第九話 スキルとジョブの申請
「いやー……本当に死ぬかと思ったわ……」
佐伯さんが水を飲んで、胸に手を当て、深いため息をついた。
「後ろから襲ってこられて、ぐらっとしたのよね。油断してた」
「スライム、あんなに危険なんですね」
「そうなのよ。弱い魔物だからって油断してたら、あれよ。スライムで窒息死なんて嫌すぎるわ。本当にありがとう、日向さん」
「いえいえ。スライム引っぺがしてエアガンで撃っただけです」
「エアガンが武器なの?」
「はい。サバゲ―好きの兄からもらったのがあったので。無我夢中でした」
佐伯さんは苦笑しながら自分の首元をさすった。
「そういえば日向さん、ジョブは何になったの?」
ええっと、聖女、を言うのはまずいよね。なら、こっちだ。
「えっ……と、その……『ガンナー』でした」
「ガンナー!?あ、それでエアガン?」
「いや、単純に自前で持ってて武器になりそうなものがこれしかなくて」
「私はね、スカウトだったの。軽戦士系みたい」
そう言って、彼女は自分のウインドウを出し、見せてくれた。
――
佐伯 由衣
ジョブ スカウト Lv1
スキル マッピング / 気配察知(微)
HP10/10
MP10/10
ATK10
――
「ちなみに武器はこれ」
と見せてくれたのは、伸縮式の警棒だった。
「スライムは打撃が有効って情報があったから、これを買ったの」
「いいと思います」
「でも日向さんのエアガンもいいね。スライム相手なら遠距離で行けるのもいいなぁ。私も買ってみようかな……」
「あ、だったら、うちの兄がたくさん持ってるので、使ってないのあったらもらってきますよ」
「私じゃ良しあしが分からないし、じゃあお願いしようかな。使い方も教えてもらえる?」
「私で良ければ。あ、そうだ、佐伯さん。マッピングってどういう感じのスキルなんですか?」
「実際に歩いた範囲だけだけど、脳内に地形が浮かぶの。抜け道とか、袋小路とか、隠し部屋とか、通路の幅まで全部わかっちゃう。かなり便利よ」
「めちゃくちゃ便利じゃないですか……!」
「でしょ。これがなかったら、たぶん私、もう戻れなかったわ」
さらっと言われた言葉が少し重くて、私は思わず黙った。
「……あの、佐伯さん。今日って一人で来たんですか?」
「うん。先に始めた友達誘おうと思ったけど、初ダンジョンで足手まといになるの嫌だったから」
「一人で来た結果、スライムに……」
「やめて、その通りすぎて刺さる……」
二人して思わず笑ってしまう。
魔物のいるダンジョンの中だとは思えないほど、空気が穏やかだ。
「日向さんは?一人で来たの?」
「はい。興味あったので、とりあえず登録して……」
「私も同じ。まさか同じ日に同じダンジョンに来て、同じ階層で会えるとはね」
「ほんとですね」
しばらく休んだあと、佐伯さんが立ち上がった。
「そろそろ戻ろうかと思うんだけど……日向さんは?」
「私も、今日はここまでにして帰ろうかなって」
「じゃあ一緒に帰りましょう。出口ポイントまで案内するわ」
「助かります。正直、1人じゃ出口までの方向も不安でした」
「それ、調べてみたら結構言われてるみたいなんだけど、ダンジョンの中に方向の立て札立ててもスライムに捕食されちゃってダメみたいでね……」
「スライムって雑食なんですね……」
佐伯さんが私の言葉に笑う。
さっきまで危なかった人とは思えないほど、すっかり元気だ。
私は荷物を整えながら、ふと胸の奥で小さな安心を感じていた。
(……探索者の世界、不安だったけど。知ってる人がいるって、ちょっと心強いな)
こうして私たちは、セーフティエリアを後にして出口へと向かった。
出口に向かうまでに何匹かのスライムと遭遇したけど、私のガンちゃんの前に完全沈黙だった。ドロップがなかったのは残念だ。
池袋ギルドに佐伯さんと戻ってきた私はまず、スキルとジョブの申請をすることにした。
併せてドロップ品があれば申請が必要だということでそれも申請書を書く。
佐伯さんに使ったものを除いて、低級の回復ポーションが2つと小さな石1つが私の今日のドロップ品だ。
佐伯さんもしておかないと、ということでお互い待合室で申請書を書く。
佐伯さんも小さな石を2つドロップしたらしい。
うーん……聖女(?)は書くべきかなぁ……。
いやこれは書かないほうがいい。
ジョブはガンナー、スキルはシール貼りと聖魔法以外全部、と。
佐伯さんとはカウンターは別だったので、それぞれ番号が呼ばれるのを待合室に用意されていたお茶を飲みながら待った。
「5285番」
無機質な音が響き、佐伯さんが立ち上がる。
「じゃあ行ってくるわ」
「はい」
「ここを出たら一緒に晩御飯食べに行かない?もう夕方だし」
「行きます。じゃあ終わったらここで待ち合わせで」
「ええ」
佐伯さんを見送ってすぐ、私も番号を呼ばれたのでカウンターへ向かう。
間仕切りの向こうには笑顔の可愛らしい女性がいた。
「お疲れさまでした。登録者カードを見せてください」
「はい」
私はカバンの中から探索者カードをカウンターに出した。
「ありがとうございます。ではスキル・ジョブ申請書を」
「はい、これです」
私の提出した申請書をまじまじと確認した受付のお姉さんが何やらインカムで話をしている。
「ええ、はい。……確認が必要かと思われます」
なんだなんだ?
「日向様。申し訳ありませんが、少々お待ちください。スキルとジョブの確認をさせていただきます」




