第4話:どこが異世界なんだ?
異世界転生モノを現実世界でやるには、そもそも「どこの国で無双するか?」という最大の課題がある。
ファンタジーのように勝手に召喚されるわけでもなく、自分の足で渡航し、現実の文化ギャップをチートに変える場所を選ばなければならない。
今回は主人公が、“異世界テンプレが成立しそうな国”を本気でリサーチする回です。
「問題は、どこの国に行くか、だ」
寝間着のまま、パソコンの前に座り込んだ俺は、検索エンジンに向かって独りごちた。
いくらStarlinkと便利グッズを詰め込んだバックパックを用意しても、肝心の“異世界”がなければ始まらない。
異世界転生アニメなら、事故ってトラックに轢かれたら異世界に行けるが、こっちはチケット取って税関通って、入国審査をくぐらなければならない。
「文明レベルが低くて、治安は悪すぎない。物価が安くて、ネットが届けばいい。あと、英語か翻訳アプリが通じそうな国……」
条件を洗い出していくと、驚くほど現実的なパラメータになっていた。
異世界チートものの要素を成立させるには、こちらが持ち込む“現代日本の技術”にギャップが生まれる環境でなければならない。
つまり、スマホを見せれば「魔道具!?」と驚かれ、ウォシュレットを差し出せば「水の神の恩恵だ……!」と拝まれるくらいの場所。
でもそれって、言い換えれば――
「発展途上国じゃん……」
俺は地図アプリを開き、Google Earthで世界中を飛び回るようにスクロールし始めた。
アフリカ、アジア、南米……。
水道が整備されていない地域、電気が不安定な村、都市部と地方の差が極端な国々。
「ルワンダ……。内戦の記憶があるけど、今はアフリカのITハブか。光ファイバーまであるらしい。Starlinkも届くな。
ブータン。国民総幸福量が有名だけど、山間部は未電化の村も多いらしい……“神の国”って扱いで登場させたら映えそうだ。
でも治安や渡航ハードルもあるし……うーん」
たとえばカンボジア、ミャンマー、ウガンダ……
だが、情勢が不安定な国は除外だ。下手すりゃ異世界どころか、帰って来られない。
海外支援を行っているNGOやJICA(国際協力機構)のサイトを見ながら、現地での生活やインフラ整備の現状、衛生環境などを確認する。
元・青年海外協力隊の日本人が書いたブログ記事を読み、現地の村の様子がYouTube動画で配信されているのを見つけては、食い入るように再生した。
国選びの基準は、“チートの映える文化レベル”と“命の危険が少ない治安”と“ネット接続の可能性”。
Starlinkのグローバルサービス展開マップも確認する。
「ここは通信衛星が飛んでるからネットはOK。ここは……電力事情が不安。でもソーラーパネルを使えば――」
妄想じゃない。現実だ。
俺は真剣に、“リアル異世界”を探している。
そしてその果てに、かつて日本人が訪れて何かを残したという村が存在する可能性すら、否定できない。
「よし、まずは現地で活動してる日本人のレポートを読もう。次に、現地の生活水準とネットインフラの調査。それと……英語がある程度通じる国を優先だな」
地図と論文とレポートが並んだ俺のディスプレイは、もはや“異世界召喚の魔法陣”にも見えた。
ワンクリックで異世界には行けないが、ワンクリックからすべてが始まる時代なのだ。
画面の端に映ったStarlink端末の写真を見ながら、俺はつぶやいた。
「どこでもネットがつながる時代。つまり、どこでも俺は“チート”になれるってことだよな……」
ご覧いただきありがとうございました!
今回はファンタジー設定のようでいて、実は一番リアルな“世界選び”を描いてみました。
現地の文化、ネットの有無、衛生や治安……どれをとっても日本とは異なる現実が広がっています。
だからこそ、Starlinkのようなガジェットが「魔法」に見える土壌がある。
次回はいよいよ、目的地の絞り込みと「本当に行くのかどうか」の決断フェーズに入ります!