第十三話 二階層で初めての連係プレイ
由衣の見つけたショートカットの下り坂を抜けると、広いフロアに出て、ひんやりした空気が頬を撫でた。
「……ここが、二階層……?」
ほんのり明るいだけの一階層と違い、二階層はわずかに青白い光が漂っていた。壁の亀裂から淡く光る苔のようなものが生えていて、視界は思ったより明るい。
「ねえ、さくら。音、聞こえる?」
「音……?」
耳を澄ますと、ぴちゃ、ぴちゃ、と水滴の落ちるような音が遠くから響いてくる。
「この階層から色違いや属性もちのスライムが出るんだよね……」
「うん。公式の情報は頭に入れて来た。さくらは?」
「私も。お互い分からないことがあったら大声で叫んで、答えが分かったら答えを大声で叫ぶ形でいこうね」
私たちの戦い方。
それは情報を事前にできるだけ入れてきて、戦闘中に分からないことは大声で叫びあってフォローする、というもの。
一人だと分からなくてパニックになっても二人ならフォローしあえるはずだと。
由衣はエアガンを構え、私の前に立つ。
私はといえば、同じくエアガンを構え、ストレージボックスをいつでも開けられるようにイメージしておく。
「よし、慎重に行こう」
少し進んだところで——。
「……あ」
由衣の声が小さく漏れた。
視界の先で、三つの影がぴょこん、と揺れる。
一匹は青色。一匹は黄色。そしてもう一匹は——真っ赤。
「赤スライム!?」
「ええと……確か、赤は毒を吐くやつ……!でもスピードは遅い!」
「青は一階層にいるのと同じやつ!黄色は移動スピードが速い!」
由衣が眉を寄せ、すぐに距離を詰めないよう手を伸ばしてくる。
スライムたちは、三匹揃ってこちらにぷるん、と跳ねた。
(……来る!)
「——由衣、青と黄色は私がやる!赤いのお願い!」
「了解!さくら、お願いね!」
スライムたちは意外なほど素早く、地面を滑るように近づいてきた。
「ストレージボックス、オープン!」
私は手を振ると、空中に薄い白い枠があらわれ、そこから準備していたアイテムを取り出す。
昨日、由衣と相談して買った公式から販売されているスライム専用滑り止め粉。ここに来る前にギルドの購買ショップに寄って買ってきた。地面に撒くとそこに乗っかったスライムの動きが鈍くなるらしい。
「これでっ!」
私と由衣の前に真っ白な砂のような粉を撒くと、至近距離にいた青と黄色がバランスを崩して滑りながら速度を落とした。
そこをガンちゃんを構えて撃ち抜く。
スライムの核を的確に撃破して青と黄色のスライムは光の粒子になって消えた。
「ナイス!じゃあ赤は私が——!」
由衣が赤スライムに向かって引き金を引く。
パンッ! パンッ! パンッ!
乾いた音とともに、BB弾が赤スライムの中心部に吸い込まれていく。
赤スライムは反撃しようと体を大きく膨らませた。
毒を吐く!?
と緊張した瞬間、由衣が背中から警棒を抜いた。
赤スライムが跳び上がった瞬間、由衣は一歩横にずれ、伸ばした警棒を抜いて振り抜いた。
パァンッと水風船を割ったような感触とともに、赤スライムは半分に割れ、光の粒となって消えた。
ドロップしたのは、赤い石?
「よし、赤も撃破!」
そこに静寂が戻った。
「……ふぅ……」
「さくら!」
由衣がこちらに駆け寄り、肩に手を置く。
「初めての複数戦、大勝利だね!スキルの使い方、完璧じゃん!」
「由衣の方がすごかったよ!赤スライム、強敵だったのに……!」
「まあねー?私、今日からガンナーだし?」
エアガンを手に、胸を張って笑う由衣につられて、私も笑った。
二階層、怖かったけど——。
(……すごい、楽しいかもしれない)
それは一人じゃないからだ、きっと。
「そういえば、由衣。これ……ドロップしたやつ」
私は地面に残った赤い石を拾い上げ、指先で軽くなでた。ビー玉くらいの大きさで、ところどころ黒い筋が走っている。
「うん……赤スライムからドロップするのは、火の属性の魔石が多いって書いてあったね」
「鑑定、どうする?一応公式の鑑定所でいいよね」
「うん、後で一階層の出口受付の簡易鑑定でやってもらおう。すぐ鑑定できるし」
ギルドが作り出した簡易鑑定システムのおかげで、鑑定スキル持ちでなくても、ドロップ品の鑑定がすぐにできるようになったのは良かったなと思う。
由衣のカバンにドロップ品をしまい、私たちは続けて二階層の探索を進めることにした。
目指すは二階層のセーフティエリアだ。お腹が空いたんだよ!




