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第十話 レアスキルだったらしい……

「あの……私、何か間違ったこと書いてましたか?」

 おそるおそるお姉さんに言うと、お姉さんが困った顔をして否定する。

「いいえ、そういうわけではないのですが……」


 そんなお姉さんの後ろから、眼鏡をかけた男性が現れた。


「こんにちは。日向さくらさん、ですね?」

「……は、はい」

「そんなに緊張しないで大丈夫ですよ。書いていただいたスキルで確認したいことがあるだけです」


 眼鏡の男性――ギルド職員らしい人は、柔らかい笑顔を向けてきた。


(え、まさか書いてないアレコレがバレた!?いやでも、書いてないからバレるわけ……ないよね!?認識阻害があるから鑑定されても見えないってことだし……!)


 私が内心で慌てていると、彼は手元のタブレットを軽く叩きながら続けた。


「日向さん『ストレージボックス』の発現、これは本当ですよね?」

「え、はい。本当ですけど……あの、そんな珍しいものなんですか?」

 私の問いに、男性は頷いた。

「ええ、とても。今現在、国内で確認されている『ストレージボックス』持ちは……実は、日向さんを含めて20名だけです」

「えっ!? 20名!?」


 探索者はもう今朝の段階で確認したら150万人以上いるのに!?

 思わず大きな声が出て、カウンターの中にいる受付の人たちがちらっとこちらを見る。

 私は慌てて口を押さえた。


「す、すみません……そんなにレアなんですか?」

「はい。空間系スキルは発現率が0.001%弱と言われていまして。中でも『ストレージボックス』は実用性が高い上に戦闘補助にも物流にも応用できるので、ギルドとしても重要スキル扱いなんです。それから他のスキルについてですが、鑑定スキルは割と多く発現しているスキルです。それと、命中スキルはガンナージョブが発現した方はほぼありますね」


 鑑定スキルはありふれたものだったか。そういや会社でもだれか鑑定スキル出たって話してたな……。命中スキルも目立たないスキルっぽいな……。でもストレージボックスのほうがなんかえらいことに。

 

「あの、レアスキルだと何かまずいんでしょうか……?」


 なんだかよく分からないけれど、私、ヤバいスキル持ってた……?

 男性は淡々と説明を続ける。


「いいえ。まずいことなどありませんよ。確認したいのは、ストレージの“収納容量”です。失礼ですが、この場で試していただけますか?」

「あ、はい。分かりました」

「では、こちらの……」


 男性が机の横から、謎の金属製の箱を引きずってくる。

 見た目は会社で使う書類を片付ける時に使う段ボールくらいのサイズだ。


「これをストレージに入れてみてください」

「えっ、これ全部ですか?」

「はい。重量は50キロほどありますので、お気を付けて」


 50キロ!?

 そんなもの現実で持てるわけが――


「……ストレージボックス」


 私はそっと箱に手を触れ、意識の中でスキルを発動する。

 なんていうか、パソコンで使うカット&ペーストを意識した。

 ここから箱を切り離して、貼り付け、と。


 すると次の瞬間、シュッ、と空気が吸い込まれるような感覚があり目の前の金属箱は跡形もなく消えた。


「はい、入りました」


 私は何気なく返したつもりだったが、男性と受付のお姉さんが固まっていた。


「……え?」

「……嘘でしょう……?」


 空気が止まった。


 なんか……私、変なことやった?


「ひ、日向さん。収納容量は……どれくらい、まで可能ですか?」


「収納容量?あ、数字とか出るんですか?ちょっと見てみますね」


 意識を向けると、ウインドウがひょいっと浮かんだ。


 ――

 『ストレージボックス』

 収納容量:500キロ(現在10%使用中)

 ――


「……容量、500キロ、です……」


 私の申告に男性が眉を寄せた。

 え、少ないの?


「500キロ、ですか……」

 

 お姉さんも口に手を当てて目を丸くしていた。


「日向さん。収納容量500キロは現段階で確認されている中で最も大きな容量です」

「えっ、そうなんですか?でも私、今日初めてダンジョンに行ったただの初心者で……」

「いえ、これは国家レベルで重要な……いえ、まずは正式登録を優先しないと」

「あの、今入れたのだしていいですか?」

「あ、はい、どうぞこちらの床の上に」


 私はストレージボックスから箱を出した。ドン、と音がして床に箱が出現する。


「それから、ドロップは低級ポーションが2つと魔石(小)が1つということでいいですか?」

「ませき?」

「はい、この小さな石です。現在、国の研究機関で研究を進めているものなので、できれば買取をさせていただきたいのですが……」

「この石をですか?」

「はい。ポーションのほうは、次回のダンジョンで必要になるかもしれないのでお持ち帰り下さい」

「わ、わかりました……」

「では魔石のみ買取いたします。本日のレートはこの大きさ、重さで一つ1万円になります。お支払いは電子マネーになりますが、今お使いのものがあれば、即手続きいたしますが……。今後、買取額が大きくなれば、既存のものでは足りなくなることも考えられますので、いずれ振り込みかギルドで発行予定の電子マネーカードを作ることも検討してください」


 え、こんな指先ほどの小さな石が1万円!?


「あ、じゃあ今日はこの交通系ICカードでいいですか?」

「はい」


 会社の定期で使っているのを出すと、すぐに入金してくれた。


「日によってレートも変わりますのでその辺りは公式サイトで随時ご確認ください。それではまたダンジョンへいらしてくださいね」


 男性が私に、何度も丁寧に頭を下げる。

 自分より年上の人にそういうことされるの落ち着かない……。


「日向さん、今後、ご協力をお願いすることがあるかもしれません。もちろん安全面はこちらで全て保証しますし、報酬もお支払いします。税金に関しても、現在国会で審議中ですが、探索によって得た利益にはさして税金はかからないと思いますので」

「え、ええ……と、とりあえず今日はもう私いっぱいいっぱいで……」

「はい。今日はお疲れさまでした」


 男性は深呼吸して、残りの手続きを進めてくれた。

 探索者カードにジョブとスキルが加えられて返される。

 ただ、落としたりして他人に見られても問題ないように、ストレージボックスだけはICチップのみに記され、カードを見ただけではストレージボックスのスキルは分からないようにしてくれたらしい。

 私はカードを受け取っても、まだ放心していた。


(ストレージボックスって……そんなにすごいスキルだったの……?)


 カウンターを出て、ふらふらしながら待合室へ向かおうとすると、後ろから聞き慣れた声がした。


「あれ? 日向さん、もう終わった?」

「佐伯さん……!」


 助けを求めるように振り返ると、佐伯さんは不思議そうに私の顔を見た。


「どしたの、そんな顔して。何かあった?」

「えっと……なんか……私……レアスキルだったらしいです……」

「は?」


 こうして私は、知らないうちにちょっとヤバいスキル持ちになってしまったのだった。


今日は後二回、20時と21時に更新予定です。

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