第5話 : どこで無双すればいい?~“異世界”に最も近い場所を探して
異世界転生ものの舞台を、現実世界の発展途上国に置き換える――。
しかし、どの国でも無双できるわけではない。
文明ギャップがあり、かつ安全に生活できる場所を探すことが最初の壁だ。
果たして、現実の“異世界”はどこにあるのか?
主人公が、地図とネット情報を片手に「転生先」を探す挑戦が始まる。
「さすがにアフガニスタンとかはやめとこうな」
深夜のパソコン画面に映るのは、外務省の海外安全情報。
赤やオレンジで染められた世界地図は、まるで「このへんで異世界転生するのは無理ゲー」とでも言わんばかりだ。
主人公――俺は真剣だった。
異世界転生モノのテンプレをリアルでやる。そのために、俺は“無双できる国”を探している。
求める条件は明確だ。
•文化やインフラが日本より大きく遅れている
•インターネット環境が不安定、もしくは未整備
•教育水準が低く、簡単な技術でも「すごい」と思ってもらえる可能性がある
•かつ治安は安定していて、外部からの訪問者もそこそこ受け入れられている
「つまり、現代日本の知識とアイテムが—が“魔法”に化ける場所ってわけだな」
行き着いたのは、東南アジアの某国だった。
国名までは伏せる。伏せるというか――これから数ヶ月で絞り込んでいく予定だ。
今はとにかく、「文明ギャップで無双できそうな空気」がそこにあるということが重要だった。
現地の村には、電気は届いていても水道が不安定。
ネットは通じるが速度は壊滅的で、スマホは普及していても使いこなしてる人は少ない。
トイレ文化も日本と比べれば……正直かなり厳しい。
「携帯ウォシュレットが神扱いされる世界、か……悪くない」
笑みがこぼれた。
ネットで旅行者の体験談を読み漁り、バックパッカーのYouTuberの映像を見て、現地語の翻訳アプリも試す。
気づけば深夜3時。
部屋の壁に貼った世界地図に、赤ペンで小さな丸を付けた。
「ここが、俺の“転生先”だな」
どこかの異世界ではなく――現実世界の“異世界”。
ファンタジーではないが、俺の知識とアイテムで無双が可能な場所。
「待ってろよ。魔王もダンジョンもいないが、俺が“伝説”を作ってやる」
その目には、本気の輝きがあった。
異世界ではないが、チートは持っている。
そして今、主人公は舞台を選んだ。
理想の舞台を探す旅は、想像以上に難しい。
治安、文化、インフラ、ネット環境――条件は数多く、妥協も必要だ。
だが、ここが現実の“異世界”になる。
自分の無双物語は、まだ始まったばかりだ。
この場所で、何が起きるのか。期待を胸に、次の一歩を踏み出す。