第3話 : 無双スターティングパック(仮)
異世界転生ものに憧れた主人公が、現実世界で“俺つぇー”を実現すべく本気で準備を始めます。
今回は、日本の文明チートアイテムを「無双スターティングパック(仮)」として選別する回。
深夜アニメで学んだ“チート”をリアルでやるなら、持ち込むのはスキルじゃなくて道具と知恵――
そんな現実と妄想の境界ギリギリを攻めていく、準備編です。
部屋の床一面に、生活用品がずらりと並んでいた。
Starlinkの小型アンテナを中心に、100均で揃えた掃除用品、防水ケース、LEDライト。養生テープと瞬間接着剤は二軍どころか最前線のスタメン。さらにポータブル浄水器、携帯ウォシュレット、サランラップにアルミホイル、紙おむつに使い捨てカイロまで。あらゆる想定に対応する、無敵のラインナップだ。
「まさに現代日本が誇る、“生活系チートアイテム”の祭典……!」
俺は、手帳に〈無双スターティングパック(仮)〉と大きくメモをつけた。
Starlinkの小型アンテナを手に取ると、無意識にニヤける。
「……アメリカ製だけどさ、これはもう“天と地を繋ぐ魔導具”だろ。Wi-Fiがあれば、翻訳も地図も教育も、ぜんぶ俺の武器になる」
並べ終えたアイテムをひとつずつバックパックに詰めながら、何を持っていき、何を日本に置いていくか選別していく。
旅人用のポーチには、すぐ取り出したい応急キットや通貨入れ、そしてマルチツール。カーゴパンツのポケットには養生テープを巻いた芯無しロールと、コンパクトな裁縫セットを忍ばせる。多機能ベストには軽量のLEDライト、ソーラーパネル付きの充電器、そして紙おむつを数枚圧縮パックで仕込んだ。
「リアル無双ってのは、ファンタジーと違って物量戦だな……!」
PCモニターには深夜アニメの録画再生画面が止まっている。男女混成パーティの中、唯一の男性主人公が、知識チートと魔力量無制限で最強の座を築いていく展開だ。
俺は画面を振り返り、笑った。
「ついに俺の番だ。舞台は異世界じゃないけど、日本より文化レベルが低ければ――俺は無双できる!」
俺は強く確信していた。
言葉の壁? 翻訳アプリと身振り手振りで何とかなる。
生活インフラ? アイテムと工夫で乗り切る。
チートスキルはないけど、日本の知識とモノがある。
俺なら、できる。現地の誰よりも目立ち、驚かせ、頼られ、そして――
「現地の美少女たちに『すごい!』『あなたは神様?』って言われたいんだよなあ……」
自分でも笑ってしまうくらいストレートな願望だ。でもそれでいい。
異世界転生モノに憧れた俺が、自分の足でやってみる、現実版の俺つぇー無双物語。
いよいよ、第一歩が始まろうとしている。
今回の話は、異世界転生テンプレにおける“最初の買い出し”をリアルにやったらどうなるか?という試みでした。
家にある便利グッズ、100均アイテム、災害用のサバイバル道具など……
「現代日本の生活水準の高さ」を、改めて感じさせられる回でもありました。
次回はいよいよ、舞台となる国の選定と、渡航のための情報収集編に入ります。
果たして、異世界テンプレを地球でやるにはどこが最適なのか?
“世界をリサーチする旅”が始まります。