリア。
一階層と同じくらいの広さで、天井には光球が浮かんでいて明るい。
ここにも結構な人数の探索者がいた。
ブルーシートの上でランチタイムの人が多いのは、やっぱり時間的に昼時だからかな。
「ふぅ……やっと着いたね」
「うん……赤スライム、手強かったけど、なんとか撃破できたし。ここまで来るのに、だいぶ倒したから、エアガンも慣れて来たよ。今度、お兄さんにお礼言わないと。使いやすいのをありがとうって」
由衣にお礼なんか言われたらめっちゃ舞い上がりそうだな、お兄ちゃん……。
「とりあえずお腹すいたし、ごはんにしようよ」
「うん、さすがに疲れたしね」
ブルーシートに座って、カバンから飲み物を出す。
さすがにダンジョンに入るのに衛生環境分からないままお弁当作るのは無理だったから、おにぎりくらいだけど。
ダンジョンで活動するようになってやたらおなかすくんだよね。特に瘦せたわけでもないけど、とにかくおなかがすくようになった。
最近買った新しい五合炊きの炊飯器がフル回転してるよ。
ちょっとお高めのを思い切って買ったけど、いい買い物した~。
「由衣、おにぎり食べる?」
「え、食べる食べる!持ってきたコンビニのサンドイッチじゃ足りないな~って思ってたから助かる!」
ラップでくるんだおにぎりをぎっしり詰めたタッパーをカバンから出した時だった。
「うまそーなもん食ってんじゃん、おばさんたち」
私と由衣に影がかかり、見上げてみれば見知らぬ中年男性たちが私たちを見下ろしていた。
「俺たちも腹減ってんだよね。ちょっと分けてくれねえ?」
「お断りします、これは私たちの昼食なので」
毅然と由衣が言い返す。
中年男性の一人が肩をすくめ、にやりと笑う。
「おいおい、そんなに拒否るなよ。二人だけで食うのもったいないだろ?」
(まずい……引き下がる気配なし……)
由衣も私も少し後ろに下がる。
そのとき、背後から軽快な足音が響いた。
「おっさんたち、何やってるのさ」
振り向くと、知っている人だった。
凪が、すっと男性たちの前に立つ。
「凪……!」
「さくら、ここにいたんだな。おっさんたち、おばさんじゃなくておねーさんたちだろ。あんま俺の知り合いに失礼なことするなら俺が相手するけど?」
男性たちは凪の圧に押され、思わず後ずさりして引き下がる。
セーフティエリアの他の探索者たちもちらりと見て、状況を察したのか、彼らとの距離をとった。
「凪……助かった……ありがとう」
「たまーにあんな絡んでくるのがいるから気をつけろよ。防犯ブザーは持ってんだろ?こういう時は迷わず鳴らせ。ダンジョン内での絡みは立派に迷惑行為だからな」
「うん、次はそうする」
そういや、ギルドでもそう言われたっけ……。完全に頭になかった。
防犯ブザーまで考えが及ばなかったよ。
むしろおにぎりあげたら終わるかな、とか一瞬考えちゃった。
「ねえ、さくら。知り合い?」
由衣に袖をつかまれて思い出す。そうだ、この2人、初対面だ。
「あ、うん。紹介するね。こっちは前川凪、私の高校時代の友達で、ダンジョン内では今見て分かる通り、頼れる探索者だよ」
「おいさくら、ダンジョン内ではってなんだよ」
「……ダンジョン外での凪の普段を知らないもん」
「……ま、そりゃそうか。で、そっちは?」
「この人は佐伯由衣さん。私の会社の同僚で、友達。一緒にダンジョンに入ることになったの」
「よろしく、佐伯さん」
「はい、よろしくお願いします」
「ありがとう、凪、改めて助かったよ。良かったら一緒にごはんどう?」
「うわマジか、助かる。一応持ってきてはいるんだけど、ぜってー足りないって絶望してたとこ」
「絶望って大げさだなぁ。5合炊いて、全部おにぎりにしてきたから、凪も良かったらどうぞ。いい?由衣」
「もちろん。助けてもらったし。前川さん、ソロですか?」
「ああ、俺はずっとソロ。何回かパーティはいってみたこともあるけど、ソロのほうが向いてるなっておもってさ」
凪が私の隣に腰を下ろす。
私はおにぎりを手に取り、由衣も笑顔で食事を始めた。
二階層のセーフティエリアでのランチタイムは、予期せぬハプニングで少しドキドキしたけれど、凪がいてくれたおかげで、やっと落ち着いて食べられそうだ。
今日は後2回20時と21時に更新します。




